株式会社ミキモトの営業職としてバリバリ働いていた私は、ある雑誌の特集ページに目がとまった。
「アメリカから来た新しい女性向けの仕事〝コーチング〟」
詳しく読んでみると、コミュニケーション関連の仕事らしい。その中でも私が驚いたのが
「年収1千万円――!!!」
管理職として毎晩10時近くまで残業してもそんなにもらえないのに、いったいコーチングとは何ぞや? 特にコミュニケーションに困っているわけではないけれど、いまの上司だけはみんなに嫌われているし、ちょっと変えてやりたい。よーし! 新しいもの好きの私は心を惹かれコーチングの世界へと入っていった。
初めて受けたコーチング研修では、話の聴き方や断り方などを学び、実際にコーチもつけてもらった。
ここで私がいちばん感じたことは「私って人の話を聞いていなかったんだ」ということだった。聞いているつもりで、「どう言い負かしてやろう」と常に自分が次に言うことばかり考えていた。40歳過ぎて、こんな初歩的なことに気付くなんて驚きだった。
考えてみれば上司にも「お前はおれをバカにしているだろう!」とよく言われたっけ。その時は「そんなこと思ってない!」と思ったけど、いま考えると、しかめ面で話を聞いていたものなぁ。
コーチングを学ぶにつれて、だんだん救われていくような気持ちになった。私にもいろいろと欠点があったけれども、これさえ学べば必ず良くなる! そう思うと、楽になるのが自分でもわかった。
研修を終えていちばん変わったのが、自分を許せるようになったことだ。できない自分、理想とちがう自分、思い通りにならない自分に直面するたび「こんなんじゃダメだ!」と思いがちだった。でも、コーチングを受けてそんな自分も素直に認めてあげられるようになった。
意識的に変わったつもりはなかったのに、周囲からも「変わったね」と言われるようになった。今までよりもずっと前向きに物事を考えられるようになった。
独立するつもりはなかったけれども、親の介護をしなくてはならず、コーチから「退職して、独立すれば?」と言われたのをきっかけに、会社を辞める決意をした。最後にイヤだった上司から「君には色々とつらい思いをさせたね」と言われた時は感動した。
思い通りにできなかったり、自分の考えを押し付けてしまったり、明日もちゃんと仕事にありつけるか不安になったり、いろいろなことがあったけれども、今でも忘れられない
言葉がある。それは私が初めて受け持ったクライアントさんが言ってくれた言葉だ。
「周囲から、変われ、変われと言われ続けてつらかった。でも、浦井さんと話して、変わらなくてもいい、別のやり方を見つければいいと言ってもらえて本当に楽になった」
彼は年配で役職もある会社員だったけれども苦しんでいた。その彼が言ってくれた言葉は、仕事に迷った私をいつでも初心に帰らせてくれる。
今はコーチだけでなく、企業研修や勉強会なども行っている。若者や主婦、ビジネスマンなどさまざまな人たちにコーチをしてきた。いきもくや日本コーチ協会 東京チャプター(JCAT)など組織的な活動も行っている。
コーチングを通じて思うことは、みんな「誰かの役に立ちたい」と思っているということだ。多くの人が、部下や子どもを助けたいと思い、私にアドバイスを求める。
クライアントさんの思いや目標をかなえるために、私は10年以上尽力してきた。しかし、最近の私の思いは少しずつ変わってきている。
目標を達成することも大事だけれど、目標設定そのものは本当に合っているの? 会社や親の押し付けではない? 本当に自分の使命やビジョンに沿った生き方をあなたたちはしているの?
今の私はそこから問うていきたい。その人がより、自分らしく輝いた人生を送るために、不可欠なことだと思うから。自分らしく生きることさえできれば、億万長者になれなくても、人は楽しく生きることができる。
私だって落ち込んだり泣いたりすることもあるけれど、そのぶん笑って生きていこうと思う。せっかくこの世界に生まれてきたのだから。
