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佐野洋子先生の遺作となった本。
表題エッセー「死ぬ気まんまん」は5つの作品からなる。私はその4本目のくだりが好きだ。

4本目では自身のミーハーぶりを著述。
ジュリー(沢田研二)のコンサートで幸せを味わうことや、カラヤンのコンサートで音楽云々よりもその男ぶりに驚き、自慢のネタにする話など、ミーハーであることの幸福人生を語るくだりがとても軽妙だ。

でありながら、前半では「もうすぐ死ぬと思うと、やる気など、からっきしなくなる。仕事だけではない、この世のあらゆるものにやる気がなくなる。」とも書いている。

死と向き合い、やる気を失いながらも彼女を奮い立たせていたのはミーハー精神だ。ミーハーであることで心をときめかせ、ジュリーのコンサートでは癌の痛みをも乗り越え、「素晴らしく幸せだ」と思う時間を得ていた。
ミーハーな心が佐野さんの生命を力強く支えてきた。それがわかるエッセーだ。

そんなことを感じさせながら、5本目のエッセーは、貧乏だった子供時代をひもとく。
家族が「スコンスコン」と何人も死んでいく壮絶な様を淡々と描く。
彼女の死生観が作られた過程が明かされる。

佐野洋子さんはもちろんイラストも素敵だが、エッセイストとしての真髄は壮絶な体験を乗り越えた上での軽やかさにあるなと思った。