ある友人の話。彼が自殺する半月ほど前、飲み会の席で私に熱く「悩むな考えるんだ」を説いていた。あれがシグナルだったのかなあ。だとしたら教訓は救いにもなるけど自分を追い込む凶器でもある。人は教訓なんかじゃ救えない。人の文脈はそんなに簡単なものじゃない。
— 中村文昭@たいわや代表 (@jvl1S96EYxZz7R0) November 8, 2020
暗い話で申し訳ない。
もう10年以上も前の話だけど友人が自殺した。
彼は、ある大手企業のスピンオフプロジェクトに転職していたんだけど、その後、しきりに「一緒に飲みにいこう」と誘うようになった。
とは言え、飛行機に乗らなきゃ行けない場所である。
「まあ、そっちに行った時にね」と返事を延ばしていた。
そしてやっと飲みに行けたのが亡くなる一ヶ月くらい前だった。
相変わらず生意気な男で、自分がいかにすごいプロジェクトに関わっているのかの自慢話から始まったのを覚えている。
少々気になったのは、時々携帯を気にしたり、そわそわしていたことだ。
彼は「明日も早いから、あと1時間くらいで終わりにしよう」とも言っていた。
だから、こちらも「お互いの近況報告程度で切り上げるか」くらいに思っていた。
でも、彼の自慢話は止まらない。
1時間ほど自慢話を聞いたところで、こちらから「新しいメンバーとはうまくやっている?」と聞いてみた。
するとちょっと暗い顔になり「実はうまくいってないかな…」といった話をしだした。
でも、すぐに前言を掻き消すように「いやいや、みんないい人で良くしてもらっている」と言い直したりした。
「うーん、なんか変だな」
もうちょっと聞こうとすると、スルッとかわして、また自慢話をするといった具合だった。
「まあ、新しい職場だからいろいろあるんだろ」。
何かストレスを抱えているのは分かったけど、それ以上は聞かなかった。
ところが、だんだん酒が進むにつれ、聞いてもいないのに「実績さえ作ればなんとかなる」「やり方さえつかめば何とかなる」みたいな話をしだした。
そして、何度も「悩むな、考えるんだ」と語った。
ちょっと気にはなった。
でも、ここでも「まあ、酒の席でくどい話はつきものか…」くらいに流していた。
彼はけっこうバイタリティがあり、今までも何か壁にぶつかるとそれを乗り越えてきた男だ。
また、負けず嫌いな性格を考えると、下手に相談に乗っても反発するだけなのも分かっていた。
だから、適当に「分かる分かる、サラリーマンは人間関係の悩み多いよね」みたいな相槌を打っていた。
そんなこんなでけっきょく終わったのは12時を回っていたと思う。
まあ、よくある中年の酒飲み話だったかな。
ところが1か月後、彼は自殺したのである。
とっさに「新しい職場が原因じゃないか」、飲み会での雰囲気から察するに、きっとそうだと思った。
彼の仕事は不動産関連だったんだけど、人脈も無いし、土地勘の無い場所で、相当苦労したことは想像できる。
負けず嫌いな彼のことだから社内の人たちとも衝突があったに違いない、などと想像した。
でも、そうでもなかったようだ。
彼の実家に線香を上げに行ったとき、母親は「原因は嫁だ」と言った。
私も知らなかったけど、転職した後に離婚していたらしい。
月に1回息子に会うのが楽しみだったらしいけど、それも最後の方は難しくなっていたと言う。
姑の嫁に対する評価だから割り引いた方がいいかなとも思ったけど、いずれにしても離婚していたのは事実である。
それは大きな原因であったことに間違いない。
その時、母親から、新しい職場の社長からの手紙を見せてくれた。
長文の手紙を読むと、職場での人間関係はかなり良かったことが分かった。
たくさん職場の写真も見たけど、和気あいあいとした雰囲気が伺えた。
その楽しげな雰囲気が何とも悲しかったね。
まあ、母親の言うとおり離婚問題によるものだったのかな。
でも、そうするとあの飲み会の時の雰囲気はなんだろう。
考えても無駄な話だけど、しばらくモヤモヤしていた。
おそらく、原因はひとつじゃなく、いろんなストレスが積み重なっていたのだろう。
それは本人ですら整理できないくらいに複雑なものだったのかもしれない。
今でも時々、彼の語った「悩むな、考えるんだ」を思い出すことがある。
この「悩むな、考えるんだ」って教訓、誰が最初に言ったのか知らないけど、あまり役に立たないとも思った。
悩みたくて悩んでいる人なんてまずいない。
悩みの正体を言語化できないからみんな悩むのである。
そういえば「自殺する前日はまったく普通だった」って話はたまに聞く。
昨年も芸能人の自殺があったけど、直前まで家族と一緒だったのに、まったく兆候を感じられなかったと言う。
悩みというものはそれくらい他人には分からない。
また、「ふてぶてしく見える人ほど自殺する」という話もある。
友人が自殺するちょっと前に、ある大臣が自殺したけど、あるTVコメンテーターはその大臣のことを「殺してもしなないようなタイプに見えた」と言っていた。
私も同じ感想である。
その大臣の顔つきや喋り方は、それまで私の考えていた「自殺する人」とは真逆の雰囲気だったと思う。
実は友人もそんな感じのところがあった。
常に何かを新しいことを考えていて、こちらが間抜けなことを言うと、すぐにツッコミを入れる生意気な男だった。
だからショックだった。
こういう体験をすると「深い悩み」に対して我々は本当に無力だなあと感じてしまう。
何食わぬ顔をして、深い悩みを持っている人はたくさんいることだろう。