「直観力」を高めたければ、瞬間的な判断を何百回、何千回と繰り返せばよい。そうすれば大脳基底核は鍛えられ、精度の高い「直感」が生み出せるようになる。
 

「直感」は大脳基底核が生み出している

 

棋聖戦第2局で藤井7段が差した「3一銀」。

 

「水匠2」というAIソフトの解析だと「4億手読ませた段階では5番手にも挙がらないけど、6億手読ませると突如最善手として現れる手」だったそうだ。

実は、脳科学の分野では棋士の発想について研究が進んでおり、例えば理化学研究所の記事が詳しい。

これによると「大脳基底核」という「大脳皮質」と「視床」および「脳幹」を結びつけている神経核の集まりがプロ棋士の判断に関わっているらしい。

大脳基底核は、記憶の中にある運動パターンの中から適切な運動(行動)を選択する時に使われる。

 

つまり「予測」や「期待」である。


たとえば、犬や猫がある場所へ飛び移るとき、飛び移りたい場所までの距離を目測し、自分のジャンプ力を勘案して飛び跳ねている。

よく見る光景かもしれないけど、考えてみればすごい話である。

おそらくロボットで再現しようとしたら、今の技術ですらかなり難しいのではないか。

大脳基底核は、このような判断を瞬時に行っている。

また、大脳基底核は、このような「予測」や「期待」だけじゃなく、「認知機能」「感情」「動機づけ」「学習」などにも関わっているらしい。

たとえば、先ほど例に出した猫でも、その場所へ飛び移りたい猫もいれば、まったく飛び跳ねる気も無い猫もいる。

なぜこのような個体差があるのだろう。

 

うーん、猫なりの感情や動機に違いがあるからとしか言いようがないかな。

「飛び跳ねたい」「飛び跳ねたくない」これら感情や動機をつくり出すこともまた、現代のAI技術をもってしても不可能な分野だ。

 

AIは、いまだに感情をつくりだすことに成功していないからね。
 

「直感」は記憶の絞り込みである


大脳基底核の機能を踏まえると、藤井七段は、まず過去の経験や学習にもとづくいくつかの直感的イメージが沸き起こり、論理思考はそのあとに使ったと推測できる。

もし、そうだとすれば、これは神経学者アントニオ・ダマシオ(1994, 2005)が主張したソマティック・マーカー仮説が当てはまる。

ソマティック・マーカー仮説とは、外部からある情報を得ることで呼び起こされる身体的感情が、前頭葉の腹内側部に影響を与えて「よい/わるい」というふるいをかけて意思決定を効率的にしている、という仮説である。

つまり、人は、何か事象に出会ったとき、直感的に対処策が浮かぶけど、その対処策はすでに脳によって選択肢が絞り込まれているってこと。

とかくわれわれは、ビジネスにおける意思決定などについて、コンピューターの演算のように片っ端から検討することを良いことのように幻想を抱きがちだ。

しかし、脳はそのように出来ていない

良くも悪くも、直感が選択肢を絞り込んおり、それによって思考を効率化している。

 

スティーブ・ジョブズも「直感」を大切にした

 

 

直感といえば、ジョブズの伝記に次のような一節がある。

ジョブズは、大学を中退してインドを回ったときに、西洋の合理的思考とは対照的な直感の力を理解した。インドの田舎の人々は我々のように知性を利用せずに直感を使っている。直感は、知性よりも非常に強力なものだ。

確かに、多くの現代人は、合理的思考が正しいと思いこんでいる。

 

特に政治やビジネスの世界では、「何となく・・・」「気分的に・・・」といった情緒的な情報は脇に置かれている。

しかし、情緒的なことって、果たして完全に排除できるのだろうか。

かりにできるとしても、そんな頭の使い方は、AIの方が得意としているわけだから、わざわざ人間がやる必要もないんじゃない。

 

ジョブズの言うとおり、合理的思考よりも直感の力を使った方が正しい気がする。

だとしたら、課題は「どうやったら直観力を鍛えられるか?」 だ。

 

「価値」の鍛え方


直観力の高め方だけど、先ほどの理化学研究所の記事の中に答えが書かれている。

180個の詰め将棋問題を用意し、約11秒ごとに次々と異なる問題を与える実験をしたら、数週間の訓練で回答率が31%から40%に上がった。

どうやら直観というものは、瞬間的な判断を何百回、何千回と繰り返すことで高めることができるようだ。

藤井七段がAIを活用することで棋力を上げてきたことは有名な話である。

 

 

彼が行ったトレーニングはまさに瞬間的な判断を何百回、何千回と繰り返すものだったと想像できる。

 

そのトレーニングの成果として、「3一銀」は直感的に浮かび上がったんだろうね。

 

直感様様だ。

ただし、注意点がある。

直感はかならずしも正しいとは限らない。

さきほどの事例だって、回答率が31%から40%に上がった程度だ。

また、直感は記憶から生まれるので、従来のパラダイムにどっぷりと漬かった生活をしていたら、根底から間違った直感を生み出すことにもなる。

 

ときどき昔の世代が的外れなことを言うのも、パラダイムの異なる直感を生み出しているからじゃないかな。

 

恐ろしいね。

パラダイムを超えた直感を生み出すには、時代に合った「観察」と「思索」を行い、記憶そのものを変えていくしかない。

パラダイム転換で有名なコペルニクスは、一生を天体観測に費やしていたからこそ、天動説につながる「直感」が得られたんじゃないかな。