コーチングとコンピューターと哲学 | 森田明彦 オフィシャルブログ

森田明彦 オフィシャルブログ

Soul Searching Navigator. 国際コーチング連盟認定プロフェッショナコーチ(英語)。博士/名誉教授。外交官、国連職員、国際NGOディレクター、大学教員を歴任。イスラエルに4年、米国ニューヨークに3年在勤。主著『世界人権論序説』(藤原書店、2017年)。

コーチングは僕のコトバで表現すると「(もしかするとまだ気づいていない)ヤリタイこと、ナリタイ自分を発見し、3倍速で実現することをサポートするコミュニケーションの技法」です。

 

1974年に出版されたThe Inner Game of Tennisは、今日僕たちが体験している「コーチング」が創り出される出発点になったといわれています。

この本の著者、Timothy Gallweyさんは1960年代に英文学を専攻するハーバード大学の学生で、テニスクラブの主将を務め、1970年代には南カルフォルニアにあるエスラン研究所(Eslan Institute)のスポーツセンターでテニスを教えるコーチとして働いていたそうです。

Timothy Gallweyさんは、テニス選手にはコートで対決する外部の敵と自己不信、注意散漫などの選手の最高のプレイを妨げる内部の敵がいることに気がつき、「意識的に身体を動かそうとする」従来のトレーニング方法に代えて、リラックスして自然に身体が動くように促す当時としては革新的なトレーニング法を生み出します。

この動画にはTimmothy Gallweyさんがそれまで自分にはテニスは出来ないと信じ込んでいた女性を30分間で試合ができるところまで指導する様子が収められています。

 

 

Timmothy Gallweyさんがテニスコーチとして働いてエスラン研究所は人間性心理学のメッカで、1970年代にはアブラハム・マズロー、カール・ロジャーズ等が教師として参加しています。

僕は高校時代にカール・ロジャーズさんの本を何冊も読み、2006年にカンボジアで人身売買の被害者に対するリサーチワークショップを実施したとき、カール・ロジャーズさんの娘であるナタリー・ロジャーズさんが創始者のひとりとして開発した「表現アートセラピー」を参照させていただいたこともあって、来談者中心療法のことはとっても身近に感じていて、コーチングとの繋がりを今回知って、とても感銘を受けました。

森田明彦『表現アートセラピーを応用したリサーチ手法の可能性 ―人身売買被害者の「〈ほんもの〉の語り』(財団法人アジア女性交流・研究フォーラム、2007年)

 

そして、僕とコーチングのもう一つの繋がりがコンピューターと哲学です。

コーチングにはさまざまな流派がありますが、その中にチリのFernando Floresさんが創始者のひとりであるOntological Coachingがあります。

Fernando Floresさんはアジェンデ政権のもとで財務大臣等を務めたチリの有力政治家で、1973年にアジェンデ政権が軍事クーデターによって転覆されたあと、3年ほど政治犯として投獄されるのですが、1976年に人権NGOアムネスティ・インターナショナルの尽力で解放されます。

Fernando Floresさんは米国に向かい、カルフォルニアのスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレイー校で人間とコンピューターの関係に関する研究に取り組み、1979年には博士号を取得しています。

このフローレスさんの指導教官がヒューバート・ドレイファス先生だったのです。

Hubert Dreyfus先生はもちろん、カナダの思想家Charles Taylor博士の盟友で、『実在論を立て直す』(法政大学出版会、2016年)をテイラー博士とご一緒に執筆された哲学者です。

僕も自著『世界人権論序説』(藤原書店、2017年)で引用しています。

 

フローレス博士がカルフォルニア在住の時代に開発したOntological Coachingは今やラテンアメリカや南アフリカを中心とするコーチングの主要な潮流となっています。

このフローレス博士が人工知能の研究で知られるテリー・ウィノグラード先生と一緒に執筆されたのが『コンピュータと認知を理解する』です。

フローレス博士とウィノグラード先生は「コンピュータに人間の(あるいは神のような)知能を与えようという発想」=「脳としてのコンピュータ」像は、実は「現代の技術社会に深く根を下ろしている、ある伝統―ものの考え方―の中で展開されている」ことを解明し、「コンピュータと人間の関係についての新しい枠組を提示しています。

 

フローレス博士(とウィノグラード先生)の議論は、僕がこの数年間取り組んできた原子力技術というものと人間との関係に関する考え方に深くつながっています。

 

ということで、なぜ僕はコーチングに魅かれたのか、その理由が最近になって分かったという次第です。

僕が最新の科学技術、例えばブロックチェーンに関心をもつようになったのもこういう背景を知ると、まぁ自然な流れだったのだと理解できました。

 

もっとも、自分の研究はまだまだこれから。

人生100年時代ですし、プロコーチの谷口貴彦さんは「85歳まで、自分が好きなことを仕事にして、楽しく働きましょう」と言っておられましたが、僕もそのつもりで力まず、焦らず、楽しく学んでいこうと思います。