昔の昔。
私が宝石メーカーの営業をしていた頃に
先輩の橘高さんと出張で広島に行きました。

8月の暑い夜。お好み村裏のスナックでしこたま酔って
ホテルに帰ったのはとっくに日付が変わった深夜。

ベッドに倒れ込んで朦朧としていた時でした。

部屋の前を子供が2,3人で大声を上げながら右に左に
往復しながら駆け抜けていくではないか。

こんな時間に親は何をしているんだろう。。。
と、思いながらも泥のように寝てしまう。

そして朝になる。
チェックアウト時間ギリギリに部屋を出て気が付いた。

私の部屋は廊下の突き当り。
すぐに壁があり走り抜けることは不可能なのだ。
でも確かに声と足音は左右に駆け抜けてドップラー効果してた。

フロントで待ち合わせた橘高さんに
「部屋に入ってから子供がうるさくなかったですか?」
「あぁ、深夜に騒いでたね。」

ホテルの名前はホテル リバーサイド。
そう、平和公園の脇に建つ川沿いのホテル。
私の部屋は川に一番近い。

そして、8月の上旬。
後から思えばもしかしたら、6日だったのかも。

親父はお袋に愛情表現が出来ない男だった
お袋は親父の愛情表現を知らない女だった
そんな家族は仕方無い。

小学生だった俺が外から帰ってくると
いつものようにお袋は夕飯を作りすぎていた。
明日も食べられるからと。

面倒くさがりな割に手の掛かる料理をつくる。
ケチャップを使ったロールキャベツ。

親父の帰りを待って夕食、4人になり
テレビのチャンネル争いの激化が増しての夕食

いつものように旨い。
今でもお袋の料理は最高だと思ってる。

親父はビールを飲んでいるせいか
望みどおり野球を観ているせいか上機嫌。
「おいっ!旨えなこのキャベツ!」
(ロールキャベツだよ)
親父はキャベツは知っていた。

お袋は淡々と「まだあるよ 巻きキャベツ」
(ロールキャベツだよ)

張本のヒットに続き、王が3回目の打席に入った時
俺と妹は強制的に布団に入れられた。

翌日、外から帰るとお袋は
台所で夕べと同じ匂いを立てている
でも好物のロールキャベツ。異存は無い。
親父も「夕べあんだけ食べたのにまた作ったのか。こん畜生」と笑顔。
お袋もまんざらでもなさそう

さらに翌日
学校から帰るとお袋が鍋にケチャップを絞り込んでいる

んっ? まだ低学年だった俺は鍋の中を見ることは出来ないが
中身が何であるかはすぐに判った。

「今夜もあんた達の大好きなものよ」 

だから判ってるってば・・・
さすがに親父も苦笑していたが、
お袋は誇らしげに鍋を運んでくる
ご馳走様でした。確かに旨い。だけど・・・

翌日、学校から帰ると買い物を終えたお袋が手を洗っている
テーブルの上にはキャベツと挽肉が置いてある。
必至に今夜の献立を考えた。
浮かび上がる料理名を振り払いながら。
(メンチカツであれ。。)

親父の「おいっ!旨えなこのキャベツ!」
この一言がこの事態を招いたのだ。
どうやら親父は初めて料理を褒めたらしい。

夕方、親父から電話。食材をを告げると
帰るコールだったはずが急に残業となった。

その日は三人で夕飯。
妹の好きな番組「たのきん全力投球」が観れた。
マッチ頑張ってた。走ってた。俺も頑張って頬張った。

ロールキャベツ6日目は夕べの残りでは無かった。
連日の残りだった。

ついに親父が謝った。
「すまん、いつも旨かった。だから俺、残したこと無いだろ」

翌日はハンバーグだった。
キャベツの千切りたっぷりで。
本当に嬉しかったのを覚えてる。
親父の笑顔も、お袋の笑顔も覚えている。

今日は満月

東京を離れて見上げる月は

少し赤みがかっている


まぁんまる              




夕べの内に買っておいたジャックダニエル


今夜はバルコニーに座って月見酒の予定





流れる曲はあまりスローではないはずだ

たぶんジャネット・ジャクソンを絞り気味に






きっと夜風が冷たいから

つまみにはおでんを用意しよう





ホームシックにかかったのは久しぶりだ


家路をいそぐ・・・

風が変わり、夏が終わる

夏に生まれたのに夏が苦手


そして秋が一番好き


ビールの季節から、ジャックダニエルの季節に変わる

この季節はウイスキーが旨くなる





秋刀魚を塩焼にして谷中生姜を添えて


椎茸に醤油をかけて炭火で炙って


栗に穴を開けて直火焼き


新にんにくを素揚げにして岩塩を少しだけ





あれれっ!


黒糖焼酎が飲みたくなってきた


そういえば「龍宮」が残っていたはず・・・


水も氷もいらないや





とにかく秋は、月が綺麗

俺が住んでる瀋陽のマンションから

タクシーで10分ほど


大きな高登飯店というホテルの裏側に

灯りの乏しい道がある


そこに点在するBAR




中国に来てもやる事は一緒だ




BARのオーナーと親しくなって

食事に行ったり

カラオケに行ったり

泳ぎにも行った


なかなかノリの良い中国人だ




しかし、その近くのBARでは

トラブルも多かった


泥酔したオーストラリア人にからまれたり


韓国人とのトラブルもあった




中国人とのトラブルには気をつけた


日本人だから・・・きっとただでは済まない



普段、怖いもの知らずといわれる俺だが

なぜか、酒が入ると冷静になる



酒が好きな理由のひとつかも



安いビールに酔いつつ

東京に思いを馳せる



中国語の喧騒にもすっかり慣れてしまったが

やはり俺は日本人だった



東京にいた時は意識した事など無かった

「日本人」


受けた蔑視を、強引な行動で撥ねつける自分に

愛国心とは違う何かを感じた




日本人としての誇りと自尊心。




そんなものを持ち合わせていたとは




ジャックダニエルは中国でもジャックダニエルだった


日本と違い高級品だが、

同じように逆立つ気持ちを

ゆっくりと沈めてくれる





店を出ると、秋だった

俺の一番好きな季節を中国で迎えた

月を一番楽しめる季節だ                                 お月様





見上げた空



月は中国でも月だった






明日も仕事があるっていうのに。


何故だろう、夜が更けると散歩したくなる。


部屋を出て、中目黒から代官山へ

20分ほど歩くと猿楽町に立っていた。



途中、槍ヶ先で「夜光虫」の看板。


目をやるも今夜はパス。



月がまぶしい程に輝く夜・・・


こんな夜は気が付くと

街灯の少ない道を選んでいる。


歩道橋で区切られた夜空


左に曲がる


暗いうねった下り坂

細くゆがんだ坂の脇の林に

月が見え隠れしている


坂を降りきると看板のないBARがある。



ある小雨が降る夜。

酔った俺が道に迷った。


中目黒に越してきて間もない頃

傘を持たない、酔った冒険家は

住宅地をフラフラしていた。


なぜか古い白いマンションの前で立ち止まった。


狭い階段を上がる

何かがあると確信しながら。


「星港夜」


シンガポールナイトと読むBARとの出会いだ。



さらに以前にも似たような事があった。



日赤通りで傷の癒しに途惑って

ひどく飲みすぎた午前3時。


月に誘われ、酔い覚ましに

渋谷へ向かって歩いた。


青山トンネルをくぐり

六本木通りが246に溶けていく、その少し手前


ビルの地下に続く階段が

真っ暗のまま口を開けていた。


フラフラと降りていく


暗いのと酔っているのとで

足元がおぼつかない。


鉄の扉が現れた。


なぜか躊躇せずにドアを開く。

蝋燭の灯りだけが漏れてくる。


会員制SMクラブ?


かしこまった店員に訪ねると

優しく笑いながらBARだと教えてくれた


「TANTRA」


バーテンダーは知らずにたどり着いた俺に

驚きを隠さなかった。


暗くて、椅子もテーブルも無い

そして、無駄な音さえも・・・


時間を止めて、

女性との距離を縮めるには最適なBARだった。





今夜にもどる。


星港夜へ昇っていく

赤を感じる店内は落書きで埋まっている。


なぜか落ち着く。


ジンソニックを一杯だけ・・・

ライムを多めに。



マンションの部屋に着いても中に入らない。


通路で月を見上げながら

咥え煙草。





もう少し、夜風を楽しむ。










高校に入学。


大人になったつもりだった


学校帰りのバイトを終えて、いつものようにBARへ


早く大人になりたくて、勇気をだして押し開いた地下1階のBARの扉


今、思えばスナックに近い



ボトルキープはゴードン


いつも独りでカウンターに座りジンを飲む


なぜ、ジンだったのだろう


ビールは嫌い、焼酎は当時、オヤジの飲み物だった。

まだウーロンハイさえ無かった頃。




私服の高校だから、


老けていて二十歳に見られていたから、


学校の近くなのに咥え煙草で飲みに行く


ただの背伸びしたガキだった。




平日の早い時間ははママを独り占め


夜が更けてくると本物のオヤジたちと

くだらない話で盛り上がった                                  

こじんまりとしたBAR

「FUNNY FACE」



初めて酒の味と、月の美しさを覚えた店


ある深夜、帰り際にママが

ビルに四角く切りとられた夜空を見上げ          

「月がこんな狭い所でまん丸だ」                                   

それ以来、月の美しさに魅せられている



店が閉まるときに届いた葉書は

高校の卒業アルバムに挟んである


独りで飲むのも大好き


南青山と西麻布の狭間にある通り


お気に入りのBARが点在してる


思い出が残るBARが出来ては消える



誰も自分を知らない事がうれしい夜もあり


気分次第でこの通りへやってくる


六本木通りの入り口で


どの店に行くか考える


いつも、静かでひっそりとした通り


誰もが隠れて飲んでいるような気がする



ドランカーのマスターが亡くなってから


独りで飲む場所になった



高樹のオバちゃんも店を閉めた



この通りは表情を変えるのが早い


ひっそりと目立たないが・・・




誰もオイラを知っている人がいなくなり


それを楽しめる歳になり


また通いはじめた


ひっそりと目立たないように・・・

      いつも JACK DANIEL のハーフロック


グラスいっぱいの大きさの氷


            JACK DANIEL の酔いは重くずっしりと、のし掛かる酔い


 嫌な事が心の底にゆっくりと沈んでいく酔い

        そんな酔いが好き


               氷は丸くないものを


                         角が取れていく様が心を感じる



  氷が丸くなったら 明日を迎える

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