今日は満月
東京を離れて見上げる月は
少し赤みがかっている
まぁんまる ●
夕べの内に買っておいたジャックダニエル
今夜はバルコニーに座って月見酒の予定
流れる曲はあまりスローではないはずだ
たぶんジャネット・ジャクソンを絞り気味に
きっと夜風が冷たいから
つまみにはおでんを用意しよう
ホームシックにかかったのは久しぶりだ
家路をいそぐ・・・
風が変わり、夏が終わる
夏に生まれたのに夏が苦手
そして秋が一番好き
ビールの季節から、ジャックダニエルの季節に変わる
この季節はウイスキーが旨くなる
秋刀魚を塩焼にして谷中生姜を添えて
椎茸に醤油をかけて炭火で炙って
栗に穴を開けて直火焼き
新にんにくを素揚げにして岩塩を少しだけ
あれれっ!
黒糖焼酎が飲みたくなってきた
そういえば「龍宮」が残っていたはず・・・
水も氷もいらないや
とにかく秋は、月が綺麗
俺が住んでる瀋陽のマンションから
タクシーで10分ほど
大きな高登飯店というホテルの裏側に
灯りの乏しい道がある
そこに点在するBAR
中国に来てもやる事は一緒だ
BARのオーナーと親しくなって
食事に行ったり
カラオケに行ったり
泳ぎにも行った
なかなかノリの良い中国人だ
しかし、その近くのBARでは
トラブルも多かった
泥酔したオーストラリア人にからまれたり
韓国人とのトラブルもあった
中国人とのトラブルには気をつけた
日本人だから・・・きっとただでは済まない
普段、怖いもの知らずといわれる俺だが
なぜか、酒が入ると冷静になる
酒が好きな理由のひとつかも
安いビールに酔いつつ
東京に思いを馳せる
中国語の喧騒にもすっかり慣れてしまったが
やはり俺は日本人だった
東京にいた時は意識した事など無かった
「日本人」
受けた蔑視を、強引な行動で撥ねつける自分に
愛国心とは違う何かを感じた
日本人としての誇りと自尊心。
そんなものを持ち合わせていたとは
ジャックダニエルは中国でもジャックダニエルだった
日本と違い高級品だが、
同じように逆立つ気持ちを
ゆっくりと沈めてくれる
店を出ると、秋だった
俺の一番好きな季節を中国で迎えた
月を一番楽しめる季節だ ![]()
見上げた空
月は中国でも月だった
明日も仕事があるっていうのに。
何故だろう、夜が更けると散歩したくなる。
部屋を出て、中目黒から代官山へ
20分ほど歩くと猿楽町に立っていた。
途中、槍ヶ先で「夜光虫」の看板。
目をやるも今夜はパス。
月がまぶしい程に輝く夜・・・
こんな夜は気が付くと
街灯の少ない道を選んでいる。
歩道橋で区切られた夜空
左に曲がる
暗いうねった下り坂
細くゆがんだ坂の脇の林に
月が見え隠れしている
坂を降りきると看板のないBARがある。
ある小雨が降る夜。
酔った俺が道に迷った。
中目黒に越してきて間もない頃
傘を持たない、酔った冒険家は
住宅地をフラフラしていた。
なぜか古い白いマンションの前で立ち止まった。
狭い階段を上がる
何かがあると確信しながら。
「星港夜」
シンガポールナイトと読むBARとの出会いだ。
さらに以前にも似たような事があった。
日赤通りで傷の癒しに途惑って
ひどく飲みすぎた午前3時。
月に誘われ、酔い覚ましに
渋谷へ向かって歩いた。
青山トンネルをくぐり
六本木通りが246に溶けていく、その少し手前
ビルの地下に続く階段が
真っ暗のまま口を開けていた。
フラフラと降りていく
暗いのと酔っているのとで
足元がおぼつかない。
鉄の扉が現れた。
なぜか躊躇せずにドアを開く。
蝋燭の灯りだけが漏れてくる。
会員制SMクラブ?
かしこまった店員に訪ねると
優しく笑いながらBARだと教えてくれた
「TANTRA」
バーテンダーは知らずにたどり着いた俺に
驚きを隠さなかった。
暗くて、椅子もテーブルも無い
そして、無駄な音さえも・・・
時間を止めて、
女性との距離を縮めるには最適なBARだった。
今夜にもどる。
星港夜へ昇っていく
赤を感じる店内は落書きで埋まっている。
なぜか落ち着く。
ジンソニックを一杯だけ・・・
ライムを多めに。
マンションの部屋に着いても中に入らない。
通路で月を見上げながら
咥え煙草。
もう少し、夜風を楽しむ。
高校に入学。
大人になったつもりだった
学校帰りのバイトを終えて、いつものようにBARへ
早く大人になりたくて、勇気をだして押し開いた地下1階のBARの扉
今、思えばスナックに近い
ボトルキープはゴードン
いつも独りでカウンターに座りジンを飲む
なぜ、ジンだったのだろう
ビールは嫌い、焼酎は当時、オヤジの飲み物だった。
まだウーロンハイさえ無かった頃。
私服の高校だから、
老けていて二十歳に見られていたから、
学校の近くなのに咥え煙草で飲みに行く
ただの背伸びしたガキだった。
平日の早い時間ははママを独り占め
夜が更けてくると本物のオヤジたちと
くだらない話で盛り上がった
こじんまりとしたBAR
「FUNNY FACE」
初めて酒の味と、月の美しさを覚えた店
ある深夜、帰り際にママが
ビルに四角く切りとられた夜空を見上げ
「月がこんな狭い所でまん丸だ」 ●
それ以来、月の美しさに魅せられている
店が閉まるときに届いた葉書は
高校の卒業アルバムに挟んである
独りで飲むのも大好き
南青山と西麻布の狭間にある通り
お気に入りのBARが点在してる
思い出が残るBARが出来ては消える
誰も自分を知らない事がうれしい夜もあり
気分次第でこの通りへやってくる
六本木通りの入り口で
どの店に行くか考える
いつも、静かでひっそりとした通り
誰もが隠れて飲んでいるような気がする
ドランカーのマスターが亡くなってから
独りで飲む場所になった
高樹のオバちゃんも店を閉めた
この通りは表情を変えるのが早い
ひっそりと目立たないが・・・
誰もオイラを知っている人がいなくなり
それを楽しめる歳になり
また通いはじめた
ひっそりと目立たないように・・・
いつも JACK DANIEL のハーフロック
グラスいっぱいの大きさの氷
JACK DANIEL の酔いは重くずっしりと、のし掛かる酔い
嫌な事が心の底にゆっくりと沈んでいく酔い
そんな酔いが好き
氷は丸くないものを
角が取れていく様が心を感じる
氷が丸くなったら 明日を迎える
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