樋口一葉『大つごもり』読了。
落ちぶれた愛人の源七とも自由に逢えず、自暴自棄の日を送る銘酒屋のお力を通して、社会の底辺で悶える女を描いた『にごりえ』。今を盛りの遊女を姉に持つ14歳の美登利と、ゆくゆくは僧侶になる定めの信如との思春期の淡く密かな恋を描いた『たけくらべ』。他に『十三夜』『大つごもり』等、明治文壇を彩る天才女流作家一葉の、人生への哀歓と美しい夢を織り込んだ短編全8編を収録する。
山村家という厳格な(というかケチな、というか)家に奉公に出されたお峯は、健気な働き振りもあってか休みをもらい、病気のために八百屋をたたみ貧乏長屋に引っ越した、親代わりの伯父夫婦のもとを見舞う。
そこで年末までに支払わなければならない借金の代債を頼まれ、奉公先の山村家になんとか掛け合うつもりでこれを受け合うが⋯⋯という話。
一見すると、落語の人情噺のようでもある。
だが、一葉の、山村家の内情をしっかりと描き出す腕は流石にたしかである。
お峯やその伯父家族の窮状を描く筆先もたしかではあるが、主眼は寧ろこちらにあると言ってよいだろう。
一葉という人は恐らく相当、耳がよい人だったのだろうと思う。