こどもの日、である。
そこで、何かひとつ、今の、そしてこれから生まれ来る子どもたちのために、
そしてパンデミックによるこの世界的な状況のためにも、
今後100年、1000年、人類が存続する限り語り継ぐべき価値について、
ある曲のエピソードを通して書いてみようかと思う。
その曲名はWE ARE THE WORLDである(上の楽曲)。

今から35年前、当時の英米のトップアーティストたちが集い、
レコーディングをした。
U.S.A. For Africaと銘打たれたこのチャリティーイベントは、
前年に英国で行われたチャリティーイベントLIVE AIDに触発された
H.ベラフォンテが発案し、
当時内戦による飢餓が深刻なものとなっていたエチオピアの人々のために
楽曲の販売による売り上げを寄付しようとしたもので、
その主旨に賛同した実に45人ものアーティストたちが
多忙なスケジュールをやりくりして集結した。
彼らをそこまで駆り立てたものは、
ありふれた良心の呵責というよりは、ある種の危機感、
世界の持続可能性に対する切実な危機感だったのではないかと思う。

実際、何時間にもわたったレコーディング中に、
時としてトップアーティストたちの集まり故の軋轢が生まれる現場では
「エゴは入り口に捨ててこい」が合言葉となっていたという。
そしてその現場の雰囲気をまとめていたのは大御所、故R.チャールズだった。

世界がコロナウイルスに侵され各地で分断と猜疑と中傷が絶えない今、
この曲の伝えようとするメッセージは決して古びてはいない。
実際主催者の一人だったL.リッチーは、
このコロナ・パンデミックを受けたチャリティーとして
再びこの曲をレコーディングすることを今模索しているらしい。

We are the world 
We are the  children

音楽は具体的に人命を救えないし、世界をいっぺんに変えることもない。
あれから35年たった今でも、僕たち人類はまだ子どものままである。
それでも45人もの人間が人種や国籍、主張やスタイル、音楽性を越えて
世界のために集結したことの意味は決して軽くはないだろうし、
これこそ僕ら大人が子どもたちのために伝えていかなければならないことだろう。
あまりに窮屈な世界の中でさえ、僕らは何者かになろうとすることができる。
そのとき、国籍や主張やスタイルを画一、統一する必要は必ずしもない。
そのことは、まさにWe are the worldを聴けばわかるだろう。
様々なアーティストがあくまで自分のスタイルを崩すことなく歌っていて、
それが完成されたひとつのハーモニーないしポリフォニーを作り出している。
重要なのは多くの声、スタイルがそこに同等に存在する、ということなのだ。


ちなみにこのレコーディングには
当時マイケル・ジャクソンとよく比較されていたプリンスも参加する予定だったという。
しかし、トラブルのために彼の参加は見送られることになった。
その真相は何年か前のNHK『アナザーストーリーズ』で放送されていたが、
今、この映像を見ることはできない。
薬物使用で逮捕された沢尻エリカが進行役を務めていたからだ。
同様のことはピエール瀧が出演していたNHK『64──ロクヨン』にも言える。
薬物使用という、ある意味私的な犯罪で捕まった両者の動画がアーカイヴからも抹消され、
一方で、女性や経済的弱者の人権を侵害する発言を行った岡村隆史の番組は継続されるのも、
現在のこの世界の歪さの一端ではあろう。

余談だが、プリンスはU.S.A.For Africaの主旨への賛同として
4The  Tears In Your Eyesという曲を提供している。
ファンの間ではこちらも名曲として名高いようである。


NHK『アナザーストーリーズ 運命の分岐点/We Are The World』(クレジットなどの記録のみ)
https://www2.nhk.or.jp/archives/chronicle/pg/page010-01-01.cgi?recId=0001000000000000@0000000000000000000000-4C211100000000000000000000