えんじゅです。
先日、何気なく某局のみんなのうたを見ていたら、
旧ユーゴスラヴィア(現ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)出身で
現在は日本を活動拠点にしている歌手のヤドランカさんが、
幻想的(ちょっと怖い?)なアニメーション映像に乗せて
素晴らしい歌を披露していました。

ヤドランカさんは旧ユーゴの国民的歌手で、
1984年のサラエヴォ・オリンピックのテーマ曲を歌うなど
祖国で活躍した後、80年代末に活動の拠点を日本に移しましたが、
その後祖国ではあの忌まわしい内戦が勃発、
国籍を「ユーゴスラヴィア人」としていた彼女は祖国を失い、
95年に日本政府によってビザ延長が認められるまで、
いわば非公認の「難民」として生活せざるを得なかったといいます。

ユーゴスラヴィア現代史 (岩波新書)/柴 宜弘

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僕がヤドランカさんのことを知ったのは今から10年前、
坂本龍一さんが呼びかけた「地雷ゼロ」キャンペーンに
ヤドランカさんが参加、
筑紫哲也さんがキャスターだったTBSのNEWS23に出演していたのを
見てからです。
その少し前から、9・11テロのこともあってユーゴの内戦について
興味を持っていた僕は早速CDを購入、以来何度となく聴いています。

サラエボのバラード/ヤドランカ

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『Sto te nema(あなたはどこに)』


もともと旧ユーゴを始めとする東欧諸地域は
「バルカンの火薬庫」とも呼ばれ様々な民族や宗教が
モザイク状に点在、
第1次世界大戦の発端となったサラエヴォ事件も、
まさにこの地で起こっています。
ナチスドイツに占領された第2次大戦中は共産主義者を始めとした
パルチザンが活躍、ナチスを自力で追い出した後は
カリスマ、ティトー大統領の下で共産主義体制を敷きますが、
ソ連を首班とする東側陣営とは一線を画し、
80年代前半頃までに奇跡とまで呼ばれた経済成長を達成します。

しかし80年にカリスマ、ティトー大統領が死去すると同時に
「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、
2つの文字、1つの国家」のスローガンの下に抑圧されていた
民族主義の火が再燃、「兄弟殺し」「隣人殺し」とまで言われた
苛酷な民族・宗教間の対立が生まれてしまいます。

ユーゴ内戦の特徴は、民族的、言語的にもそれほど違いのない
集団同士が血で血を洗う戦いを繰り広げ、時には民族浄化という
おぞましい現象を引き起こしたことにあると思います。
実際、人類学的に見れば各民族は同系統とされてますし、
言語的にも方言程度の違いしかなかったとされています。
その上サラエヴォなどでは特にそうだったらしいですが、
長い年月(1000年以上!)に及ぶ共生の結果、
各民族間の境界線は薄くなっていて、
セルビア人でもボシュニャク人でもないヤドランカさんの様な人々は
「ユーゴスラヴィア人」と名乗ることがむしろ合理的だったにも
関わらず、そのわずかな違いを廻って、
文字通り隣人同士が殺しあう結果となってしまいました。

9・11テロ以降、「文明の衝突」が叫ばれるなかで、
僕はどうしてもこのことを考えざるを得ませんでした。
民族や宗教、あるいは国家と呼ばれるものが何なのか、
人間が人間として生きることに幸福をもたらさないのであれば、
それらはいったいどんな意味があるのだろうと考えざるを
得なかったのです。

その後、ユーゴに関してはいろいろな作品や本などを見ましたが、
心に残ったものを上げるとすればこんな感じでしょうか。
中でもサッカー日本代表元監督イビツァ・オシムさんの
ユーモアの秘密について、ジャーナリストの木村元彦さんが
オシムさん自身の監督人生から迫った『オシムの言葉』は、
サラエヴォの「生きた歴史」を感じさせるものとして、
涙なしには僕は読めませんでした。
興味があればぜひご覧になってください。

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