時流に乗ったわけではないが、最近は黒人文学をよく読む。
具体的にいうとリチャード・ライトやラングストン・ヒューズ、
ジェイムス・ボールドウィンあたりだ。
黒人文学? 不思議な言葉だ。
白人が書いた作品を白人文学と呼ぶことはないのに。
しかし、アメリカを舞台にした黒人作家の作品は
当然ながら人種問題に触れないはずはなく、
共通テーマがある以上、それは”ジャンル”として成立する。
そしてテーマゆえに多くの作品は多分にシリアスで、
悲劇的であることが多い。
『交通事故で死んだ黒人が異世界に転生して無双』
なんて作品が許されるはずがないのである。
ないはずなのだ――。
と、前置きはここまで。
異世界に転生しないまでも、限りなく近い作品がある。
それが今回ご紹介する、ハヤカワポケットミステリの一冊
『スーパースペード#1 大統領候補暗殺』だ。
スーパースペードは、フットボールのスター選手だったが
試合中の事故で生死の境をさまよう。目覚めたときには
・顔はケーリー・グラントそっくりに整形され
・政治学の教授で六カ国語を使いこなし
・嗅いだ女が自分から服を脱ぎだす、生まれつきの体臭
というチート主人公だ。
今どきなろう小説でもこんな都合のいい設定ねえよ!
そんなスペードに、某ケネディを彷彿させる大統領候補を
護衛してほしいという依頼が来た。
すると後援者の一人が
「ああん!スペード!あなたの黒いのをちょうだい!」と
迫ってきたのでヤレヤレと抱いてやると大統領候補には
スキャンダルがあるとのこと。
スペードの性的魅力で事前にもみ消すことができた。
ところがある日
大統領候補「ちょっと散歩しないか?」
スペード「ああいいですよ」
ノープランで散歩に出かけると、彼は暗殺されてしまう。
あのさあ……。
落ち込むスペードだったが、四人いる愛人が
「ああん!スペード!あなたの黒いのをちょうだい!」と
迫ってきたのでスペードはセックスで元気を取り戻す。
すると敵のアジトがわかったので、乗りこんでみると二人の美女が
「ああん!スペード!あなたの黒いのをちょうだい!」と
迫ってきたのでスペードの性的魅力で二人を陥落させる。
最後の数ページでロクな伏線もなく共産主義者のラスボスが
「私が犯人だ」と銃を構えて現れたので、銃を奪って射殺。
めでたしめでたし。
……どうですか?
学生時代に初めてこの本をを読み終えた日、
僕はその場でゴミ箱に叩き込みました。
あれからン十年。今ではクソ小説にも耐性ができ
今回久々に読み返したくなったので古本屋で購入。
五〇〇円もしやがった。
さらに当時と違って、今はネットで情報が手に入る時代。
作者のB.B.ジョンソンについて調べたところ、
白人の変名ではなく、ガチで黒人作家だと判明。
黒人作家が人種問題に触れず、クソ小説を量産できる時代。
その時、真に平和が訪れるのかもしれない――。
と、それっぽいまとめ方で今回は終了。
