周囲の環境 ー 2 ― | 父像~ふぞう~

父像~ふぞう~

著者 立華夢取(たちばな・むしゅ)

 6月の第3日曜日のことだ。

何の予定もなく、俺たち家族はマンションに顔を揃えていた。

和貴も友達と遊びに行く様子はない。


 まだ外は明るかったが、時刻はもう夕方になっていた。

1日中テレビを観ていた俺は、その日が何の日かわかっていたが、あえて何も口に出さずにいた。


6月の第3日曜日・・・、父の日だ。


「今日は、父の日だねぇ~。」


 一緒にテレビを観ていた真貴子が、ボソッと呟いた。


「・・・・。」


 その真貴子の言葉に、俺はあえて反応しない。

無表情のままテレビを観ていたが、その目線を遮るように、突然、目の前に和貴の顔が現れた。


「おっ、おぅ・・・、びっくりしたぁ~。」


 いつの間に近くに来ていたのだろう。

足音にも気づかず気配すら感じなかった俺は、大きく仰け反った。

和貴は少し照れ笑いを浮かべている。


「描いたよっ!」


 そう言って和貴が差し出した1枚の絵。

それは画用紙いっぱいに描かれた俺の絵だったのだ。


 バックには何色もの色が使われ、画用紙からはみ出んばかりに俺の全身が描かれている。

口元はニッコリと微笑み、お気に入りのブルーのシャツを着てジーンズを穿いている。

同じブルー系の上下服ではあるが、得意の影を活かした描き方で上手くバランスがとられている。

画用紙全体から、躍動感が伝わってきた。


 そして、描かれた俺の頭の上に、半円形に書かれた文字があった。


― パパへ、ありがとう。―


 俺は少し引きつった顔で笑った。

あまりに唐突に差し出された和貴の絵に、どう反応していいのかわからなかったのだ。


 いまにも流れ出しそうな涙を堪えた。


その嬉しさを、どう表現したら良いのだろう・・・。


普通の父親なら、こんな時、どんな顔をして何を言うのだろう・・・。


和貴に何て言おう・・・。


「ほらっ、和くんが描いてくれたんだって。」


 戸惑う様子に痺れを切らせた真貴子が促した。


「おっ、あっ、あ・・・ありがとなっ。和貴。」


 ようやく言葉が出た。





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