命の計算 ー 4 ― | 父像~ふぞう~

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著者 立華夢取(たちばな・むしゅ)

 ある時、父の姉である伯母が、俺の前で口を滑らせ慌てたことがあった。


 母は、俺と弟の間に、もう一人の子供を宿したと言うのだ。

俺自身が出産をすることのない男であったこと。

性行為の経験がない子供であったが故、その時の記憶は薄く、伯母が口を滑らせた内容も定かではないが、記述を読んで改めて計算した俺は、背筋がゾッとする感覚を覚えた。


 弟は俺より2歳年下で、誕生日は俺が6月、弟が4月だ。

帝王切開で俺を産んだ母は、普通分娩とは異なり、術後の性行為を一定期間控えなければならなかった筈だ。

 弟を出産する為には、10ヶ月と10日を妊婦として過ごさなければならない。

俺を出産してから弟をお腹に宿すまで、母のお腹が空いている期間は10ヶ月しかないのだ。


 この世を見ることがなかった弟妹がいたという伯母の話は、明らかに父の異常な性行為の強要を証明し得る事実だった。


 何ということだろう・・・。


 真貴子が言う通り、俺が父と同じならば・・・、俺もそうなのだろうか。


 帰宅を遅くしていることで、真貴子とは、ここ2ヶ月は何もない。

普段だって月一か、月二がいいところだ。

異常な体位を強要した覚えもないし、避妊をしているからこそ和貴と真理は7つの歳の差があるのだ。

 

 もしかすると、異常だと思っていないのは俺だけで、真貴子は何らかの苦痛を感じているのだろうか・・・。

 

 そんな事はない筈だ。

真貴子との関係は、至って正常な筈。


 DVに関する多くの記述は、殆どが、ある項目ごとに大きく分けられていた。


 身体的な暴力、経済的な暴力、言葉による暴力、心理的な暴力、そして性的な暴力だ。

その度合いこそ、まちまちではあるが、各項目とも俺にあてはまる何らかの事例が記載されていた。

その中で、全く身に覚えがない項目、それが性的な暴力だった。

身体的な暴力も、そう思いたいところではあったが、和貴に与えてしまった過剰な体罰を無視することは出来ない。


 真貴子がこの書類にアンダーラインを引いたのは、俺の日々の言動や行動に心当たりがあるからだろう。

俺をDV加害者だと思っているならば、この性的な暴力だけは何としても行ってはならない。


 俺がDV加害者か否か・・・。


 この項目が、俺にとっての岐路となるのかもしれない。

薄暗い営業所で、来る日も来る日も時間の経過を待つ状態も、そろそろ限界が近づいて来るだろう。




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