ある時、父の姉である伯母が、俺の前で口を滑らせ慌てたことがあった。
母は、俺と弟の間に、もう一人の子供を宿したと言うのだ。
俺自身が出産をすることのない男であったこと。
性行為の経験がない子供であったが故、その時の記憶は薄く、伯母が口を滑らせた内容も定かではないが、記述を読んで改めて計算した俺は、背筋がゾッとする感覚を覚えた。
弟は俺より2歳年下で、誕生日は俺が6月、弟が4月だ。
帝王切開で俺を産んだ母は、普通分娩とは異なり、術後の性行為を一定期間控えなければならなかった筈だ。
弟を出産する為には、10ヶ月と10日を妊婦として過ごさなければならない。
俺を出産してから弟をお腹に宿すまで、母のお腹が空いている期間は10ヶ月しかないのだ。
この世を見ることがなかった弟妹がいたという伯母の話は、明らかに父の異常な性行為の強要を証明し得る事実だった。
何ということだろう・・・。
真貴子が言う通り、俺が父と同じならば・・・、俺もそうなのだろうか。
帰宅を遅くしていることで、真貴子とは、ここ2ヶ月は何もない。
普段だって月一か、月二がいいところだ。
異常な体位を強要した覚えもないし、避妊をしているからこそ和貴と真理は7つの歳の差があるのだ。
もしかすると、異常だと思っていないのは俺だけで、真貴子は何らかの苦痛を感じているのだろうか・・・。
そんな事はない筈だ。
真貴子との関係は、至って正常な筈。
DVに関する多くの記述は、殆どが、ある項目ごとに大きく分けられていた。
身体的な暴力、経済的な暴力、言葉による暴力、心理的な暴力、そして性的な暴力だ。
その度合いこそ、まちまちではあるが、各項目とも俺にあてはまる何らかの事例が記載されていた。
その中で、全く身に覚えがない項目、それが性的な暴力だった。
身体的な暴力も、そう思いたいところではあったが、和貴に与えてしまった過剰な体罰を無視することは出来ない。
真貴子がこの書類にアンダーラインを引いたのは、俺の日々の言動や行動に心当たりがあるからだろう。
俺をDV加害者だと思っているならば、この性的な暴力だけは何としても行ってはならない。
俺がDV加害者か否か・・・。
この項目が、俺にとっての岐路となるのかもしれない。
薄暗い営業所で、来る日も来る日も時間の経過を待つ状態も、そろそろ限界が近づいて来るだろう。