2本の電話 ー 3 ― | 父像~ふぞう~

父像~ふぞう~

著者 立華夢取(たちばな・むしゅ)

「もしもし、桐生?悪いなぁ、休み中に・・・。」


 少し慌てた様子の片岡の声。

それにしてもデカイ声だ・・・。


 片岡は、今日は出勤している筈。


「どうした?何?」


「桐生ちゃんさぁ、休みは実家に居るって言ってたよな?俺、いまお前の実家のすぐ近くに居るんだけどさぁ・・・、悪いっ、ホントごめん。営業所で、どうしても外せない商談があるんだよ。」


「だから、何?どうしたの?落ち着けよ。」


 慌てている片岡の話は、意味が理解できない。


「車のバッテリーが上がっちゃってさぁ。周り田んぼだし・・・、近くにスタンドねぇし・・・、JAFに電話したら、2時間以上かかるって言うし・・・。ねぇ、どうするぅ?」


 どうする?ってのは、俺に言う言葉か・・・。

珍しく、話の前後関係が見えなくなるほど慌てているようだ。

 片岡を落ち着かせ、何とか場所を確認した俺は、車で向かうことを伝え、電話を切った。

片岡の居る場所へは、実家から30分程の距離だ。

すぐ近くとは言えないが、外せない商談があると言われれば、断る訳にもいかないだろう。

 確かにその場所には田んぼが多いのだが、急いでいながら、何故その田んぼの真ん中でエンジンを切ったのか・・・。

どうしても疑問に思ってしまった俺は、それを教えることを条件に、助けに向かうことにした。

大方の予想はついていたが、慌てる片岡を少しからかったのだ。


「立ちしょん・・・。」


片岡は小さな声で、恥ずかしそうに答えていた。


 2階にいた真貴子に、片岡からの話を説明した俺は、急いで実家を出た。

その時ばかりは片岡も、到着した俺の顔を崇めるように見つめ、何度も「悪いなぁ・・・。」という言葉を連発していた。


「よっし、これで大丈夫だろ。モウ・マン・タイッ。」


 バッテリーに繋がれたブースターケーブルを外しながら、片岡の口癖を真似てやった。

ボンネットを勢いよく閉めると、慌てて営業車に乗り込み、片岡は去っていった。

 俺はしばらくの間、辺り一面の田んぼを見渡していた。

そして、青く広がる空と澄んだ空気の中で、大きく深呼吸をした。

 実家に戻る途中、コンビニに立ち寄って缶コーヒーを飲んでいた俺に、また携帯電話の着信音が呼びかけた。

滝口親子と遊んでいる筈の、真貴子の携帯からだ。

片岡と別れた時間は、思ったより早かった。

実家にいる真貴子が、待ちくたびれるほどの時間ではなかった筈だ。


 何だろう・・・?

そう思いながら、電話に出た。



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