17章
土曜日、昼ママの亮子が帰ってくると、康夫は待ちかねたように出迎えた・・・
「ちょっと待て~」
「あれ?死神さんどうしました?あまりおとなしいから寝ていたと思っていました。」
「寝てなどいない。ちゃんと聞いておったぞ。女装子がちらりとしかでてこないのが物足りなかったが、謎解きが面白くて考えていた。まず5万円の行方はすぐ見破ったぞ」
「ええ、謎解いていたのですか?」
「当り前だ。俺を誰だと思っている。謎を作る人間をお迎えする死神なのだから
「へえ~5万円の行方はわかりましたか?どこで分かりました?」
「そんなことは簡単だ。
亮子の後をつけた康夫は商店街で亮子は見つけられなかった。
とすれば他の店と言っても三軒だけ。
不動産の店。整形外科医院。そして離れて郵便局だ。
まず不動産だが、5万円一回だけなら家を借りる権利金として考えられるが、毎月不動産屋に5万円払うことは考えられない。
つぎ整形外科医院、亮子に必要なのは整形ではない、心療内科だ。だからこれも除外。
とすると残りは郵便局。
そこまで行くと簡単だ。
亮子は毎月5万円を郵便局に預けに行く。しかし過去のない亮子には通帳は作れない。とすれば差し引き康夫の名前で通帳を作り5万円を預けるしかない。康夫名義の通帳を作ったということだ。
それに亮子は言っている。
康夫がボーナスはたいて亮子のために買い物したことに、亮子は働いて返しますと言っている。
だから当然のこととして昼ママで働いた亮子は、給料から毎月5万円を康夫の通帳に振り込んだということになる。
ついでに言っておくがなぜ郵便局かということだが、康夫の給料は会社指定の別の銀行だからだ。
まあ、商店街に郵便局があるという地理の便利さからも郵便局で通帳を作ったということだ。分かったか?」
「一寸待って死神さん。分かっていないのはあなたですよ。5万円は康夫の給料から亮子の財布に入れられているのです。亮子の給料のお金ではありませんよ」
「もう仕方のない奴だ。金に色はない。亮子の金でも康夫の給料の金でも5万円に変わりはないのだ。良く話を聞けばわかることだ。給料日は康夫が先で、亮子は後になっている。
だから亮子は自分の給料で康夫の払う家計の費用を亮子が払っている。亮子が言っているではないか」
「なるほどなるほど、確かにお金に色はありませんね」
「感心している場合ではない。後があるだろう」
「そうでした。1万2千円の使い道ですが、わかりましたか?」
「分からいでどうする。わしは死神だぞ、簡単なことすぐわかるぞ」
「さすが~伺いましょう」
「タクシー代の往復二千円、この料金での行先はいっている通りだろう。そしてそこにある建物は、これも言っている。
オフィスビル街と病院だ。
だがオフィス街には一万円の使途はない。
残るは病院。そして亮子の記憶障害イコール病院の心療内科と簡単に答えが出るではないか」
「なるほど、心療内科の受診は、亮子の記憶喪失の治療にしても、きおく喪失のままで新しい戸籍を作るための診断書を書いてもらうためにも、心療内科の受診は必要でしたね。でも、まてよ受診料の一万円は高い。他に使い道があるのでは?」
「なにを馬鹿なことを言っておる。亮子がその説明していたではないか。亮子には健康保険証はないのだぞ。受診料は実費だ」
「なにか死神さん人間より人間のこと知っているようですね」
「あたりまえだ、だから死神なんだからな」
威張るように言って死神は私を見上げると、白い歯を見せてケタケタ笑う。
こうなったら最後の勝負だ。
私は死神に答えの分からない問いをせまって、私のお迎えを止めさせなければならないのだ。
私は死神に立ち向かう決意を固める。
「言っときますがね死神さん。これまでのなぞなぞはまだ序の口なのです。本当のなぞなぞは~
そう、亮子の身元です。
死神さんどうです。わかりますか?
本当の謎はこれなのですよ」
「死神相手に何を言っておる。そんなこと分からいでか」
「ええ、分かりました?そんな筈無いのだけど?本当に分かりました?」
「人間は嘘をつくが、死神は嘘をつかない。嘘つく必要ないのだからな。
そんなに疑うならこうしょう。
死神は紙に亮子の本来の名前を書いて、封をしてお前に渡す。話が終わって答えが出たところで封を開く。これでどうだ?」
「分かりましたよ。でも不思議だな~答えは最後に聞いてもらえるにしても、分かったというなら、ヒント、ヒントでいいからどこで分かったのか教えてくださいよ」
「仕方がないな、ヒントぐらいならいいか?
実はなヒントは初めの話から出ているのだ。それどころか至る所にヒントが説明されているのを解くだけでいいのだ。」
「へえ~初めからでていたのですか?}
「そういうことだ。わしも謎が気になると言っておっただろう。何かおかしい、思っていたが11章まできてわかった。」
「ううん、わかる筈無いのだけど?」
私は首傾げる。
<これは大変だ。このままでは死神のお迎えが来る>
「やはり死神のほうが上手ということだな。まあ、これで安心してお前さんを迎えにいくことにしょう」
黒い口を開けて白い歯をカタカタ言わせて笑う死神に、これは大変だと私は改めて思った。
いくら93歳の長寿を迎えていても、まだまだやりたいことがある。
八代亜紀さんの唄がある。
<これからがまだまだ>
<これからがある>である。
まだまだやりたいことがあって死神のお迎えはいらないのだ。
「一寸待って下さい。まだまだお迎えは無理ですよ。まあ聞いてください。話にはザ・エンドというものがあります。
だからこの話にもあるのです。
亮子の身元が分かっても、それで終わりということではないのです。
死神さんはそこまで分かっていますか?」
「身元が分かって終わりではないのか?それは考えていなかった。
お前さん死神を騙すのではないな?お迎え断る口実ではないのか?」
「とんでもない。いくら人間は嘘をつくと言われても、死神さんを騙すものは居ませんよ」
「分かった。ここは死神が引き下がろう。話を拝聴しよう」
やれやれこれで少しお迎えは伸びたようだ。今日一日は無事ということになった。
明日のことは考えないで、今日一日楽しければいいのだ。
それが私の生き方だから~。
<続く>