6章
に曜日の朝、康夫は朝食が終わるといつもなら、ぼんやりとテレビ将棋見て退屈しのぎしているところで、朝食の洗い物をするのも大儀でそのままなのだが、この朝は違っていた。
亮子が流しで洗い物するのを、食卓で頬杖ついて視線で追っていた。
長い独身生活していたのが、美人の妻がそばに居て立ち振る舞いしているのだから、わくわく感で嬉しくて亮子の後姿を追ってしまうのだ。
「亮子さん夕食はレストランに行きましょう。いや、その前に衣装がいる。ドレスを買いに婦人服の店に行くのです。そうだ下着もいるでしょう」
「康夫さんドレスなんていいのです。私の真っ赤なドレスでは昼には着ていけませんから、康夫さんのトレーニングウエアがぶら下がっていましたから、その黒いズボンと白のワイシャツ貸してくださればいいのです。それに下着は押入れのケース箱にお母様の下着がありました。サイズは私には小さいけど、見せるものではないから頂いてよろしい?」
首傾げて笑み浮かべて問われて、康夫は慌てて手を振った。
真っ赤なドレスしか着るものがない亮子は、母親の寝巻をまとったままの姿で朝から居るのだった。母の寝巻では背丈のある亮子はスリープが寝巻の裾からはみでて素足が見えているのが凄く煽情的に感じて康夫は戸惑うのだ。
「ダメです亮子さん、僕の服着るなんて~僕の奥さんと思っている人にそんな格好させるわけには行けません。
こうしましょう。サイズ教えてもらってブラウスとか、スカートとか最低限の服装は僕が買ってきます。下着はとりあえず母の下着にしてお店で亮子さん買ってください。さすがに僕は女性の下着を買う勇気はありませんから」
亮子は笑い声上げた。康夫も苦笑する。
「そらそうです康夫さん。ブラジャーの前でサイズ分からず立ちすくんでいる康夫さん想像すると笑ってしまいますもの」
「そうですよ。女性だけが入るお店に男性が入れば、不審の目で見られます」
「そんなことありませんよ。女性が男性の方と連れ立って女性の下着売り場で下着選びされているのを見ますもの。そうだ女装さんも女装姿でインナー選んでいます」
「そうなのですか?僕は恥ずかしくてそんな勇気ありませんが」
そんなやり取りで亮子と笑い声あげていて、ふと康夫は気づいた。
<あれ、亮子さんなぜこんな話できるのだろう?記憶失っている筈なのに>そんな考えが頭をよぎったが、すぐに<結婚すると言うことはこんな感じになるんだな>そのことに気を取られて、嬉しさに包まれていたのだ。
亮子は急に真面目な表情になると、康夫の前に来て頭を下げた。
「すみません、殿方に女性の服を買いに行ってもらえるなんて~恥ずかしいけど、私は一文なしですから甘えさせていただきます。いづれ働いてお返ししますから待って下さい」
亮子の笑顔から変わった表情に康夫思わず亮子の両手をわが手で包み込んだのだ。
「どうしてそんな他人行儀なこというのです亮子さん。僕は亮子さんを奥さんの積りでいるのですよ。だから夫の気持ちで亮子さんの面倒みたいのです。
それより服のサイズ計りましょう。僕一人で買うのですから服選びできません。普段着になりますが、それ着てドレス買いに行きましょう」
「ありがとう康夫さん。私のサイズは分かっていますから計らなくても大丈夫です」
「サイズ計らなくても分かっているのですか?」
康夫は聞き返したのは、自分の手でメジャーで亮子の体を計る期待を持っていたのが残念だったからである。
でも、また不審を感じた。さっきと同じである。
<亮子さん記憶喪失というのに、自分の体のサイズを覚えている。やはり記憶が戻ってきているのでは?」
なんとも言いようのない不安が康夫のなかを駆け巡る。
一日で、断片的にせよ記憶が戻るようなら、いずれ近い間に亮子さんの記憶はもどるのだはないか?
そうなれば、せっかく手にしたこの幸せが消えてしまうのでは?わずか半日でもうこんな心配しなくてはならないのかと康夫は落胆の気分に落ち込んでしまう。
想いに捕らわれていると、康夫の視線は台所の流しをキッチン石鹸でごしごしている亮子の後姿を見て、真夜中の夢とさえ思う亮子とのいっときを思い浮かべてしまう。
そんな自分を振り払うように康夫は立ち上がると、亮子に声をかけた。
「亮子さん、それでは亮子さんのブラウス買いに行ってきます。それでサイズですが~」
「はい、サイズは隣の部屋で書いておきました」
「ええ、書いてあったのですか?」
なにか康夫は不思議でならない。サイズの話は今したところなのに、どうして書いてあるのか?
亮子さんはサイズの話が出るのが事前に分かっていたみたいだ。
康夫は首振りながら出る用意をした。
「洗濯しますから洗いもの出しておいてくださいね」
「洗い物と言っても亮子さん僕の下着ですから僕が洗いますから」
「いいの、私の下着も洗うのですから。パジャマも洗っておきますから」
「一寸待って下さい。パジャマも下着も僕が洗わないと、、」
康夫は慌てた。
亮子と夜半抱き合った跡が残っていると思うと恥ずかしかった。
分かっていますよ康夫さん、気にしないで、お互いさまですからね」
<ええ?お互い様?まただ、亮子さん記憶が戻ってきているようだ。赤いドレスを着ていたからお水の人<女性>かと思っていたが、こんなやり取りできると言うことは、ひょっとしたら記憶失う前は、<主婦?><夫がいるのでは?>
気苦労がよみがえると康夫は思ってしまう。
そんな自分を振り払って、康夫は自分をなだめた。
<その時はその時に考えよう。今は俺の嫁さんの亮子さんなのだ。そう思って俺だけの家庭を作ればいいのだ>
「亮子さん行ってきます。すぐ帰ってきますから、出かける用意しておいてください。」
「分かりました。行ってらっしやい。康夫さん普段着ですからね。なにもいいもの買う必要ありませんからね」
「分かっています。店員さんと操舵します」
返事しながら、康夫は勤めに出る夫はこんなふうに妻に見送られるののだと、そんな気分に浸っていた。
<6章・続く>