1章

 何か悪い夢でも見たのか?

 目が覚めて思った。とにかく胸が重くて苦しいのである。

 胸に重石が載ったようで、夢のなかで<どいてくれ~>叫んでいたように思う。

 

 そう思った途端に気が付いた。死神だ!

 首をもたげて胸元を見たらやっぱりそうだった。

 胸の上に死神が居座っているのだ。

 「またあなたですか?どうしてまた私の胸の上に座っているのです。苦しいからどいてくださいよ」

 

 私の抗議に死神は黒い穴の目と白い歯を黒頭巾のなかで見せて、ケタケタ笑うのだ。

 「胸が苦しいだろう。もう少しの時間でお迎えだからだよ。だから私がきたのだ」

 「そんな無茶な、この前女装美人の話をすることで死神さんは帰ったじゃないですか<2話参照>

 どうしてまた私の胸に乗るのです」

 「そうですよ。私がお迎えに来たと言うのに、あなたの話聞いていたら、二人が一人になって一人が消えて折角のお迎えを私はできなくなって、私が帰るしかなかったこと知っているでしょう。だから今日よせていただいたというわけです」

 「ちょっと~それて私を身代わりにお迎えすると言うことですか?」

 「もの分かり良いです。その通りです」

 嬉しそうにケタケタ笑う死神にさすがに私は慌てた。

 「一寸待って下さい。急がなくてもあの話はまだ終わっていないのですよ。とにかく美人の女装さんが出てくればいいのじゃありませんか?」

 「ええ~それじゃ話の続きがあると言うのですか?二人が一人になった美人の女装さんが登場するのですか?」

 死神は身を乗り出す。

 <どうもこの死神は、よほど女装子が好きなようだ。まあ、そこが私のつけ目なんだけど。>

 「果たしてそうなのか?死神さんそれを考えながら聞くと楽しいですよ。それだけでなく、至る所になぞなぞがあるのです。それを解きながら聞けばなお楽しいです。お迎えなど忘れるほどです」

 「ええ?それは面白そうだ。拝聴しましょう」

 ケタケタ笑うのはいいけど、胸の上に乗られる私はたまったものでない。

 「それより早く私の胸からどいてくださいよ。苦しくて話どころではありませんよ」

 「ああ、それは失礼しました。」

 死神が答えた途端に胸が軽くなって、苦しさが取れた。

 半身起こしてベッドの下を見下ろすと、前の時のように死神は正座した姿勢で見上げている。

 

 とにかく、私は死神が帰ってくれるような話をしないと、私のお迎えが来るのだから。

 心に決めて、私は物語をつづる。 

 <続く>

 

 

 <イベント舞台で・筆者>