94回
「静さんダメなのです。正人さんは仕事で外国にいて、連絡が取れないのです」
「連絡が取れないて、電話位はできるでしょう?」
「私用の電話は会社は事業に差し支えるて、つないでくれないの。元気で居ると連絡が社宅に一度あったきり、現地の会社の寮に居るはずなのに連絡できないの」
「連絡できないて~おかしいわね。」
「お母様はいいけど私の場合はだめなのです」
「ダメ?それって、どういうことなの?」
静さんは不審な表情で問います。
「家族の方しかつなぐことはできないて~」
「だって貴女は正人さんの奥さんでしょう」
言ってから静さんは、あっと声上げたのです。
「法律上では貴女は正人さんの妻ではない。他人だと言うのね」
「静さん、女装子は法律では女でないのです。正人さんは私を女として奥さんにしてくれたのに、法律では夫婦として認めてくれないのです」
答えながら私はアパートに転居した時の悔しさを思い出したのです。
社宅の一階にある会社の庶務に電話して正人さんへの連絡お願いしたのです。そしたら返事は~困ったような、返事で、顔見知りの若い庶務係の人の言葉が返ってきたのです。
「すみません。僕は貴女が穂高さんの奥さんだと思っているのですが、会社では戸籍で決まることですので、戸籍の届けが穂高さんからないので、家族でないと判断するしかなくて、お気の毒ですが受付できないのです」
すみませんと、言いながら電話を切られて、どうして~?問うこともできなかったのです。
悲しさ通り越えて怒り狂って~こんな辛さ思い出したくないと、忘れることにしたのです。
でも今静さんに問われると言わずにおれなくなったのです。
「静さん、正人さんが私を妻だと言っているのにダメだというのよ?それなら私は社宅ではなになの?穂高の同居人でしかないの?多分、私はミカちゃんの保母さん扱いにされているに違いないわ。どうして?~女装子はこんな恥ずかしめを受けないといけないの?女装子は男だから?男が男を愛したから?人を愛するのにどうして性別で決められなければならないの?男が男を愛することは悪いことだというの?これでは女装子には人格はないと宣告されているようだとおもいません?」
女装子がゆえに泣かされることが続く中で、たまり溜まった私のうっ憤は迸って静さんに向けられるのです。
でもこの私のうっ憤さえ聞いてくれる相手は女装子さんしかいないのか?いえ、静さんしかいないのでしょうか?
「あきさん落ち着いて~それはね~あきさんの哀しみはあきさんだけではないのを知りなさい。
女装さんみんなが受けている悲しさなのよ。それがどれだけ深刻なものか?血を分けた家族さえ理解されないほどの深いものなの~。
でもね、それでも女装さん達は女装は辞めずにひたすら耐えて女装を続けるの~世間の目がどうあろうと、家族や友人から見放されてもただ自分の想いを守るために女装を続けるの~。
この想いは誰も止めることはできない。たとい力づくで抑え込もうと、表は抑え込んでも心のなかまで抑えられないで、また、時期が来れば芽が出てくるほど強いものなの。それはあきんも分かるでしょう。」
「わかります。私もその想いの強さは、一時、女装子止めると思ったけど矢張りやめられませんでした。
でも静さん、それなら私どうしたらいいのか分からないの?私、正人さんとの絆を切るなんて絶対できません」
「そうでしょうね。どうすればいいのか?あきさんに誰にも言っていない私のこと教えますね。実は私もあきさんと同じなの。最愛の彼に去られて、もう彼は私を愛さなくなった、女装子だから~悲嘆のどん底でもがきながら、やっとそこから抜け出して、これもまた女装子の定めと自分に言い聞かせて過去のことと思えるようになったの、それがね月日がたったこの間よ、彼が家のしがらみから抜け出して私のもとに帰ってきたのよ。
嬉しかった~彼は私を愛せなくなって去ったのではなかったの、しがらみの何なのか?私は聞かなかった。彼には辛いことだからと思ったから。それより私嬉しさが全てだったのよ。彼が私を忘れることなかった。私を愛していてくれていたことが~」
静さんの話は素敵でした。でもその話が私への答えなのか?私には分かりませんでした。でも、たとへ静さんの物語でも、なぜか私の心に安らぎが芽生えるのでした。
音楽が流れだしました。
静さんの歌声がまた始まります。
静さんの幸せな結末の話を聞いたせいか、なぜか静さんの唄が喜びに満ち溢れているように私には聞こえるのです。
<君の心に>です。
いつから 僕等住んでる
この世界は こんなに
小さくなって しまったのだろう
遠くの町に 暮らしてる
君の言葉 こんなに
近く耳もと 感じられるけど
ほんとうの哀しみは いつも傍に
いなければ わからない
世界中の涙 集めたら
どれくらい長い 河になるのだろう
その河の 流れに乗り
君の町まで 届くよう
君の心に 届くよう
<作詞:浪花乃月>先生
歌い終わると静さんは言うのです。
「この唄私が唄うのは、この詩の言葉が自分のことのように思えるからよ。あきさんに私がいえることは、<待つのよ。信じて待つのよ>それだけ~」
なぜか静さんのその答えをもらって、長い言葉より、今の私の求める気持ちにぴったりと合って、私はわたしの想いが<君の心に 届くよう>にと思うのでした。
<続く> <注・浪花乃月先生、私の小説に<詩>頂いてありがとうございます。