81回

 

 自分でパジャマに着替えたミカちゃんは、部屋に入ってきて、化粧台に座っている

私を見て少し気恥ずかしい表情になつたのです。

 一人で寝るのが当たり前だったのが、なにか赤ちゃんのようにママと寝ることになったからでしょうか?

 「ママ寝に来たよ」

 「あれミカちゃん枕抱えてよく気が付いたね」

 「だってママと寝たことがないもん」

 「そうだったね。ミカちゃんは小さい時から一人寝してたんだ」

 「おばあちゃんとだって一諸に寝たことないよ」

 「じゃ、ママと寝るのが今夜が初めてなんだ」

 「でもママこのベットで寝たら、二人で寝てもミカが暴れても大丈夫だね」

 「そうよ、パパと二人で寝ても余裕があるもの」

  答えたとき、このベットで正人さんとの痴態を広げたこと思い出して、思わず赤くなるのを覚えます。

 「さあ寝ましょうミカちゃん」

 かけ布団をまくり上げると、ミカちゃんはダイビングのように布団の上に飛び込むのです。

 私がお布団のなかに滑り込むと、ミカちゃんはいきなり抱き着いてくるのです。

 さすがに照れくさいのかもしれません。

 笑顔一杯で笑い声あげたのです。

 「あれ~ミカちゃん赤ちゃんみたいにママに抱き着いて」

 「だってママ、私、赤ちゃんのときママに抱かれて寝たこと覚えてないもの。だから今日が初めてママと一諸に寝られるのだもの、最高に嬉しいの」

 私の胸のなかのミカちゃんにそう言われて、そうだったのか~気が付いたのです。

 この子は母親の事故死のこと覚えていないのだ。

 きっと母親とのスキンシップに飢えていたのだろう。

 私にまといつくように一諸に居たがるのはそのせいだったに違いない。

 

 そんなこと思い浮かべると、矢張りこの子をたといつかの間でも手放したくない。

その想いに私は捕らわれるのです。

 「うふふ~ミカちゃんほんとのこと言うと、ママもこうして子供を抱いて寝るの初めてなの。ミカちゃんと一諸なのよ」

 「じや、ママもミカといっしよなんだね」

 「そうだよ」

 腕のなかのミカちゃんを抱きしめると、嬉しさいっぱいの笑声あげるミカちゃんに私は愛しさがこみ上げるのです。

 明日、お母様と田舎に帰るのだとは、とても言えませんでした。せめて今夜だけでもママと寝る喜びのまま寝かしてやりたい。

 そう思ったのです。

 気が付いたら、ミカちゃんは私の胸に抱かれたまま寝息を立てていたのです。安らかなその寝顔を見ていると、私もこの子を離したくない~その気持ちが払えませんでした。

 

 あくる朝、あんのじょうお母様から田舎に行くと告げられて、ミカちゃんは大泣きしたのです。

 「おばあちゃんとこ行くのは嫌だ~ママとここにいる」

 足ばたばたさせて、じたんご踏んで叫ぶのです。

 こんな激しい反抗しめしたミカちやんを見たのは私も初めてです。

 「ママは若いのだから、ミカの世話でこの家に閉じ込めておくのは可哀そうなんだから、ママにお休み上げたいの、でもミカが一諸だとお休みにならないでしょう。だからミカも辛抱しておばあちやんとこへ行って、ママにお休みあげて欲しいの、だからママのために~」

 お母様の説得にも激しく首振り続けるミカちゃんです。

 <助けて~>

 そんな表情で涙目で見つめられると、なにか言ってやらないと~思うばかりで言葉がでてきません。

 さすがにお母様もお手上げです。

 これでは引きずってでも連れて行くしかないとしても、道中泣き叫んで電車にも乗れないと、お母様は気が付いたようです。

 「あきさんお願い、貴女から言い聞かせて~」

 お母様から泣きつかれると、心とは別に嫌とは言えないのです。

 「ミカちゃんちょっとママの部屋に来なさい」

 ミカちゃんの手を握ったら、とたんにミカちゃんの表情がぱっと明るくなったのです。私の厳しい表情にもまるで気にすることなく、抱き着くようにして私の手を握ったのです。

 

 ミカちゃんと手つないで寝室に入ります。

 キングサイズのベットに腰かけさせまました。

 向かい合わせになって座ると、ミカちゃんの両手を握ります。

 「ミカちゃんがママと一諸に居たいのは、ミカちゃんだけでなくママも一諸に居たいの、ミカちゃんと離れたくないの。それは分かってくれる?」

 「わかっているママ。だからミカと離れないでいたい~」

 「でもそれはできないことなの」

 「どうして?」

 答えたミカちゃんの大きな黒目から、涙が落ちるのです。

 「ママはミカちゃんのママだから、ミカちゃんのことを第一に考えなければならないの。いつもミカちゃんのためになることを考えているの。おばあちゃんのところに行くのは、ミカちゃんが大人になった時の用意、訓練なの。ママはねミカちゃんと一諸に居たいと思って今のままでいたら、ミカちゃんがちゃんとした大人になれないこと気が付いたの。だからミカちゃんのママだからこそ、おばあちやんのところにミカちゃんを行かす決心したの。わかってくれる?」

 「ミカが大きくなるためにということ?」

 「えらい、ミカちゃん分かってくれたのね」

 「でもママ~それでもママと会えなくなるのは嫌だ~」

 「大丈夫ミカちゃん。ママとは会えるよ」

 「ええ、ホントママ~」

 笑顔に変わったミカちゃんにうなずくと、私は化粧台の引き出しを開けます。

 取り出したのは象形模様の色とりどりの箱です。

 「この箱はただの箱ではないの。ママのお母さんが箱根に行った時のお土産に買ってくれた知恵の箱なの。ママは子供のときお母さんと死に別れたから、この箱はママがお母さんを思い出す大切なものなの。その大切なものをミカちゃんにあげるということは、ミカちゃんのことママは忘れないということになるでしょう。

 それだけではないの、この箱の中にはママが一番大切なもの入れてます。そして箱を開けたら、なかにママに会えるものも入っているの。

 でも言っておきますけど、この箱は秘密の箱、知恵の箱と言ってからくりの仕掛けがあって簡単には開けられません。だからママと離れて会いたくなったらこの箱を開けなさい。ただし簡単ではないのは知っておきなさい。ママもミカちゃんと会いたいから、開け方のヒントをミカちゃんに教えますね。

 難しいのよ。54回開ける操作をしないといけないの。

 ミカちゃんもう一度言うね。ママの大切なものをミカにあげるのだから、おばあちゃんと一諸に田舎に帰ってくれる?」

 くすんくすんと鼻を鳴らしてうなずくミカちゃんでしたが、やっと得心が言ったようです。

 「それじゃこの箱を開けたらママに会えるのね。」

 「そうよ。箱を開けて会いに来るのをママは待って居るからね。」

 答えながら私は涙ぐんでしまいます。

 箱の用意を私がしたのは、お母様の口ぶり、話された内容からミカちゃんをあづかるのは長期にわたると感ずいたからでした。

 

 子供のリックの口を開け、ミカちゃんから箱をうけとります。

「あれ、ママ~箱の中に何か入っている。コロンコロンと音がするよ」 

「そうよ、それがママの一番大切なものが入っているの」

「わかった。ミカ絶対大事にするよ。」

 リックを肩にかけてやり、手つないで寝室から出ると、食卓に座っていた心配そうな顔つきのお母様の表情が緩むのがわかりました。

 食卓から立ち上がったお母様に告げます。

「お母様ミカちゃん納得してくれました。」

「良かった~あきさんありがとう。ミカはあきさんの言うことだと聞くのだね」

ちょっぴり悔しそうな表情と嬉しそうに表情取り交ぜてお母様は頭を下げたのです。

<続く>