75回
由美さんて私に言わせば、典型的な女装子です。
男性とは相手かまわず、愛なんて存在しなくて、好み?相性が合えば関係をもつているみたいなのです。
決して女装子さんすべてでがそうではないのは確かで、私だっていくら仲の良いフレンドさんでも、それだけはついていけません。
女の気持ちそのものの私には、女性として正人さんを愛して、他の男性に気持ちは動きません。
他には、女性になりたい~それだけの想いで女装して美しく女になったことを楽しむ~そんな女装さんもいます。
私はそんな方は女装子ではなく<女装家>と名付けているのです。
そんな風に私が考えていることを知ったら、由美さんは怒るでしょうね。
<どうして私を軽蔑するような見方するのよ。そんなふうに女装子を分けるようなことしなくても、女装子に変わりはないでしょう。女の人だって何人もの男性のお相手する人いるのだから。私とどう違うというの?おなじでしょう>
開き直りするかもです。
そんなことで私は由美さんとは想うことは違うけど、仲良しなのです。それに由美さんには教えられることが多いのです。長い女装生活している人ですから。
「由美さんは、愛し合う二人でも未来は見えない~と言うけど、私達もそうだと
思っているの?」
気なっていることを聞かずにおれません。
「それはどうでしょう?見えるか見えないかはあなた達しだいじゃない?」
「ええ、それどういうこと?愛し合う二人でも未来は見えないと由美さんは言ったでしょう。それなのに私達は違うということなの?未来は見えるということ?」
「そうよ。なぜだと思うでしょう。それはあきさんには正人さんだけでなく、ミカちゃんやお母さんが居て、4人の家族がいるじゃない。4人がそろって離れることがなければ、未来が見えているということでしょう。」
「そうなんだ、家族として暮しが続くということなのね」
「分かったみたいね」
「でも、そういう由美さんはどうですの?未来は見えてるの?」
「いいえ、私の場合は会うは別れの始まり~」
「会うは別れの始まり?」
どういうこと?怪訝に思ってでも気づきました。
由美さんは次々お相手の男性が変わるのです。だから会ったときから別れのあることを知りながらのお付き合いだということなのです。
「でもね、私は一人暮らしで女装生活楽しんでいるけど、あきさんと同じでも家族持ちの女装子は大変だと思うよ。家族を養いながら女装するとなると、メイク、衣装、お店通いとお金がかかるものね。それも内緒のお金だものね」
「それ、教えてもらいました。化粧品,つけまつげ、など100均で買うのだそうよ」
「そうそう婦人服も大きいサイズでないと、婦人服の店では無理だもの」
「ウイッグに大きいサイズの婦人靴も」
「それも家族に内緒で家には置けないし、メイクだって家ではできないものね」
「女装のお店でロッカー借りて、メイクして~」
「ほんとだ由美さん。所帯持ちの女装さんはお金がかかる。小遣いでは足りない」
「そうよ、あきさんはそんな心配しなくていい恵まれているのわかるでしょう。なにせ奥さんだものね」
由美さんの笑い声が携帯通して聞こえます。
ほんとに由美さんの楽天的なおしゃべりに、私も気が休まってくるのです。
「でもね、あきさん。家族持ちの女装子の苦労はお金だけではないのよ。貴女のフレンドのTさん、奥さんに女装がばれていたのよ。だって仕事だと言っては家に帰らずに女装してお店で飲んでいたのだから、奥さんだってわかるでしょう。まあ、浮気でないから奥さんもTさんの女装に目つぶっていたのでしょうけど、女装がだんだんエスカレートして、家に帰る時間が遅くなって奥さん堪忍袋が切れたのでしょう。<家を出ていくか、女装を辞めるか>て、追及されて<女装辞めます>てことになって、女装の用具すべて処分したの。でもね、それでも女装への想いは断ち切れないのね。メンズの姿で女装スナックで飲んでいるそうよ」
「可哀そうに~女装するのがなぜ悪いの~言いたいぐらい」
「同じ女装子でも、そう言えるあきさんは幸せなんだ。でもそれは例外、私達があきさんを希望の星と言うのがわかるでしょう」
しみじみとした口調で携帯から聞こえる由美さんの話に、想いを馳せて私は<なぜこんなにも女装を偏見の目で見られなければならないの?>憤りにも似た想いになるのは、幸せと言われる私もまた、今は同じ立場でいることだからと気が付くのです。
「由美さん私の悩みなんて、他の女装さんに比べたら入口なのでしょうか」
「そうよね、あきさんの場合は贅沢な女装子の悩みかもね。貴女は結婚してここにはこなくなったけど、こんな言いかたしたら怒られるけど、日び私達のなかでドラマが生まれているのよ。
でもね、このあいだのYさんの話は辛かった~。yさん結婚して子供も大きくなって落ち着いていると思っていたのに、女装が理由で奥さんと別れたの、ところが血のつながっている男の子に、もう成人だけどね、<もう、お前とは親子ではない、縁をきる>と告げられたというのよ。さすがに気丈なyさん泣いていたけど、私だってもらい泣きしてしまった。
あきさんじゃないけど、なぜ女装子だからとこんな仕打ち受けなければならいの?て言いたくなるわよ」
由美さんとそんな話のやり取りしていると、そんな女装子を取り巻く風潮の中でちゃんとした社会人の正人さんが、私を愛して結婚?とは公に言えないにしても家族の一員として迎えてくれた、これは勇気あることなんだと思わずにはおれないのです。
でも内心、なぜ女装子をこうまで排斥されるのか?人と人が愛し合うのに、どうして男と女でないといけないのか。性が男と男ではダメだと誰が決めたのか?
一人一人の生き方を、どんな生き方をするのかは自らの責任で他の誰でもないのに
どうしてダメだということになっているのか?
考えるほどに疑問に包まれてくるのです。
由美さんとの長話は夜半まで続いて、ベットに入っても寝付かれません。
正人さんとのことが脳裏を離れず、<正人さん>心のなかで呼んでいるとたまらなく恋しくなったのでした。
ベットから降りて鏡台の引き出しを開けます。引き出しの奥から赤い箱を取り出しました。
「あきさん会社の指示で当分連絡できないと思うので、寂しいだろうけど辛抱して欲しい。ミカをよろしく頼むよ。だんだん自我が出てきてお守するのも大変だけど、ミカのママ役果たして欲しい。それと僕が恋しくなったら、これを僕と思って自分を慰めてくれたら少しは助けになると思うよ」
最後はにやりと意味ありげな笑みみせて渡された赤い箱でした。
そのときは出発の準備に追われて、正人さんとキッスしてからバタバタして送り出して、夜、寝るときに初めて<なんだろう>と箱をあけたのです。
なかにある黒いグロテクスな曲がりくねったものを見て、誰も見る者もいないのに真っ赤になってしまったのです。
それはアメリカ製のたしかに女装子を慰めてくれる、男のモノでした。
でも正人さんが居ないあいだ、恥ずかしいけど正人さんに代わって役割を果たすものになったのです。
いま、由美さんと話しているなかで、女装子として恵まれた私だと思いながらも、矢張り不安感に憑りつかれて、正人さんに抱きついて助けて欲しい。胸の不安を消して欲しい想いになるのです。
でも、今は正人さんは居ないのです。
<僕が恋しくなったら、僕の代わりに~>
その言葉を思いだし、今夜もまた正人さんの代わりのモノを私は自分の中に招き入れるのです。
<続く>