㊽
ベット脇の小さなテーブルに並んだトレーの朝食。
ミカちゃんのトレーにはどんぶりにお粥が~、筑前煮、かまぼこと白菜の和え物。牛乳、そしてプリン。
「ミカちゃんお待ちかねですよ。食べましよう」
「でもママ、こんなにミカ食べられないよ~」
「夕べはミカちゃん、お熱で晩御飯食べられていないのと違う?しっかり食べて力<ちから>つけたら早く退院できるのよ。それでも残ったらママが~ああ、ママも食べられない~仕方がないからしっかり食べて残しましよう」
私の言い方が可笑しかったのか、ミカちゃんはコロコロ笑います。
「ママしっかり食べるよ」
ミカちゃんはうなずいて、私が牛乳瓶からコップに注いだ牛乳をごくごく一気に飲み干します。
私も負けづにトレーの牛乳をコップに注いで一気に飲み干します。
考えたら朝、家を出てから飲み物は口にしていなかったのです。
「ママ美味しい~柔らかいよ」
お粥を口に運んで、筑前煮を口に入れてもぐもぐしながらミカちゃんは告げます。
「食べているときは物言わないの~喉詰まるでしょう」
「は~いママ」
「声出さない。もう、言っているのに。うなずくだけでいいの」
言いながら笑っていました。
<なにか、もう母親気分に私なっている>
思っておかしくなったのです。
スマホのメロデイーが鳴りました。
スマホを耳に当てると正人さんの声が飛び込んできました。
「あきさんミカの様子はどうですか?」
「はい、大丈夫です。熱も平熱に戻って今も元気に食事しています。午後に回診があるようですから、そのときいつ退院できるか聞いてみますね」
「良かった~実は外国の取引先のお客さんが急に帰国されることになって、今から伊丹までお送りするのです。それが終われば病院に向かいますので、お昼までに行けると思います。」
「急がなくてもいいのですよ。明日もお仕事でしょう。私は今週はお休み貰っていますのでミカちゃんのお世話はできますから。」
「すみません。お世話掛けますがミカをよろしくお願いします」
やり取りしていたら、服の裾引かれました。
ミカちゃんが指をスマホに向けて差し出し頷いているのです。
「正人さん切らないで~ミカちゃんと代わりますから~」
「パパ元気になったよ~ママとお家に帰るからね」
正人さんの声は聞こえないけど、察しはつくのです。
「あのね~パパ、お家に帰ってもママが居るとミカが熱出してもパパは安心でしょう」
ミカちゃんは正人さんの返事に反応してなにか訴えようとしているのですが、言葉を表現できないもどかしさから体をゆするのです。
正人さんの声が漏れてきて、ミカちゃんをなだめて居るのが分かります。
私はそっと後ろから、ミカちやんの体を包み込むように胸に引き寄せささやきます。
「パパは今お仕事だからねミカちゃん」
スマホを取り上げます。
「パパはお昼過ぎたら病院に来ると言っているからママと待ちましょう」
「うん、わかった」
元気に返事するミカちゃんは私を見てにやりと笑うのです。
なにか嬉しい返事正人さんからもらったみたいです。それが気になってミカちゃんに尋ねます。
「ミカちゃんパパは何と言ったの?」
「それがねママ、パパたらママと住むのは待ちなさいというのよ」
「でもミカちゃんなにか嬉しそうだから、まだなにかあるでしょう?」
「う~ん、それは今は内緒にしておきなさいてパパに言われたから、言えない」
「そうなの~それは仕方ないわね。でもママに隠し事するならミカちゃんの家にママは行きませんからね」
「そんなのずるいよママ~仕方ないから~ママ内緒だよ~いい~内緒」
「ハイハイ内緒ね」
「パパミカが退院したらママにミカと一諸に家に来てもらうようにお願いするて言っていた」
「な~んだそんなこと~ママはねパパからず~と前から一諸に住みませんか?て言われていたよ」
「そんなのずるいよママ。ミカに言ってくれないで。パパもミカにそのこと隠していたんだね」
「そうじゃないのミカちゃん。パパはそう言ってくれたけどママがお返事待っていてくださいと言っているからパパはミカちゃんに言えないのよ」
「じやママはパパに一諸に住みますとお返事してくれるのだね?」
「それは言えません」
「どうして?そんなのママずるいよ」
「いいえずるくはありません。ママはパパにお返事しますと言っているのだから、まず、パパにお返事することが先でしょう。ミカちゃんにはパパがお返事するから待ちなさい」
「なんだ~つまんない」
「分かりました。昼からパパが来たら、ママから、ミカちゃんが退院したらミカちゃんと一諸にお家について行きます~て頼むからね」
「やった~それでいいよママ」
やり取りしていると、ミカちゃんはもう病院に居ることも忘れたように元気になっていくのを感じ取れて、明日には退院できると、お医者さんより先に私が判断してしまいます。
お昼、私達の食事が終わってすぐに正人さんが病院にやってきました。
病棟の詰め所に連絡したら、担当医が親御さんに病状説明しますので来てくださいと看護師さんに言われました。
「お母さんもご主人と一諸に来てください」言われてどぎまぎしてしまいましたが、正人さんに言ったら
「お願いしますあきさん。私と一諸にお母さんになって行ってください。まあお母さんにしては若い娘さんで申し訳ないのですが」
「いいのですよ。私はミカちゃんのお姉さんママになっているのですから」
答えながら笑ってしまいます。
「看護師さんどう思っているでしょうね?」
「私の奥さんでは若すぎると思っているにちがいありませんよ。でも、ミカがママ、ママと言っているから後添えと思っているかもです。すみません、あきさん失礼しました」
「仕方ありません。気にしていませんから」
やり取りの後、二人で詰め所に行くと隣の部屋に案内されました。
デスクの前に眼鏡をかけた若い先生がカルテを見ていたのが、入ってきた私達に気が付いて挨拶すると、笑顔を向けます。
「どうぞお座りになって下さい」
勧められて、デスクに向かい合って座ります。
「担当医の○○です。ミカちゃんですか?お子さんの熱下がりましたし、検査の結果も異状は見当たりませんので。明日には診察した後退院して頂きます。それで病状ですが、簡単にいうと子供熱です。このぐらいの子供さんが何かのショックで熱を出したりすることはありますが、原因はさまざまです。それでミカちゃんの場合ですがなにか心当たりあるでしょうか?」
「父親の私は勤めで家で居るのが少ないのでわかりかねますが、私の母ならわかるかも知れませんが、今は不在ですので」
「お母さんはどうです?気が付いたことはありますか?」
突然医師の質問が私に向けられて、驚きました。<先生、お母さんと私に言った~>
思わぬ質問に答えようありません。返事をためらっていると~横から正人さんが素早く助け舟の返事をしました。
「ああ先生、家内は一年ほど前に亡くなりました。」
「亡くなられた?お若い筈なのに、ご病気ですか?」
「いいえ事故です。交通事故で~」
「そうですか、お気の毒です。それで子供さんの世話は?」
「私の母親が見ています。ただ母親も実家に帰ると私が見ることになって、ミカには寂しい思いさているです」
「なるほど、でも病室ではこの若い方に娘さんはママと言ってらしたとか?」
「はい、最近私も仕事の関係でミカの面倒見れないことがあるので、母親代わりといいますか?お姉さんママになってもらっているのです。若い娘さんに申し訳なく思っているのですが」
「ず~と見てもらっているわけではないと?」
「はい、ときたま~それも最近になってからです」
「そうですか?それではお姉さんママさんにお尋ねしたいのですがいいですか?」
「はい、ミカちゃんのことでしょうか?」
「そうです。そのミカちゃんですが、貴女に懐いていますか?」
なぜこんな質問先生はするのか?疑問に思いながらも、答えることのできる質問です。
「はい、懐くていうより母親扱いされてます。私、亡くなられて奥様ににているようなのです。それもあってミカちゃんは私を母と思っているようです」
「ご主人娘さんは熱出されたのは今回が初めてですか?」
「そういえば母がときたま熱出すこと気にしていました。ただあくる日元気なものですから大層にはかんがえていませんでしたが」
「私は専門医ではないので断言できませんが、多分お子さんの熱の原因はお母さん恋しの発熱だと思います。たびたび熱を出すのはお母さんの居ない寂しさからのように思えます。詳しいことは心療内科を受診されることお勧めします」
「そうでしたか?母親の居ないことは子供にとっては、私達が思う以上にすごく辛いことなのですね。分かりました。どうするか?考えさせていただきます」
正人さんは断言するように答えると、立ち上がって頭を下げます。慌てて私も習って頭下げました。
診察室を出て病室に帰る途中です。
「あきさん先生の話聞いて僕は考えることあります。それであきさんに相談があるのです」
正人さんの緊張した言葉から私は多分?後、正人さんの相談の内容が、言われることが分かるような気がするのです。
<続く>