ミカちやんは病院にいると言ったけど、本当は病院に居たいのではなく私と居たいからだということは分かつています。まあ病院に居ると言ってもホテルじゃないのですから病気が治れば退院するのですけど。

 結局ミカちゃんは退院して家に帰ったとき私と一緒に住みたいということが、ミカちゃんの本音なのでしょう。

 戸惑いを見せる私に急に心配な表情見せてくるミカちゃんに、私はなぜか胸締め付けられる気分になるのです。

 

 ミカちゃんのことだけで考えるとミカちゃんと暮らしを共にすればいいことです。 

 でも家族として住むとなると簡単ではありません。

 正人さんは<一緒に住もうと言ってくれます。でもその意味は正人さんとも同居~夫婦関係になるということに通じます。純女さんならそれでもいいとしても、女装子の私には前提~正人さんにカミングアウトして正人さんがいいと承知することで初めて私の家族入りが可能になるのですから~。

 

 由美さんや優子さんは正人さんがあきに本気になっているなら、受け止めてくれるはずだと言います。

 でも男性が女装子相手にそこまで踏み込めるものか?私にはその信じられない不安があるのです。

 私の知る男性は勤め先の病院の事務的な関係でしかない男性の人達、女装子に関心がある男性とすれば発展に通ってくる男性は、女装子を性の対象として見ている男性ですから、これは私にとっては論外です。

  そして初めて私が心動かした男性の正人さんは、女性の私を愛してくれているし、私もまた自分が女性として正人さんを愛しているのです。

 でもそこに女装子が介在してくるなら正人さんには別の次元の私をみることになるのです。

 女性としての奥様を愛してきた正人さんが、果たして次元の違う女装子の私を愛することできるのか?

 それが私の判断できない悩みになっているのでした。

 

 考えるとそれは私だけでなく、正人さんもまた私の真の姿を知ったとき同じ悩みを持つことになると思うのです。そして私への愛する気持ちが揺らぐことになったとしても、私は正人さんを責める気持ちはないと断言します。

 たしかに正人さんの愛の揺らぎの宣告に、私はそのショックに打ちのめされるかもしれない。でもそうであっても静さんのいうように私は、女装子の定め、ただ耐えるしかないと~その言葉がおもいだして耐える積りです。正人さんを恨む気持ちはありません。

 

 それが世間一般の常識を持つ男性の反応と思うことで、自分を納得させるつもりです。そして私自身は正人さんを愛した気持ちは変わらずゆるぎないと、その気持ちを持ち続けるのです。

 

 「ママ~どうしたの、矢張りミカの家に来るのは無理なの?」

 ミカちゃんの問いに私の物思いは中断しましした。

 ミカちゃんの子供とは思えない憂いの表情の顔つきが私をのぞきんでいたのです。

 「ゴメン、ミカちゃん。ママそのこと考えていたの。ママがミカちゃんと一緒に住もうと思えばミカちゃんだけでなく、パパにミカちゃんのおばあちやんにも相談しなければいけないでしょう。それにママだって

お仕事持っているから、ミカちやんの面倒見れるか?考えないといけないでしょう。ミカちやんのおばあちやんだって田舎に家があるから、こちらにばかりおれないし、なによりお歳だからいつまでもミカちやんの世話できないから、ママがミカちゃんの世話するとしたら、ママだってお仕事辞めないといけなくなるでしょう。

 分かる?ミカちゃん。大人の世界は難しいのよ。ママが頑ばるだけではどうにもならない事があるのよ」

「うん、ミカはママが来てくれるなら辛抱する。でもパパはミカのいうことは何でも聞いてくれるのに、どうしてなの?」

 理解できない表情のミカちやんをみて可哀そうな気がしてくるのです。でも、まさか私の女装子のこと子供に話して分かることではないのだから。<私だって辛いの>内心ミカちゃんに言いたい気分になるのです。

 

 「そんな顔しないでミカちゃん。ず~とは無理だけど退院したらママも一緒に帰ってミカちゃんの家で一寸だけミカちゃんと一緒に暮らすからね」

 ミカちゃんに言った言葉は出まかせでなく私は計算していました。ミカちゃんの入院は1週間とみて勤め先の病院に休暇を申請していたのです。でもミカちゃんのこの様子では明日でも退院できそうだから、私の休暇の期間だけミカちゃんと共に暮らせると考えたのです。

 正人さん?正人さんは私を受け入れてもらえると信じています。

 そしてひょっとしたら、カミングできない私に代わって、正人の手で私の姿<正体>を見極める機会があるかも~

そんなことも考えていました。

 卑怯なのは分かっています。自分の勇気のなさに代わって、自分を追い詰めることをして、このどうにもならい自分のあいまいさに決着つけようと、そんな期待をもって計算していたのです。

 ミカちゃんはそんな思惑持つ私を知ることなく、素直に喜んだのです。

 「ホント!ママ~早く退院しょう」

 ミカちゃんの顔が一気に明るくなって笑顔になるのを見て、なにか私も幸せな気分になるのが不思議なくらいです。

 

 廊下をがらがら音がしてきました。「配膳です~」病院の担当の人の声がします。

 「ミカちゃん朝食がきたよ」

 「ママ私お腹ぺこぺこ~」

 ミカちゃんがはしゃいだ声上げます。

 「残念~ママの病院食ないの」

 「じやママ、私のを一諸に食べよう」

 なにか嬉しそうに言うミカちゃんです。

 

 とたんに病室の戸が引かれました。

 看護師さんが両手でトレイ捧げているのです。

 <なに、子供の食事に~?>ふしぎに思って見ていると、看護師さん~

 「お母さんの食事もご主人に頼まれていますよ」

 ベットの細長いテーブルに置かれたトレイ。おかゆがお椀に~ミカちやんの食事。

 そして、もう一つのトレイのご飯が私です。

 正人さん頼んでくれていた~思うと、自分でも看護師さんの言ったように、私はお母さんで正人さんが、主人と思う気分になってしまうのでした。

 

<続く>