「あきさんありがとう。とにかくタクシーで来てください。迎えにいかせますから」

 「はい、分かりました。今、身支度していますからすぐ出られます。」

 スマホを耳当てながら、片手はボストンバックにまづ着替えの下着、女性衣類を詰め込みます。

 多分一週間は病院に居なければいけない判断で、その用意でメイク用品からタオル迄生活用品思いつく限り旅行用の大きなキヤリーに押し込みます。

 

 でもまだ寝間着のままです。頭も地髪のまま~大急ぎで~

 鏡台の前に座り込んでメイクして女性に変わります。

 表に出たら、もう迎えのタクシーが横付けしていました。

「運転手さん○○病院まで何分ぐらいで行きます?」

「まだ渋滞に入っていないから飛ばしていけば20分位でいけますよ」

「良かった~お願いします」

 

 走り出した車の中で正人さんに連絡します。

「正人さんタクシー今、そちらに向かっています。20分ぐらいで着くそうです」

「分かりました。運転手さんに外来駐車場に入ってもらってください。そこが救急搬送の入口で時間外入口にもなっているのです。僕はそこで待っていてあきさんと交代してタクシーに乗りますので運転手さんに言って下さい」

 「はい、それでミカちゃんは病室で大丈夫ですか?」

 「熱が下がって、今は寝ていますよ」

 「良かった~」

 スマホをきって運転手さんに告げます。やっと気分が落ち着きました。

「子供さんが病気になる親御さんも大変ですね。ご主人と交代ですか?」

「ええ?ハイ会社からの呼び出しで、交代です」

 反射的に問われるままに答えていました。奥様になっているのです。

 

 それにしても休日というのにそれも早い時間に会社に呼び出されるなんて~

 管理職も大変だと思います。

 

 思いながら気が付いたのは山道に入って、樹木に包まれた薄暗い道を車は登っているのです。

 時々木々の隙間から朝の太陽の光が差し込んで、反射した光が山の緑を浮き立たしているのです。

 タクシーはいつの間にか街並みを抜けて山手に入っていたのです。

 病院は山の中腹に半円形にカーブ描いて建っている、白い清潔感のある大きな建物でした。

 舗装された広い進入路の道路を曲がりくねりながら、登ったところ広い駐車場が病院の建物の前に広がっています。

 

  タクシーは病院の時間外入口に立って、手をあげている正人さんに向かって進んで横付けに止まります。

 「お早うございます。あきさん朝早くから呼び出してすみません」

 正人さんは私に声掛けると、運転手さんに<駅まで行くので一寸待って下さい>声掛けてから私に向き直ります。

 「あきさん病棟は隣の棟の3階です。ここからエレベーターで3階に上がって渡り廊下行ったところ、部屋は30〇号室で個室です。すみませんお休みなのに呼び出して」

 「お早うございます。いいのですよ。ミカちゃん熱下がって良かったです。」

 「解熱の注射して熱が下がってきました。もう安心です。今は眠っています」

 「良かった~後は私に任せて、正人さんは早く会社に~」

 「ありがとう助かりました。お願いしますあきさん。行ってきます」

 「慌てて帰らなくても大丈夫ですからね。ミカちゃんは任せて下さい」

 片手あげて私にうなずいてからタクシーに乗り込んだ正人さん見送ってから、病院に入りました。

 

 明りを落としてうす暗くした廊下は人の気配もありません。エレベーターに乗り三階で降りて病棟に向かう廊下を行くのですが、静まり返って私の靴の音だけが反響するのです。

 ミカちゃんの病室はすぐわかりましたが、隣が看護師詰め所で挨拶に寄りました。

 面会時間外で病室は身内しか入れないのです。

 詰所のカウンターの窓越しに看護師さん二人の姿が見えます。詰め所に入ったところで声掛けると、年配の看護師さんが立ち上がりました。

 

 「お早うございます。穂高です。お世話になります」

 挨拶したとき私はミカちゃんの母親だったのです。

<続く>