「あきさん何ぼんやりしているの?」

  その声に呼びさまされました。 

 優子さんの唄の世界?いいえ、正人さんとの追憶の世界にひたっていた想いから私は引き戻されたのです。

  由美さんが私をのぞき込んでいました。

  唄い終わった優子さんも首かしげて私を見つめているのです。

  いつの間に吞んでしまったのか、空のジョッキーがテーブルに鎮座しています。

 

 「ゴメン!私、考え事していた」

 「考え事?あきさん貴女とうとう正人さんに告げたの?」

 やった~そんな表情の由美さんです。

 「告げるて?カミングアウト?」

 「そうよ。さっき寝ているミカちゃん渡したとき、正人さんニコニコして嬉しそうだったもの。うまくいったのね?」

 「私達、貴女のためにお膳立てしたのだから、期待に応えてくれたのでしょうね?」

 横から口出ししてきたのは優子さんです。

 「もう~そんなことここで言わないでちょうだい。人前で話すことじやないでしょう」

 カウンター席で常連さんの女装子さんがママとしゃべっているのです。

 

 慌てて二人をカウンターから離れたボックス席に引っ張っていきます。

 ソフアーに私が座らされて、ミニテーブル挟んで向かい合って椅子に座る由美さん、優子さん達、好奇心ありありの表情なのだから~。

 「それで~?あきさんもう一度聞くけど、正人さんにカミしたの?」

 由美さんはどうしても正人さんへのカミングアウト私にさせたいみたい。<なぜ、そんな辛いこと私にさせたいの?>

 ひどい!由美さんに言いたい思いです。でも大先輩にそんなこと言える筈ないのです。

 

 「カミじやないけど、正人さんに<亡くなった妻にだって外でこんなことしない。あきさんだからできるんだ>て言われた~」

 「ええ、なに~それ~どういうこと?」声上げた二人。

 由美さんと優子さん顔見合わせて頷きます。

 「あきさんだからできるて~あきさん正人さんになにされたの?」

 由美さん笑み浮かべて聞くところみると、答えは分かっているみたいなのです。

 「<あきさんだからできる>て、矢張りそういうことなの?あきさん小出ししないで言いなさいよ」

 優子さんがじれったいそうにせかします。

 でも催促されるほど言えなくなるのです。正人さんに抱き着いていってキッスを受けていった自分の行動を思い出して、恥ずかしさに取り囲まれるのです。

 「あきさんがなにされたのか位は分かっているのよ、念のためと思って聞いているだけだから安心なさい」

 由美さんに諭されると言わないわけにはいかなくなると思いながらも言えないのです。

 「そんなこと言えるわけないでしょう。そんな恥ずかしいこと~」

 由美さんに背中押される感じで、つい本音を口走っていました。

 「恥ずかしい?あきさん貴女もしかして~」

 信じられない?表情で身を乗り出す由美さんです。

 「正人さんに抱かれたの?やったの?」

 優子さんが後を追って声上げたのでっす。

 優子さんの露骨な言葉にもうパニック寸前です。

 「やった??もう~優子さん貴女と同じようにしないでよ。これでも私処女ですからね」

 慌てて打ち消した私の言葉の口調が激しかったのか?優子さんびっくりした表情見せて口つぐんだのです。

 「アハハそれはあきさんには無理よね。いくらムードがあってもあの場所ではね~、私達ならともかくあきさんも正人さんだってそんな勇気ないでしょう」

 慰めてくれているのか?冷やかしているのか分からないけど、由美さんの言葉に救われて落ち着いた気分に戻りました。

 

 でも<処女>だなんて、自分ながら恥ずかしくなります。

 女装子が男性相手に関係する経験がないと<処女>というのかしら?

 <私は女~>そう思い込んで女装子しているけど、体は男でいるのに<処女>なんて合わない気がするのです。

 それより、女装するために発展場の女装サークルに通っていると、いくら身持ちが固いと言われていても環境がそうさせるのか?引き込まれることが、ないとは言えないのです。

 女性が男性を愛するのは当然となっているように、女装子もまた女でいる限り男性を愛するのもまた同じという気分になるのです。

 それは私もまた同じなのです。

 そして発展場の環境に居る限り、男に愛されたい、その想いの虜になってしまうみたいです。

 だから私もまた男性のお相手したことがあるのです。

 

 その男性は私よりはるかに年上の年配のおじさまでした。なにか父親みたいな雰囲気を私は感じて、気を許しておしやべりするようになったのです。

 居酒屋やカラオケに連れて行ってくれたりして、凄く優しくて父親に甘えている気分の付き合いでした。

それがあるとき発展場の談話室でおしやべりしているとき、何気ないような口ぶりでおじさまに<隣の部屋に行こうか?>誘われたのです。

 そしたら私はなんの抵抗もなくうなずいていたのです。

 行けばどうなるのか?分かっていました。それなのに隣の部屋の襖戸を開けて暗い部屋に入っていくおじさまの後に従ったのです。

 

 カーテンに囲まれたベットが並んでいます。

 カーテンが閉まっているベッドは内に人が居るのです。くぐもった声がカーテン越しに聞こえます。

 初めて入った部屋だけど、なかでどんな行為がされているのか?知っています。

 自分もこのおじさまと同じことすると想像すると、自然と胸の動悸が激しくなるのです。

 

 空けられたカーテンのベットの前で、おじさまの手招きする黒い影に誘われて寄っていくと、カーテンを閉めたおじさまは、私の手をつないでベッドに座らすのです。

 おじさまは私の横に座ると私の手を取り耳元でささやきます。

「心配しないで~優しくするからね~なにもしないでいいから~」

おじさまの落ち着いた言葉のささやきは、凄く安心感を与えてくれます。

おじさまの肩に体をもたれかかり、衣服を脱がされるのもなすがままです。

素肌になった私の太ももをおじさまの手が滑らかにさすります。

とたんに快感が電気のように走って思わず息吞みました。

ええ~どうして?不思議さが脳裏を走りました。触られただけでどうして感じるの?

「滑らかな太ももだね。女の子と変わらない」

 ささやくおじさまに嬉しさがこだまします。

 

おじさまの手はまるで魔法の手のようでした。太ももだけでなく体の至る所をさわられると快感をもたらすのです。手の動きだけではありません。耳に息吹きかけられ、首筋、乳首、そして男性の印、陰部迄おじさまの口は訪ねてきて快感を与えてくれるのです。

 激しい高揚感に私は声上げ続けます。

 

私の叫びに引かれてか?カーテンの開け閉めする音がして、のぞかれているのに気が付いたけど気にもなりません。ただ、波のように押し寄せる快楽にあえぐばかりです。

 でもおじさまは聞いていた他の男のように、私とのつがいを交わすことはありませんでした。もうお歳だと気が付いたのは、私の手が握りしめても何の反応もなく柔らかいものでしかなかったからです。

 

 私が精を吐き出し次第に高揚感が静まったのを見届けると、おじさまは素早く衣服を着ると、おじさまのテクニシャンにほんろうされて、ぐったりとして下着姿のままの私に衣服を着せてくれたのです。

「ありがとう、あきさん。もうこんな機会ないと思いながらもここにきたのに、あきさんに出会って素敵な贈り物頂きました。最高に嬉しい経験でした。ありがとうお別れです」

 二コリと私に笑み見せて出て行くおじさまの後ろ姿を見送る私。ええ、どういうこと~?いぶかしさが解けないままに見送る私の記憶に残ったのは、おじさまの後頭部に真っ白な髪の毛が半分しめていることでした。

 

 いま、私は優子さんに処女と言い切ったけど、こんな体験してもそれでも<処女?>と思ってしまうのです。

 でも、由美さんや優子さんと比べると私はあまりにも違いすぎます。

 由美さんは着物ベテランだけではないのです。

 男さん相手では百戦練磨~お相手した男性数知れず。連続3人お相手したという剛のひと<女性>なのですからね~。

「それであきさん、ひつこいようだけど、もう一度聞くね。正人さんにカミしたの?」

 追求止めない由美さん相手では答えるしかないのです。

「カミできなかったけど、正人さんに愛していると言われても答えることできなくて、返事できなくていたら、正人さん無理して返事しなくていいよ。返事したくなった時に答えてくれたらいいからと言われたの。

だから私が悩んでいるのを察して、気が付いたのでは?と思うの」

 

 「一寸あきさん、正人さん愛していると言ったの?どうして?なぜそれを先に言わないの。」

 由美さんは呆れたように言います。

 「本当よあきさん。おめでとうじやないの。でもあきさん私達の気持ちもわかるでしょう?正人さんと二人だけにするために、場所作って、ミカちゃん連れ出して、眠たいというからおんぶして~ムドーつくりしてきたのよ。だから私達に肝心なこと言う義務あるでしょう」

 優子さんはまくしたてるのは、さっきの私のきつい言い方の返し?みたいです。

 「ありがとう、二人のおかげです。おかげで正人さんの着持ち分かりました」

 「ほんと、愛している~最高の返事だけどね~」

 喜んでくれているようだけど、由美さんはなにか思案顔なのです。

  気になって「由美さんどうかしました?」問いました。

 

 「いいえね、貴女にカミするように言ったでしょう。貴女は嫌がるけど、女装子だと言えなくて最後バレて別れた女装さんのこと考えてしまうの。だから最初にカミして相手の気持ちが本物か試した方が、後で泣かなくていいかなと思ったの」

 「そうだったのですか?でも由美さんいいのです。正人さんが今の私に愛していると言ってくれただけで私、十分です」

 「そう?あきさんがそういうなら、それでいけどね~」

 なにか心残りのような由美さんに安心させるように言いました。

「私、自分が正人さん愛していること分かったの~」

<続く>