大輪の花が咲くような浴衣姿の由美さん、ビールのジョッキを両手に持って胸の開いたドレス姿の優子さんその二人にお辞儀されて、さすがに正人さんも驚いたようです。

  すぐに気づいたのでしょう。慌てて立ち上がって深々と頭下げます。

 

 正人さんなにか<お世話になりました~>とでも挨拶したのでしょうが、ドーンパチパチ~花火の一斉打ち上げが始まって聞き取れません。

 間断おかず次々打ち上げられる花火は、夜空に次々色とりどりの花を広げるのに、夢中になって私達は歓声を上げてしまいます。

 

 気が付くと由美さんも優子さんも前のテーブルにそれぞれ男性と並んで座り、ジョッキー掲げてビール飲みながら歓声上げていたのです。

 そして由美さんも優子さんもそれぞれ男性に背中に手を回され、もたれかかっているのが淡い光の中で見て取れるのです。

 

 いえひとごとではありませんでした。

 私と正人さんの間でミカちゃんが私の浴衣にまつわるようにして、夜空に広がる光のショ―に歓声上げています。気が付くと私は正人さんに片手握りしめられていたのです。

 由美さんや優子さんに見られたら~恥ずかしさに握られた手を解こうとしたけど、私の手より一回り大きくがっしりした正人さんの手を解けそうにないのです。

 

 それなのに正人さんは夜空の饗宴に気を取られて、自分のあり様にまるで気が付いていないように思えました。でも、それが違っていました。正人さん、知っていての行動だったのはすぐわかったのです。

 花火の連続打ちが止まって一息つくと、私と繋いだ手を解くことをせずに正人さんはミカちゃんの手を引くと由美さんのテーブルに行ったのです。

 

 それははた目には家族連れ、一家の姿そのままに見えたに違いありません。

「初めまして、穂高正人です。このたびはあきさんともどもお世話になりありがとうございました」

 頭下げた正人さんに隣で座っていた優子さんが慌てて立ち上がります。

 正人さんの背丈に負けない優子さんの大きい体だけどセクシーな姿に、座っている男性二人も見上げるのです。見慣れているけど矢張り優子さんは大きい~

 内心正人さんが疑問感じるのでは?ハラハラする思いです。

「初めまして、私は由美と言います。隣の大きいのは優子です。あきさんの姉を自称しています。正人さんにお目にかかって私安心しているのですよ。正人さんにあきさんをお任せしてもいいと~」

 由美さんの挨拶に隣の優子さんも笑み浮かべてうなづくのです。

 

 ここまでが私の限界。優子さんにしゃべられたら絶対正人さんに気付かれる。慌てて口挟みます。

「ミカちゃんお姉ちゃんたちに挨拶は?今日は言いましようね」

「はいママ~お姉ちゃんこんにちは~私、ミカです」

「ええ~ミカちゃんちゃんとご挨拶できるのね。ミカちゃんのことはママから聞いていますよ。新しいママができて嬉しいね」

 由美さんはミカちゃんに言いながら、ちら~と正人さんに笑み向けるのですから~

 <ああ、これでは私は正人さんの奥さん扱いじゃないの>

 <私は奥さんなどなれる筈ないのに、由美さんは何考えているの?>怒るわけもいかずもやもやが胸にたまるばかりです。

「そうよミカちゃん、ママと一緒に住めるようにお姉ちゃんは応援するからね」

 ついに優子さんがとんでもないこと言ってくれました。

「ホントお姉ちゃん?ママと住めるの」ミカちゃん迄が期待の笑み見せて問い返したのです。

それに正人さんは否定するどころか、にこにこしてやり取り聞いているのです。

 

 「穂高さん私達はあきさんとは仲良しフレンドですの、だからあきさんには幸せになった欲しいのです。今日は正人さんにお会いして良かったです。安心してあきさんお任せできます。あきさん幸せにしてやってくださいね」

 由美さんは笑顔見せてでも真面目な表情で正人さんに告げるのです。まるで娘を嫁にやる母親の口ぶりです。横では優子さんがうんうんと笑顔でうなづき、椅子の男性達も興味の表情でやり取り聞いているのは、まるで立会人とさえ思えるのです。

 

 本来なら私は嬉しさに包まれて幸せを感じる瞬間でいなければならない筈です。でも今の私はパニック寸前でした。

 このままでは私の意志とは無関係に由美さん達のベースで進んでしまう。そしてその先に待ち受けているのは私の本当の姿を正人さんが知ることになる。

 そこには死ぬより辛いことが待ち受けているのだ。それに私は耐えられるのか?

 なんとかしないと~思うのだけど言葉に出せないうちに事態はどんどん進みます。

 正人さんが前に出たのです。

「勿論です。僕もミカもあきさんに頼っています。由美さんもこれからもあきさんのフレンドとしてあきさんを支えてあげてください」

「分かりました。あきさん良かったね~」

私に笑顔向ける由美さんに怒るより恨めしい気持ちです。

ここできっぱり由美さん達のお節介だと正人さんに告げなければ、正人さんをその気にさせてしまう。

早くと気持ちは焦りながら言うべき言葉が口に出ないのです。

 

「だめ、ダメなの~」口に出た言葉が誰も聞くことなかったのは、花火の連続打ち上げが始まり、色とりどりの色彩が空を埋め、音の連打に合わせて誰とも分からない歓声が上がって私の言葉はその中に埋もれてしまったのです。

 

 マイクの声がして今の花火の連打が終わりと告げます。

 「凄かったね花火~」

 「うん凄かったママ」

 ミカちゃんと会話を交わしても、正人さんには声をかけずらくなって無視する形になったのです。

 花火の饗宴が終わると、互いの顔がぼんやりと識別する暗さが戻ってきます。屋上にそよとの風が感じられます。

 そして帰ろうと立ったときです。

 

 由美さんが近ずくとミカちやんの前で腰を落としたのです。

「ミカちゃんお姉ちゃん達この近くの夜店に行くのだけど、金魚すくいもあるからお姉ちゃん達と行こうか?」

「うん、ミカ行く!パパ、ママ行こう」

 元気なミカちゃんの声に釣られて私も相槌です。

「正人さん帰り道になるから夜店行きましようか?」

正人さんを誘った言葉が由美さんに遮られたのです。

「いえ、貴女達はここに居て頂戴。ミカちゃんは私が連れて行くからあなた達はここで涼んでいなさい」

「ジョッキー私が返すから」

 優子さんがテーブルのジョッキーを持っていきます。

<ああそういうこと?私達を二人だけにしょうと~気利かせて~>

すぐにそのことに感ずいたのですが、それは無理です。

 

 当然のように~

「ミカ、パパとママと行く!」ミカちゃんが叫びます。

「ミカちゃん一寸お姉ちゃんの言うこと聞いてくれる?」

由美さんがミカちやんの手引いて少し離れると、しやがんでミカちゃんの耳口寄せてなにかささやくのです。

 すると、ミカちゃんがにこりと笑って頷いているのです。

「ママ、ミカお姉ちゃんと行ってくるからね」

その返事に、あまりの変わりように唖然とします。

一体由美さんはミカちゃんになにを言ったのか?わけわかりません。

<続く>

<注・お待たせ~次からお待ちかね、あきと正人のラブラブの始まりです>