「じや、あきさんそろそろ行きますか?」

 正人さんに声掛けられて私はミカちゃんを腕から降ろします。子供の成長て早いのものです。ミカちゃんを腕のなかで抱いていると持ち重りするのです。

 「ミカちゃんママと手繋いで行こうね」

 声掛けると、見上げたミカちゃんはうなずいて、私と正人さんを交互に見ながら

 「ママもパパもミカと手つなぐの~」

 言って、私達の手に小さな手を絡ませるのです。

 

 目指す行先は花火会場ではありません。

 それがミカちゃんが<花火行きたい~>やかましくせがむのだけど、花火大会は去年の人出が55万人で今年もそれぐらいの人出と分かって、とてもでないが子供連れで行けそうないのです。

 正人さんさんが知り合いのビルの屋上当たっても先着の予約あってダメとなり、私が由美さんに相談したら行きつけのスナックのビルの屋上を確保してくれたのです。

 

 <ただし私達も一諸だからね>と、由美さんが優子さんと顔合わして笑み浮かべて言ったのが、条件つけられるみたいで、二人がなにか企んでいる感じがしたけど無視することにしました。

 でも、なんとなく気になるようなことがしたのは確かでした。

 

 

 暑かった夏の日差しも薄くなり、夜の帳<とばり>が落ちてきて、商店街に入ると店の明かりが私達の歩く道に映えるのです。今日は花火に行く人たちで商店街の人の通りが多く活気があります。

「あきさん時間が戻ったような気がします。」

 正人さんが歩きながら私の耳元でささやいたのです。

「えっ!」何のことか?意味わからずに正人さんを見返すと~正人さんは照れたように笑顔向けるのです。

「いや、その浴衣姿のあきさん見ていると、妻とミカ三人で歩いているような錯覚してしまって」

「そうでした。この浴衣奥様が着てられたのですね。でも奥様は私よりずっと綺麗な方だったのでしょう?

私なんかには代わりは務まりませんわ」

「いや、すみません~そう言ったからと言ってあきさんを妻の代わりと思っているわけではありませんよ。僕はあくまで、あきさんはあきさんと思っていますから誤解しないで下さい」

 慌てて言葉を足した正人さんに、<いいひとなんだ~>と、なにか安んどの気持ちが広がるのです。

 

「ね~ママ、パパとばかり話しないで、ミカとも話ししてよ~」

 ミカちゃんに握っている手を振られました。

「あら~ごめんなさい。じゃ、まだ陽が暮れてないから花火はまだだし、ミカちゃんあそこのお店でソフトクリーム食べる?」

「うん食べる、たべる、この前駅でママと食べたね」

「良く覚えているじゃないミカちゃん。正人さんよろしい?」

「どうぞ、どうぞ、私も欲しいです」

「ああ、座るの空いた~」

 ミカちゃんは叫ぶと、お店の前の縁台に駆け寄ります。私も後追います。

「ミカちゃんまたチョコでいいの?」

「うんチョコでいいよ」

「正人さんは?」

「僕はバニラにします」

「じや、私もバニラに~」

 私達のやり取り聞いていたとみえて、お店の人はコーンカップに注いだソフトクリームを差し出します。

チョコをミカちゃんに手渡すと、財布から千円札をだすと~

「あきさん僕が払いますから~」

 正人さんが財布を出すのを押しとどめて、お店の人に支払います。

 差し出されたバニラを正人さんに渡して、三人並んで縁台に座ってソフトクリームをなめていると、前を花火に行く人がぞろぞろ通りながら、ちらちら私達に視線走らす人もいるのです。

 さすがに恥ずかしくなります。

「恥ずかしい~内に入れば良かった~」

「なかは満席で無理ですよ。まあいいじゃないですか。家族連れがソフトクリーム食べていると思っておかしく思われませんよ」

 正人さんになだめられると落ち着く気分になるのだけど、やはり体の内が熱くなるのです。

 

 とにかく早く食べないと~ソフトクリーム食べていると視線感じるのです。顔をあげて見ると正人さんが

ソフトクリームを手に持って、笑顔で私を見つめていたのです。

「僕、ソフトクリーム食べたのは6年ぶりです。妻と婚約中に一諸に食べた切りです。あきさん見ていたら思い出しました」

「ええ、素敵です。普通は婚約のデイトでは喫茶店でコーヒー飲みながら会話するものだと思っていました。ソフトクリームでね?」

「それがね、僕は仕事に振り回されて、女性とデートする暇がなくて婚約した妻が初めての女性とのデートだったのです。若いということもあって女性の接し方など分かりません。田舎から出てきた婚約者だからと

繁華街、千日前に連れて行きました。

 どんなお店に行けばいいのかもわかりません。婚約者に聞いたのです。なにか食べたいものありませんか?てね。そしたら婚約者は<正人さんのお好みでいいですよ>と答えたので、お好み焼き屋に連れていったものです。笑わないで下さい。妻は僕に任せるという意味で<お好み>といったのを僕は勘違いして<お好み焼き屋>に案内したのです。そしてその後があるのです。<お好み焼き屋>に入って向かい合ったとき妻が<暑いですね>と言ったので、ソフトクリーム注文して、それだけでお店出たのです」結婚してから妻に笑われました。<お好み屋に入ってお好み焼き食べづにソフトクリーム食べた>てね。

それから僕はソフトクリーム食べなくなったのです」

 

「なにかじ~んとするお話です。正人さん奥さんを愛してらしたのですね。それが伝わってきます。なにかうらやましくなってきました」

「そう思いますか⁈ありがとう、でもあきさんいま僕はソフトクリーム食べていますよ。なんとも思わずにね。あきさんと一諸だからでしょうか?なにか因縁見たいもの感じます」

 正人さんの言葉になにか含みがあるように感じてどきっとさせられます。正人さんは私を奥さんと重ねて見ているのだろうか?そんなこと思ってしまうのです。

 

 ド~ンと空気を震わすおおきな音がしました。

「ああ、花火~」ミカちゃんが縁台から立ち上がって叫びます。

「花火始まるのかしら?」

 私がつぶやくと、

「大丈夫、試し打ちです。でもそろそろ行きますか?」

 正人さんの返事に縁台から立ち上がり、私はミカちゃんと手を繋ぎます。

 ど~んまた打ち上げる大きな音です。

「ママ、パパ早く行こう」ミカちゃんが急き立てます。

「ミカちゃんまだ大丈夫だから~」

 

 答えながら私達は国道沿いに進みます。

「あきさん淀川から離れていくようだけど?」

「そうなのです。お店のビルの屋上だから川から離れていても花火は良く見えるのですって~」

「どこも花火見物で人、ひとで一杯なのに良くそんな場所ありましたね」

「私のフレンドの由美さんていう人の行きつけのお店なんですって~。ああ、その由美さんにもう一人フレンドの優子さんていう人も来るそうですから紹介しますね」

 答えたもののふと気になったのです。

 紹介するのはいいとしても、二人が女装子とは紹介する気はないのです。でもそれを正人さんに気ずかれたら~何といえばいいのか?いえ、それがもとに私の女装子がばれるのだは?急に心配になってきました。

 

 その私の危惧をよそにまた、ど~んぱちぱちと花火のおとがして~

 「ママ、パパ早く早く~」ミカちゃんが前かがみになって私達を引っ張ります。

 「もうそこよ。そこのテント張り出しているお店の並びの通り入ったとこだからね~」

 一度、由美さんに連れられて行ったお店だけど、忘れていませんでした。

 でも、それより正人さんに由美さんや優子さんに引き合わせてどんな展開になるのか?

 急に心配になってきたのです。

<続く>