㉞ <写真・筆者・梅の花で~・スタジオで~>
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。<冬野あき・愛称・とくみ>
<ママになった女装子>後編。㉞
「あきさんお腹引っ込めて~締めるからね。苦しいけど辛抱して~。正人さんの前で着崩れしたらみっともないからね」
由美さんはスリップ一枚の姿になって、私の浴衣の帯を締めあげるのです。いくら浴衣と言っても帯をきつく締められると胸元の苦しさに、私は息はいてしまいます。
そんな私を隣でスタンド鏡を前にしてメイクをしている優子さんが、私に顔向け笑み浮かべるのです。
「まあ、大変~浴衣着るの手簡単そうだけど、矢張り着付けが大変ね。私、着なくて良かった。まあ、あきさん正人さんと会うのだから辛抱しなさい」
またです。私は正人さんとデイトするのでなくて、ミカちゃんの手引いて花火大会に行く人込みから守るのが私の役目~と言っているのに~
まるで他人事のように言う優子さんだけど、ほんとのところ彼女も浴衣着ると言って由美さんに<着付けお願い>と言っていたのです。
ところが浴衣一式揃えるのに大柄な優子さんの着る浴衣はあったのだけど、下駄がないのです。
いえ下駄はあるのです。私は足は24,5でさすがに女物の下駄はぎりぎりだけどあるのです。ところが優子さんは26?さすがに女物の下駄はありません。
「浴衣に靴穿くなんてできないし~」悩む優子さんに慰めるつもりで言ったのです。
「優子さんお相撲さんの下駄売っているお店ならあるのじゃない?」
「お相撲さん?」
首傾げた優子さん表情が変わったのです。
「あき!私は女よ、どうしてお相撲さんの男の下駄はかなくてならないの?ひどい~」
泣き声で言われて私も慌てたのです。
「ごめんなさい。そんなつもりで言ったのじやないの~」
ひたすら謝ったものです。
結局それが引き金になって優子さん浴衣をあきらめたのです。
女にしては大柄なのが難だけど、可愛らしい顔立ちで美人コンテストで<勿論女装のだけど>入賞した優子さんだけど、足と手が大きく男の部分残しているのが優子さんの泣き所なのです。
でも女装サークルのサイトの伝言版の書き込み見たら、あるある~優子さんへの男性からのコメが~
<談話室で◎時お待ちしています><恋人になってくれませんか><スタイル良くて綺麗です><可愛い系ですね>そんな言葉が連なっているのです。
美人だから~だけでなく、なにか優子さんには男性を引き付けるものがあるようなのです。
着付けしてもらいながらそんなこと優子さん見ながら考えていました。
「はい終わったよあきさん。」由美さんはポンと私の背を叩きます。
「ありがとう由美さん。お手数かけました」
「あきさんホントにあんたは着付け覚える気ないのね~まるで上の空じやないの。正人さんのこと考えているのでしょう?」
由美さんに言われます。
「そんなことないけど、正人さんに浴衣もらったけど、いいのかな~て気になるの。」
「そうよね。でもあきさん正人さんが奥さんの遺品でもある浴衣や帯一式をなぜ貴女にプレゼントしたのか分かる?」
「正人さんに言われたのは、ミカちゃん連れて花火大会行くのに揃って浴衣着て行きたい。奥さんの手つかずの浴衣がそのままだからあきさんに着てほしいて言われたのだけど~」
「そうかな~あきさんは仕事できるけど、男に関してはホントにネンネだからね」由美さんはため息つくのだけど、私にはその意味が分かりようないのです。
「でもいいね~あきさんは、正人さんから素敵な浴衣プレゼントしてもらって~私なんか何人もの男と付き合ったけど、こんなプレゼントしてくれた男など一人もいなかっもの」
優子さんはうらやましそうに言います。
「着付けのし甲斐がある浴衣だものね」
由美さんもうなずき私の浴衣の立ち姿を、自分の作品のように見る由美さんです。
浴衣は、紺青色地に梅・楓・雪輪模様に桜の花に施された金彩がきらめくアクセントになっているのです。そして帯は黄色に近い柿色一色で~
そうなのです。正人さんから花火大会のお誘いあったとき、私はミカちゃんとの約束があったので即座に<行きます>と返事したのです。すると正人さんがいうのです。
「あきさんお願いだけど、僕もミカも浴衣着て行くので、あきさんも浴衣でお願いしたいのです。それで
浴衣ですが、これもお願いになるのだけど、妻が一度だけ着た浴衣があるのです。それを着てもらえませんか?失礼なのは分かっていますが、ミカには去年の夏夜店に妻と行ったときの母親の想い出になる着物なのです。その浴衣であきさんにミカのママになってくれないでしょうか?」
<ミカの為に~>それを言われると私は否と言えなくなるのです。
それを心得て正人さんはミカちゃんをだしにしているのでは?思わぬわけでもないのだけど~・
でも、なぜかそれでも私は正人さんの頼みに従ってしまうのです。
「そうだね、あきさん着姿がすっと引き締まっているものね。あきさん正人さん粋なことするじやないの。それに菊の帯飾り、あじさいの帯どめも。」
由美さんはほれぼれした表情で私に告げます。
「そうなのです。それが由美さんそれだけではなくて、浴衣スリップ、帯板、伊達締め、腰紐、巾着、下駄、それに浴衣ではいらない<お太鼓>まで送ってきて~私、もうびっくりしてしまって~これだけ良く揃えたと思って、でも、なにかこんなに貰っていいのかしら?て、それが気になって~」
「奥さんのを一式全部出したのね。でも浴衣スリップと下駄は違うわね。お店の包装紙で包んでいたからね」
「買ってくださったのですね。恥ずかしい~下駄のサイズ合わしてあったし、スリップも私の背丈に合わしてあって。多分、お母様が揃えて下さったのだと思います。お礼の電話したとき正人さんはなにも言わなかったから」
「多分ね、でも気が付いたあきさん、そのことで~」
意味ありげに私を見つめる由美さんです。
「気が付く?て、なになに~」由美さんがなにを告げようとしているのか?身乗り出し問いました。
「だって亡くなった人の形見分けとしてあげることはあるけど、普通、下着まで送るようなことをすると思う、これは別の意味になると思うの。」
試すように言われて、私ははっと気が付いたのです。
「それって~正人さんの私への意思表示?」
「良かったねあきさん、正人さんが本気だということ分かったでしょう」
笑み浮かべる由美さん。
横から優子さんが口挟みます。
「あきさんに家に来てくださいと言うサインなのよ。こうなるとカミングするしかないね」
言われた時息吞む思いになったのです。
<どうしてカミングなの?そんなこと私の口から言えるわけない。>
正人さんが私が男だとカミングしたときどんな反応示すか?恐ろしいまでの想像です。
ダメです。絶対そんなことできるわけがない~
言わないより、言えないことだと自分に言い聞かす私なのです。
<続く>