「今も言った、お着物マジックと言ったのはね、、、」

 由美さんがお着物の話始めたらいつ終わるかしれないのだけど、後学ののためでもあるけど私の場合は着物を着なければならなとき、たちまち由美さんにすがるしかないのだから、分からないままでも聞かなければならないのです。

 

 「これまで洋装の時は何度もチラ見やガン見されたし、天敵の女子高校生グループにきゃーきゃー囲まれたこともあったけど、お着物にしたとたんにそんなこと一切無くなったの~いえ、それよりもね、お着物にはね不思議な作用というか、効果があるのよ。上ランクのホテルのレストランに行ったとき着物着て行ったら、奥の一番いい席に案内されたのよ。勿論、その時は目的があって私の持っている最高の着物を着ていたこともあったけどね」

へえ~と私達の声が上がります。

 

 それにしても由美さんどうしてそんな最高のホテルに行くことになったのだろうか?まさか一人でそんなホテルのレストランで食事に行くぐらいなら、居酒屋に行く由美さんの筈だけど?

 疑問に思ったけど、すぐ答え見つけました。でもそれはブライバシーに属すこと~女装子はそれをいうことはタブーなんだから~。

 

 それより由美さんの話で、私も思い当たることがあるのです。

 正人さんやミカちやんと保育所からの帰り、私は梅田新道で二人と別れて新大阪の女装サークルに行くのにタクシーに乗ったのです。

 

 由美さんに借りている着物を返すためです。

 そしたら目的地に着く前にタクシーの運転手さんメーター倒してから、車から降ろしてくれたのです。ワンメータ安くしてくれたのです。

 ありがとう~言って車から降りたけど、由美さんの話に思い当たったのです。着物姿の私だったからと~

 

 「着物にそんな力があるなんて思いもしなかった~」

 感嘆の声上げた私に由美さんはうなずいて見せます。

 「そうなの、だからあきさんに着物のこともっと知ってほしいの。究極の女装というのは、<自分で着付けして、女物の着物を着る>ということをね。大層なこと言ったけど、昔のひとはそれは当たり前のことだったのだけど、今ではね~女装さんにいたってはホントに着物着る人少なくなって嘆かわしいのよ」

 

 「すみません。私もその一人で~」

 「いいのよあきさん。なにかあったとき着物を思い出して私の所に来るだけでも喜ぶことなのだからね」

 うなずきながら由美さんは、気持ちだけに~と、私の買ってきた冷えたビール缶を優子さんに渡し、自分もビール缶の封を切って飲むのです。

 私はコーヒ缶です。

 「あきさんありがとう、暑い時の冷えたビールは美味しい~」おしやべりから一息ついた由美さん。

 「ああ、このままカラオケで飲んで思い切り唄いたい~」声上げる優子さん。

 

 優子さんのカラオケでの歌声は女性の声そのものなのです。可愛い顔立ちと相まって知らない人は若い女性と見るのです。

 でもそれがいいのか?悪いのか?私が会うたびに違った男性が付き添っているのですから~。

 

 「優子さんそんなこと言って、子供さんが待っているでしょう」

 私はつい気になって言ってしまいます。

 「いいの、いいの、女の子は父親に抱かれては寝てくれませんからね。おばあちゃんがいいのよ」

 そんな優子さんの返事にそれ以上ブライバシーに踏み込むから、私はなんにも云えなくなるのです。

 でも、内心<優子さんは本当は母親になりたいのだろうな>と思うのです。

 

 「まあ、私も普段は着物着て行くとしたら、カラオケに行くシーンだから,そのへんから説明するね」

 のど湿らせた由美さんが話し始めます。いよいよ本題に入るようです。

 

 「着物の種類は小紋<これは全体に模様が入っている着物。主に普段着で、一寸したお出かけ用>それにたいして正装用は留袖や訪問着なおだけど、小紋には名古屋帯なの。これは正装用の袋帯にたいしてカジュアルな帯で、多くは胴に巻く部分が半分になっているわけ。

 でも現在は昔ほど厳格になっていないけど、大事なのは季節感なの、7,8月は絽<ろ><3~5本づつ糸を絡ませて隙間を作った織り方の着物。それと紗<しや><1本づつ糸を絡ませ隙間を作った織り方>これは絽よりもシールスと決まっているの。

 

 まあ、私の買う絽<ろ>は夏の暑い時着て汗かいたとしても、ポリの絽<ろ>で丸洗いできるし、第一安いものね。絽の名古屋帯もそうだけど、本当は絽の紬<つむぎ>が欲しい所だけど、大島紬や結城紬は目の玉飛び出る値段。庶民には手の届かない代物ですからね。

 でももともとは農家の仕事着だったものなのよ。おかしいでしょう。それが今では超高級品になっているのですからね。

 

 ところで貴女達も知っているように、着物と帯だけで終わらないのが和服。まず長襦袢<これは今の季節では夏用の絽、半衿付になります>足袋、草履、帯締め、衿芯、伊達締め、帯枕、腰紐、そして和装用のバッグ、それに和傘もね~

 それやこれや合計すると安いのを買ってもそれなりの値段になるわけ~」

 ええ~そんなのあり~私だけでなく優子さんも唖然として~

 「若い子<女装子>が着物着ない筈よ~」優子さんが声上げました。でも由美さんは気にもとめず話を進めるのです。

 

 「さて貴女達が苦手な着付けだけど、肌襦袢は省略して、二部式の長襦袢の上のほうを衣紋抜きの紐を縛り、衿が崩れないようにコーリンベルト<着崩れ防止ベルト>を締めて、次に長襦袢の下<裾上げ>の紐を締めてこれで三本。次に小紋を着て、おはしよりつくる腰紐。伊達締めと帯板これらを止めてこれがまた三本。そして帯だけど、浴衣と違って後ろで結ぶので、一番簡単な一重のお太鼓作るのに、帯枕の紐を締めてから、帯締めと帯揚げで留めてこれがまた三本になるの」

 

 由美さんの着物講義に私はため息つきます。

 優子さんと顔見合わして<分かる?ううん?>とお互い首振るばかりです。

 「由美さん帯以外に9本の紐や板を胴回りに巻き付けるのでしょう?これって着物着るのて~由美さんに似てドM<えむ>じゃない?」

 優子さん分からないままにとんでもない意見述べたのに笑ってしまったのは、由美さんがSMで縛られることが好きだからです。

 

 「それにしても由美さん着物着るて~大変だと改めて思うのだけど~由美さんの言うように<究極の女装とは自分で着付けして和服を着る>なんて到底無理と思ってしまうのだけど~女のひとでも着付けできる女性<ひと>少なくなっているのではありません?」

 私の問いに由美さんはうなずきます。

 

 「そう、嘆かわしいのは多くの純女さんが成人式や披露宴以外にまづ着ることなくなってね。日本の伝統文化の象徴、民族の象徴として、世界の人々から納得されている女性の和服という衣装を<自分で着付けして着ることこそ>私達には究極の女装になると私は信じて疑わないの」

 由美さんの胸張っての演説?に私は、由美さんが女装するときに、着物を着ることの意味がわかったような気がしたのです。

 由美さんにとっては着物は身を飾るだけのものではなく、このひとの誇りの姿を私は垣間見る思いするのです。

 

 それなのにです。

 優子さんたら~とんでもない質問由美さんにするのです。

 「でも由美さんそれだけ縛ったらH<エッチ>するとき不自由じやない?」

 ええ~??

 

<続く>