由美さんと優子さんに励まされながら、正人さんのお母さんにお会いする覚悟ができた私ですが、でもまだ一抹の不安はぬぐい切れないのです。

 「ねえ由美さん本当に大丈夫と思う?お母さんは正真正銘の女として受け取ると思う?」

 「あきも心配性だね。あきなら着物だけでも大丈夫だと思うけど、絶対とあきがいううから、十三の先生にメイクしてもらうことにしたのだからね。念には念と言うでしょう」

 断言する由美さんは私を安心させるために言っているようではなさそうです。

 「そんなにメイクが凄い先生なの?」

 

 「私がこの目で見ているから貴女じやないけど絶対、保証つき。それがねすごく男性的な女装さんなのよ。メイクはじめのときホントに女になれるの?疑問持ったぐらい。ところがメイクしてウイッグ被って完成した着物姿の彼女見て唖然としたの~綺麗というだけでない、妖艶というのかしら、あふれるような色気の女性に変身しているのだからね。

 紫の着物姿でおしとやかに歩く姿に私もふらふらしたぐらい。高級バーのママさん?そんな印象。後で聞いたのだけどね、彼女、その姿で歩いていたら殿方から何人もお声がかかったそうよ」

 「ふ~んそんな凄いメイクする先生なの?でも私がそんなメイクしてもらったら正人さんのお母さんに玄関払いされるのがおちでしょう?」

 

 「あのねあき、私がそんなメイク先生に頼むと思う?言ったでしょう。貴女のイメージは良家の若奥様風なのよ。安心なさい」

 「そんな~由美さん若奥様だなんて~私自信ありませんからね」

 「そらそうよ。だからこれから特訓です。まづ正人さんのお母さんが貴女の若奥様を品定めして問いかけてきたとき、余計なことはしゃべらない。受け答えは最小限にするの。つつましくね。するとお母さんも遠慮して突っ込むような質問できないはずだから」

 「そういうものなの?」

 「そういうものです」

 なにか由美さんの話聞いていると、信じる気持ちになってしまいますから不思議です。

 

 「言っとくけどそれで終わりではありませんからね。必ず聞かれるのは当然のこと、自己紹介から始まって勤め先、家族関係のことです。正人さんのお母さんにしてみたら息子が連れてきた女性です。まして孫のママさん役してもらっているということは、嫁になる女性と受け取るのはまちがいないのだから、そのつもりで返事するのよ」

 「そんな~由美さんそんなの無茶よ~私、正人さんと結婚したくてもできないことは由美さんも知っているでしょう」

 「知っていますよ。でも私じゃなくて相手のお母さんがそう思うのだったら仕方ないでしょう」

 「それはそうだけど、でも思うだけでそこで止まればいいけど、話がお母さんの思うように進んできたらどうするの?嫁にするなんてことになったら~私、どうするの?どうしたらいいの?私嫁にはなれないのですからね」

 

 「初めに言ったでしょう。嘘を半分、真実は半分それを考えて答えなさい。常に逃げ道考えながら答えるのよ」

 「でもそんな一時しのぎで終わる筈ないでしよ」

 「だからよ、言葉少ないつつましい良家の若奥様になって、そんなややこしい話になるのをふせぐの」

 

 「そんなこと言っても、由美さんの言うようになるとは限らないでしょう。第一私、良家の若奥様なんてできませんからね」

 「あきは真面目だから、そんな根、葉まで心配するのよ。嫁の話が出たって~はい、考えさしてください。家での意見もありますので~というう調子で答えればいいじゃないの。ホント半分、嘘半分でね」

 

 「相手さんが真面目に話してられるのに、ホント半分嘘半分なんてだますようなこと気が引けて私できません、由美さんそんな良い加減なことで通用すると思うの?」

  なにか由美さんの言うう通りにしていたら、とんでもないことになりそうな予感がしてきました。

 「それをいうならまた、二択で選びなさい。きっぱり断るか?それとも女装子がばれてもいいから、嫁になること承知するか?どうする?」

 

 「由美さんの意地悪~そんなことどちらも選べる筈ないでしょう」

 「どうして?~あきさん貴女ね~お母さんと会うのも嫌だと言いながら会うというし、嫁にはなれないと言いながら、きっぱり断ればいいことで済むのにそれには踏み切れない?第一嫁になる話になんでそうこだわるの?女装子だから結婚できない身だからと分かったように言いながら、正人さんとの話を引きずっている。なぜだろうね?」

 

 なにか笑み浮かべる由美さんです。でも私にはその由美さんの笑いが嫌な笑いの笑みに見えるのです。

 「私引きずる方なの由美さん矢張り女のせいなのかしら、男のようにしゃきっと~きっぱりできないみたい」

 「そうよ、あきは本当に女なんだからね。うじうじして、もうじれったい~」

 今までおとなしくやり取りを聞いていた優子さんが横から突然口挟んだのです。

 ええなに?意味が分からず優子さんを見つめました。

 

 「まだ分からないの?あきさん、貴女正人さんに惹かれているの。正人さんが好きなのよ。だからきっぱりできないのよ」

 その優子さんのことばに虚突かれました。なぜかどっきとして胸が高鳴ったのです。

 「そんなことある筈ないでしょう。私は女装子で~」

  私の抗弁にも似た答えは優子さんに遮られます。

 「それは聞きました。それでもあきさんは正人さんが好きなのよ」

 

 言われて、それ以上返す言葉がありません。自分で自分の気持ちが分からないのです。言われてみればいくら正人さんに想いを寄せたところで、叶うものでないことは理性的に考えれば分かることなのに、私は正人さんを見ずにミカちゃんに事寄せて離れようとしていない。ミカちゃんのママにと言いながら実は正人さんに惹かれて離れたくないからではないのか?

 

 でも、そんなこと思ってはならないのです。女装子にはそんな夢のような話に飛びつく資格はないのだから~。何度も、なんども私は自分に言い聞かします。

 

 知らぬ間にもの言わずに黙り込んでいた私に、突然、由美さんの言葉が飛び込んできたのです。

「あきさんおめでとう~あきさんもとうとう男さんが好きになったのね~良かった~あきさんも本当の女性<おんな>になったのね~」

 それは由美さんのわたしへの祝福の言葉でした。

 そしてその祝福の言葉が私の気持ちが正人さんに惹かれていることを自覚させたのです。

 

 <続く>