由美さんと優子さん二人に追いつめられるような気分だけど、私は正人さんのお母さんと会うと覚悟を決めたのです。それならお母さんに見破られないだけの女性にならなければならないのです。

 女装するのは毎度だけど、私が女装で話する相手は女装のフレンドさんや女装承知で相手してくれるお店の人達が主です。その場合は女装と知って、でも女性として扱ってくれるひとたちです。

 

 比べて、一般の女性、それも年配の婦人と品定めされながらの会話をするなんてことは~立話しするのとはわけ違います。

 さらにです~孫のママ役してくれている女性と話すおかあさんにとっては、独身の若い女性がママ役してミカちゃんに慕われている~なんてことは信じられないことにちがいありません。

 

 それこそ最大の関心事でお母さんは私を観察する筈です。

 私が覚悟を決めたと、大層なことを言っているように思われても、私には当然のことなのです。

 

 駆け出し女装の私がそう思うくらいだから、ベテランの由美さんには先刻承知良く分かっている筈です。

 「あき、あんまり深刻に考えなくてもいいよ。相手さんは、まさか息子が女装子を連れてくるとは夢にも思っていないだろうし、女性だという先入感があるから、それがプラスとあきは思いなさい」

 

 由美さんの励ましに根が単純な私は、そうかな?と思いながらもどこか不安感があるのです。

 その私の様子に気が付いたのか由美さんは言葉続けます。

 「あきさん安心なさい。貴女は絶対見破られないから。私達が見ても貴女はホントに女そのものだから」

 

 なにかおかしな言い方の慰めみたいに思ったけど、由美さんの言葉に私の気持ちは落ち着くのです。

 「ありがとう由美さん。でも、言われるようにお母さんとどんな話になるか不安で~受け答えできるか自信がなくて~」

 「どんな話になるか?そういえば自己紹介があった。あきさん間違っても本名言ってはだめよ。女装子の名前で押し通すのよ」

 「勿論それは思っている。でもその先よ。どこに勤めているのか?どんな仕事をしているのか?そんな質問出てきたらホントのこと言いそうで怖くなってくるの」

 「うっかり言ったら当然男性として勤めていることがばれてしまうわね」

 

 首傾げてつかの間考えていた由美さんは笑み浮かべて見せたのです。

 「あきさん嘘で固めようとしたらどこかでほころびが出てばれるものよ。だからね半分だけ本当のこというの、すると残りの半分は嘘を言っても信じてもらえるものよ。それを心がけなさい。それと矢張りあきさんが自信持つようにするには~」

 再び首傾げた由美さんです。

 

 「それなら今度も着物にしましょう。着付けがきちんとしていたら、それだけでもお母さんはあきを、女として認めると思うのよ」

 由美さんの言葉に私は矢張り由美さんは大先輩~ベテランの女装子だと感心するのです。

 

 それに思い当たることがあります。

 正人さんの社宅に行ったときです。ロビーに多分社宅の奥さん方でしょう。おしやべりしていていた人たちが通り過ぎる私にちらと視線走らせたけど、それはつかの間、すぐおしやべりに戻ったのは?着物姿の私に不審さを感じなかっようなのです。

 

 矢張り衣装のありかたで女性の確認しているのでしょうか?

 そうだ、正人さんも私の着物姿に引かれる様子だったのは、私が正人さんの奥さんに似ているだけではなかったように思うのです。

 着物姿の私に正人さんは女を感じていたのではないでしょうか?

 

 「でも由美さん、もう夏の暑さがきていて着物は暑いのだけど~」

 そうなのです。着物下着がじっとり濡れていたのを着物を脱いだ時のこと思い出すのです。 

 「それは考えています。あきさんは22歳だったわね~正人さんは幾つ?」

 「31歳と聞いたけど~」

 由美さんの問いに答えて、ふと気づきます。

 私と正人さんは9歳もの歳が離れているんだ。正人さんは私を奥さんの若い時の面影を見ているのじやないのかしら?

 

 「今の着物はお嬢さんで正人さんと合わないかもね。ミカちゃんのママになるには、あきさんを奥様風の衣装にしないとね」

 「そんな~由美さん、あきさんをおばさんにするつもりなの?」

 優子さんが金切り声で抗議します。

 

 「おばさんじやないの優子。子持ち女の色気たっぷりの女にするの。それでいて貫禄がある上品な奥様風にして、正人さんを虜にするのよ」

 「そうなんだ~それなら相手のお母さんもあきさんを認めるわね。あきさんをミカちゃんのママだけでなく、正人さんの嫁にする話になる筈よ」

 

 優子さんの断定に慌てました。

 「一寸待って優子さん。私、そんなこと考えてないよ。お母さんに女装がばれないようにするのに貴女達の力借りたいだけなのよ」

 

 「あきさん優子の話は気にしないで。貴女が言ったように暑いから絽の着物にしましょう。それならあきさんの娘のイメージ消えるから。それとメイクも変えましょう。貴女のメイクはやめて十三の先生にメイクしてもらいましょう」

 「十三の先生にメイクお願いするということなの?」

 「女装さんのメイクでは日本一の先生よ。正人さんに行く日に予約とっておくから、ここでの着替え終わったら行きなさい」

 「そんな大層なことしなくちやいけないの由美さん」

 「当然でしょう。年配のおばさんを相手にするのよ。絶対女装がばれないようにするにはそれぐらいの用意がいるのですからね」

 

 大先輩の由美さんの教えですから聞くしかないとおもいながらも、それでも正人さんのお母さんの目をごまかすことできるのか?

 不安に取りつかれている私です。

 

 <続く>