ぐずぐずしていると、またミカちゃんに<帰らないで~>と泣かれるような気がして、私はピザを食べ終わるとすぐに正人さんの住む豪邸のような社宅を後にすることにしたのです。

 

 ミカちゃんは取り合えずとは思うのだけど、私の<来週来る>という言葉に機嫌直したように玄関で笑顔浮かべて私に手振ってくれたものです。

 でも正人さんはなにか憮然とした表情で私にうなずいてから、ミカちゃんに何かささやくと、奥に入ってしまったのです。

 

 なにか寂しい気がして、ミカちゃんに手を振ってから、私は扉を閉めたのです。

 社宅のエレベータのボタンを押して上がってくるのを待っていると、ポンと背中叩かれたのです。

 振り向くと正人さんの笑顔があったのです。

 

 「あきさん駅まで送ります」

 「そんな~よろしいですのに~」

 「いいんですよ。送りたいのです。ミカの聞き耳ありますからね。歩きながら話しましょう」

 

 セータをはおっている正人さんを見て、奥に入ったのはそのためだったのか~と気が付きました。

  エレベーターに入って二人だけになると、正人さんはまた頭を下げるのです。

 

 「あきさん今日は本当にお世話掛けました。改めてお礼言います。ありがとうございます」

 「もう、いいのですよ。実は私楽しんでいたのですよ。私、子供持ったらこんな家庭になるんだな~て、

まあ、初めてお会いして、もうあくる日はママ役ですからね。びっくりして緊張しましたけど、でもミカちゃんとやり取りしていたら、だんだんお母さん気分に自分がなっているのに我ながら驚いています。」

 

 「分かっています。あきさんにとんでもない無理言ったことは。初めてお会いした方にお願いするべきことではないのは~。申し訳ないと思っています」

 また深々と頭下げられて応対に困った私だけど、丁度エレベーターが階下に着いたので助かりました.

 

 

 〇〇商事を出て駅に向かって歩き出しましたが、女装~いえ女として背が高い私でよりも10センチは背が高い、しかもがっしりした体格のうえ~、さらにイケメンの正人さんと並んで歩くと、なにかワクワクしてしまいます。

 それで私は舞い上がっていたのでしょうか?になか調子がよくなったみたい~

 

 「そんな~気にしないで下さい。私には大したことではないのですから。それより今度のことは二度と経験することできなことを経験さして頂いた素敵なことだと思っている位なのですよ。だって、結婚もしていない、子供も持つことのない私が、ママになったのですよ。そんなことあり得ないことでしょう。そのあり得ない事を私は体験したのですから、もう素敵だと思うしかないでしょう」

「あきさんそれ一諸です。僕も同じです」

 足止めた正人さんが横からいきなり叫ぶように私に告げたのです。

 

「僕も同じような経験しているのですよ。妻のことです。去年亡くなった筈の妻が生き返ったと経験したのですから。貴女のこと、あきさん見て本当にそう思いました。ミカも多分同じだったのに違いありません」

「矢張りね~多分そうじやないかと私も感づいていましたのよ」

 

「そうでしたか~いや、実は妻が居なくなってから当然とは思いますが、生活の不自由さ感じるようになったのです。家事ですることて多いでしょう?食事の後の食器類を水に漬けて後で洗うつもりでそのままにしていて、ふとそれに気が付くと<もう妻は洗いもせず放置して~>不満口に出してから、ああそうか?妻はもう居ないのだと気が付くのです。

 仕事一筋で家のことは妻に任せきりでいて、それが当然という生活でしたから、ミカのこともどうすればいいのか?全然分かりませんでした。

 私の母が来てくれなかったら仕事にも行けない事態だと、それでやっと気が付いた有様だったのですからね。

 そこへあきさんが現れたのです。<やれやれ妻が帰ってきた~>そう思ったのです。ママと叫んだのはミカだけではないのです。私も内心では同じ思いだったのです」

 

 再び歩き出しながら正人さんはつぶやく口調で私に告げるのです。

 そうなんだ~私は正人さんの気持ちが分かるような気がしたのは、私の母も父に死なれて田舎での一人暮らししているからです。

 

「でもね~後悔される気持ちは分かりますけど、それは仕方ないことと思います。なにも正人さんに限らず、お仕事を持つ男の方は大抵そうですもの。

 家庭中心の方は会社では評価されないのと違います?」

 言いながら私は自分のこと、仕事のこと思い出していました。

 

 学校出とはいえまだ入社して浅いない私が、先輩追い越して病院受付の主任になったのは同じことだと気が付いたのです。

 病院は土曜日は午前診、日曜は休診になっているのでも、患者さんは診察に来るのです。深夜に運び込まれる患者さんも居ます。

 

 その当番を誰かがしないといけないのです。しかもそれは平常の昼間の仕事もしながらですから、きついのです。だから先輩の職員の所帯持ちはともすれば逃げます。結局、独身の私が受けることになるのです。

 それで私が主任?

 

 医者もそうです。長時間勤務に昼間の休みに寝袋持って医局の隅で寝る医者もおいでなのです。

 いえ、この話は私が男性の時の話なのです。

 

 「あきさん分かってくれるのですね。言われる通りです。でも僕自身も仕事人間でした。僕の責任で仕事が進んで行く~誇りみたいなものがありましたから、仕事が辛いなど思いません。だから妻が留守を守るのは当然位に思っていました。

 妻が事故死したとき僕は仕事で東南アジアに行っていました。私が行かないと相手側との交渉が終わらないのです。その責任で妻の急死の連絡聞いてもすぐに帰国しませんでした。今思えばなんて冷たいことをしたのか?自分を責めてしまっていました。

 その時です、あきさんが現れたのが~妻が生き返ったと思いました。救われた想いいがしたのです。

 あきさんに僕は救われたのです」

 前向いて歩いて私を見ることなく、しみじみとした口調で話す正人さんにどうしたのでしょう?私は一気に血が頭に上がったのです。

 

「恥ずかしいこと言わないで下さい。正人さん。そんなに大層な役目を私果たしていると思っていないのですから。みかちゃんがママと言ってくれるのが、私、嬉しいのです」

「ありがとうあきさん、今日はミカと貴女を見ていて、僕、考えてしまいました。ミカのことは母が見てくれているからそれでいいと思っていました。でも違いました。みかにはママが必要なのだな~と思いました。」

「それは私にも分かりました。でも奥様は亡くなられたのですから、どうしょうもありませんし~みかちゃんには可哀そうだけど、時間が過ぎて成人になっていくなかで理解できてくるのを待つしかないと思うのですけど~」

「それはそうですけどね。でもね、商社に勤めて取引先が世界各国にわたっている関係で勤務先移動が多いのです。海外勤務の赴任が長期間になると、家族ぐるみで行く社員もあるのです。僕だって例外ではありません。

会社もそれを考えて、社宅に住めるようにしているのだと思います」

 

「そうでしたか?社宅とはおもえない豪華で立派なマンションでした。私など一生かかっても住めるようなマンションではありませんもの~でも、住むところが立派でも悩みがあるのですね。正人さんも長期赴任になったらどうされますの?」

   

「そうなんです。みかを母に預けていくしかないとおもいますが、母も歳ですからね~僕もどうすればいいのか悩んでいます」

「再婚されたらどうですの?奥様への想いもあるでしょうけど、亡くなられて一年でしょう。ミカちゃんのためにはそれしかないのでは?」

 言ってから<あれ?>思ったのです。

 これと同じセリフ~時空<とき>の広場で正人さんに言ったことでした。

 

「そうなのですあきさん。私もそう思っているのです」

 なにか意気込んで答える正人さんです。

「でもね、あきさん、再婚相手は誰でもというわけにはいきません。みかが母親と思ってくれる人でないとだめです」

 この正人さんの断言する言葉に、いくら鈍感な私も気づきます。

 危険信号が私の頭脳を駆け巡るのです。

<続く>

<注>私が参加する TikTok <とくみチャンネル>で私の写真や動画放映しています。