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 話が一段落したところ見はらかってやっと声掛けました。

 「あの~正人さん用意はできているのですけど、私、紅茶の淹れ方分からないのですけど」

 「ああ、すみません、紅茶僕淹れます。」

 「じや、私、ピザ切り分けします」

 

 ミカちゃんの好きなイタリアンパジルを金ふちのお皿に入れて、ミルクカップをミカちゃんの前のテーブルに並べます。

 「ミカちゃん先に食べて~ママは紅茶をパパさんが淹れてくれてからたべますからね」

 言いながら<私、奥さんが言っていた通りに言っているのかな?>内心ためらう気持ちがあるような気分です。

 私はミカちゃんがピザをフオークに差して口に運ぶのを確認すると、正人さんの紅茶を淹れるのを見ます。

 

  正人さんが電気ヒータのポットのお湯を移し替えてガスコンロで煮え立つのを確認すると、ティポットにお湯を落とします。

 強化ガラスのティポットのなかで紅茶の葉が煮えたぎるお湯のなかで舞っているのです。

 

 私は正人さんの言われるままに紅茶カップにお湯を貯めます。

 正人さんはティポットに蓋をすると腕時計を見ています。

 時計を見たまま正人さんが声をかけてきます。

 「あきさん、カップのお湯捨ててくれますか」

 私がカップのお湯を流しに捨てて、カップを受け皿に載せて流し台にな並べると~

 

 「はい、1分30秒~」つぶやいた正人さんは、舞うのをやめて底に沈んだ紅茶の葉を確認して、ティカップに紅茶を注ぎます。

 「あきさん紅茶にウイスキーを垂らしますか?」

 「はい、少しだけ~お酒弱いので」

 

 やっと食事を始められます。

  食卓に三人座っての食事が始まって、私も即席スープに口をつけ、ピザを口にして食べていると正人さん

が突然、フォークをテーブルに置いて姿勢ただして私を見つめるのです。

 

 「なにかピザだけの夕食なんて、一寸わびしいですね。今夜の埋め合わせにちかじかレストランにでもお連れしますので、すみませんが今夜は辛抱してください。」

 「いいのですよ。結構このピザ豪華で美味しいので私気にいりました」

 「そうだよパパミカも気に入りました」

 「気にいるて~ミカ、このピザミカが注文したんだぞ」

 やり取りに三人一諸に笑ってしまいます。なにか私が忘れていた家族の団らん思い出します。

 

 「それであきさん今日は保育園でお世話になりました。貴女の付き添いがなかったらミカは喜んで行くことなかったでしょう」

 「気使わないで下さい。私、すごく楽しい思いしているのですから~。保育所の所長さんも事情は承知していると言われていましたでしょう。ミカちゃんに目配りして頂けると思います」

 「そうです。僕も安心です。明日からは出勤はミカと一緒に行けます。帰ってきたら母が来ていると思います。

ミカが保育所に行くことで母も負担軽くなって助かるでしょう」

 「安心しました。これで私のお姉さんママもお役御免ですね」

 「確かにそういうことになるのですが~でも、見ず知らずだったあきさんにここまでお世話になるなんて、ほんとに感謝です。ありがとうございました」

 

 「いいえ私もお母さんになるとは、こういうことなんだ~と、いい経験になりました」

 「それはあきさん僕も同じなのです。実は貴女にお会いする前のミカは言葉<もの>を言わない子だったのです。まあ、母親を亡くしたのですから辛い思いは子供のミカにとっては、私以上だったのにちがいありません。さすがに親の私でもどうすることもできません。時間薬でママの記憶が薄れていくのを待つしかない。そう思うしかなかったのです。それがです。ミカが急に理屈いうようになったのです。明るくなったというか?

 まあ、母も<おばあちゃん子になってはいけない>と、それなりのしっけはしてくれていたのですが、その母もお手上げでしたからね。

 ところがです、そのミカが一気に変わったのは僕は貴女の影響だと思っています」

 「私がミカちゃんに影響?」

 

  どういうこと?~昨日会ったばかりの私がなぜミカちゃんに影響を~不審な思いが私の表情に出たのでしょう。正人さんは慌てて言葉を続けたのです。

 「いや悪い意味ではありません。ミカが貴女と会ったとたんに元気になっておしやべりするようになったということです。とにかく急にです、幼子と思っていたミカが親の目からも分かるほど成長した子供になったのです。

 不思議でした、なにがミカをそうさせたのか?

 答えは考えるまでもありませんでした。貴女に会ったからです。

 いや、もっといえば貴女がママになったからです。ママという言葉を口に出してからです。」

 

 不思議な表情で語る正人さんですが、なぜか親子でもない私には、ミカちゃんを変化をさした、一気に成長さした引き金を私が引いたことが分かる気がするです。

 

 「ああ、それは私もミカちゃん見ていて正人さんの言われるようなこと感じていました。子供てこんなに早く成長するものなの?不思議な思いしましたもの~」

 「なにかあきさんがミカの本当の親のようですね。帰ってもらいたくない~思ってきました」

 

 私達のやり取りをいつの間にかピザを食べるのを止めて、ミカちゃんが聞き耳たてていたのに私は気が付きませんでした。それは突然でした。

  

 「ママ帰ってしまうの?」

 突然ミカちゃんが声上げたのです。泣き顔になっています。

 「そうだよ、ママにはお仕事があるから帰らなければいけないいだ」

 正人さんが言い聞かすように言いながらミカちゃんの頭をなぜるのに、それをふりはらうのです。

 

 「どうして?ミカのママでしょう。帰らなくてもここで居ればいいでしょう」

 「ミカ無理言ってママ困らしたらだめだ。ママにはお仕事があると言っているだろう。ここには居てもらえないんだ」

 「どうしてなの~ママはミカのママでしょう。どうして一緒にいてはいけないの」

 ミカちゃんの目から大粒の涙が出て止まりません。

 それを見ていると、なぜか私も涙が出そうになって、それをこらえるのに気持ちがいってしまって、言うべき言葉がでないのです。

 

 「みか、パパだってママに居て欲しいと思っているけど、それはできないことだからパパは我慢しているんだ。だからミカも我慢するんだ」

 「だってパパ~」

 後の言葉も失せて絶句するミカちゃんに、私はもう耐えられませんでした。

 

 「ミカちゃん今日はママ帰るけど、来週お仕事が休みになったら来るからね。それで辛抱してくれる。ママだってミカちゃんとず~と一緒に居てあげたいけど、それはできない事なの分かった」

 「ええ、ホントママ~仕方ないけどママが辛抱してというからミカ辛抱する。その代わり絶対に来てくれるね。絶対だよ」

 言いながらミカちゃんの泣き顔があっというまに笑顔に変わっていくのですから、ホント子供てげんぎんなものと思ってしまいす。

 

 やれやれと言うように苦笑いする正人さんは、感謝するように私にうなずいてみせるのです。

 でも私は少し心配になってきました。

 ミカちゃんの涙にほだされてつい言ったものの、これから先どうなるのか?

 ミカちゃんの様子から見て、来週ここに来てそれで終わるとはとても思えないのです。

 

 新たな心配に私は包まれていくのを感じていました。

 <続く>

 

 

 

 

 

  

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