写真・91歳の作者
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私とミカちゃんは本当の母と娘のように、会話交わしながら正人さんの帰りに間に合うように食事の支度をしていました。
食堂のテーブルに敷かれた真っ白なテーブルクロス。
私が吊戸棚から取り出す取っ手のついたスープカップとお皿を、ミカちゃんは受け取ってテーブルに並べていきます。フオーク とスプーンを置きます。
鍋底を置いて私がスープ鍋を置くと準備完了です。
「ママできた~」
「できたね~紅茶はパパが帰ってから入れましょう」
「パパ早く帰ってくればいいのに~」
「ミカちゃん、パパが早く帰ってくるとさっき言ってたじゃないの」
「そうなんだけどね。でも、もっと早く帰ってくればいいのに~」
眉間に皺寄せて首傾げるミカちゃんのポーズが可愛らしくて、思わず抱きしめたくなります。
「そういえばミカちゃん貴女他所<よそ>行きの服着たままでしょう。食事で汚れたら困るでしょう。ママが手伝うから普段着に着換えましょう。洋服はどこにあるの?」
うっかりしていました。私は着物姿だから、こんなこともあるかと、エプロンをバックに忍ばせていたのですが、ミカちやんのことは考えていませんでした。
矢張りママ失格です。
「ミカの部屋の洋服箪笥だよ。そうだ、ママに私の部屋見せてあげる」
ミカちゃんに手引かれて、ダイニングルームの続きの部屋は廊下を挟んで右が二部屋、左が一部屋らしくて扉で分かります。
ミカちゃんが扉を開いて部屋に入ると、窓からの明るさだけでない部屋の明るさが感じられるのです。
壁には一面桃色の下地に花の壁紙が貼られて、女の子の部屋~という雰囲気です。
小型の洋服箪笥も色付きで、市松人形がデンと上に乗っています。多分、おばあさんのお土産に違いありません。
勉強机も小さくて、本棚があり、童話の本が並んでいます。
そしてベットが~子供用の小さくて、赤い格子の布団が述べられ、枕が載っています。
ベットの足元にミカちゃんと変わらい程の大きな熊さんがすゎっているのです。まるで主人を守るようにね。
洋服端を開くと端に下げられている運動服をだしてミカちゃんに着せました。
「ミカちゃんこの部屋で一人で寝るんだね。えらいわ~」
「うんそうだよ。おばあちやんが来てもリビングの和室で寝るし、ママはパパと二人で寝るくせにミカには一人で寝なさいというのよ。でも、今日はママ~ミカと一緒に寝てくれないかな~」
「う~ん、ママはお家別だから帰らないといけないよ」
答えながら、このままミカちゃんとの話を続けていくと厄介なことになりそうな予感がします。
「そうそうミカちゃんママはエプロンしているけど、エプロンあるの?」
「保育園に行くときにと、おばあちゃんが買ってくれたけど~」
「多分洋服箪笥の引き出しではない?」
引き出し開けたらビニール袋に包まれたエプロンがありました。
ミカちゃんに着せると、お人形さんのように可愛いのです。
「まあ~ミカちゃん素敵~エプロン似合っているよ。可愛いからパパびっくりするのじやない?」
「ホント?ママもエプロン素敵だから一諸にパパのお迎えしょう~」
話しているとチャイムが鳴ったのです。
「ああパパだ」
「待って~パパなら鍵持っているでしょう。チャイム鳴らすはずないでしょう」
まさか?並びの社宅の人では?どうしょう?絶対聞かれる。奥さんですか?聞かれたらどう返事すればいいの?
心では動転しているのに、ミカちゃんの後について玄関に出ていました。
「なんだ~やぱっりパパだった~」
「なんだはないだろうミカ~パパ、ピザの箱抱えて扉開けにくいからブザー鳴らし~」
言葉が途中で途切れて正人さんの視線が私に向けられてまじまじ見つめられたのです。表情が固まっているのです。何か恥ずかしさがこみあげて~
「正人さんどうかしました?」
「あきさんですね。いや~驚いた~いやね~亡くなった家内だと思ったのです」
「そんなに私、奥様に似ていますの?」
「エプロン姿、僕が仕事から帰ると玄関に迎えるのがエプロン姿の家内だったのですよ」
「奥さん愛してらしたのですね。うらやましいですわ」
「だからミカのためにママ役お願いしたのです」
「そうだったのですか。ではママ役として、お帰りなさい。」
「只今~あきさん今日は面倒かけてすみませんでした。ミカ、お姉ちゃんママ困らせなかったかい?」
「大丈夫ですよ。聞き分け良く賢かったですよ」
「パパ、ミカね晩御飯のお手伝いしたんだよ」
「へええ~それは感心。じや、ミカの注文のピザだよ。あきさんお願いします」
「やった~ピザだ~」
ピザの箱受け取ったミカちゃんが歓声あげます。もう、にこにこなのです。
正人さんは私に大きな箱のピザを渡します。
<まあ、二つも買ってこられたの~>
そういえば正人さんも笑顔で居ます。うれしそうなのです。
「あれ?ミカ~エプロンつけたんだな、可愛いよ」
「パパ今頃気が付いたの?おばあちゃんがくれたエプロンだよ」
「ごめん、パパ、ママのエプロンばかり見ていた」
<また言っている~正人さん奥さん恋しいんだ。でも私に向けられても困るんだけど>
でも、私は苦笑いするしかないのです。
「そんなこと言っていないで、お食事にしましょう」
「あきさん食事の用意までさせてすみません。僕着替えてきますのでお先にどうぞ~」
「分かりました。ミカちゃん用意しましょう」
ミカちゃんの牛乳をレンジに入れてチンしながら、正人さんの後ろ姿に視線を走らせます。
ミカちゃんの部屋の向かいの広い居室?扉を開ける正人さんに<多分、寝室兼居室だろう>と推理するのは私の好奇心と思うことにします。
大きなキッチンテーブルのガス台に即席シチューの鍋を掛けると、踏み台に乗ったミカちゃんと並んで、ピザの箱を開きます。
「ええ、匠のピザだよミカちゃん」
「そうだよ、前にパパが買ってきて、ミカもママも美味しいて~」
そうなのか?ピザもまたミカちゃんには、ママの思い出としてフラッシユしているのだと思います。
「ミカちゃんのピザどんなものはいってるのかな~読める?」
「読めるよ。イ・タ・リ・ア・ン・パ・ジ・ル」
「なに入っているのかな~?チーズ、オニオン、ピーマン、ソーセージ、ハム~いろいろ入っているね」
「だからミカは大好きなの、ママのは?」
「ええっと~アンチョビにフレッシュバジルだって~。なにかバジルの匂いするね」
おしゃべりしながらピザを切り分けていきます。
「ミカちゃんスープ温めたけど,熱いのは大丈夫?」
「ううん、ミカは熱いのはダメなの、さまさないと。牛乳でいい」
「じゃ、スープはミカちゃんのは今入れるから、冷めてから飲みなさい。正人さんとママはスープに~ああ、紅茶だけど、ママ紅茶の入れ方分からない」
朝の出勤の忙しさで、私は紅茶を淹れる余裕なんてないのです。
「ママ、紅茶はパパが何時もいれているから、パパにまかしとき」
「助かった~」
「おばあちゃんの居るときの朝はパンなの。ミカは牛乳だけどパパとおばあちゃんは紅茶なの。その時はパパが紅茶いれるの」
「そうなの、パパもおばあちゃんのお手伝いしているのね。」
「パパだけでないよ。ミカもお手伝いしているよ」
「そうだね。今日もママのお手伝いしてくれたものね」
やり取りしていると正人さんが姿見せたのです。柄のシャツ着て短パンのラフな姿です。
「おやおや~ミカは今日はどうしたというの?えらく賑やかにしてるね」
「だってパパ、ママとお話しするの楽しいのだもの」
「良かったね。ママとお話しするのそんなに楽しいのだったら、ママに来てもらって良かったのだね」
「うん良かった~ずぅ~とママに居て欲しい。パパは?」
「勿論パパだってミカと同じ、ママにず~と居て欲しいよ」
<ちょっと待って~そんなのないよ~>
親子の会話に泡食った私です。口挟むつもりが、でも口つぐみました。
だってこの二人、本当に嬉しそうな会話なのですから、話の腰折ることなどできなかったのです。
<続く>