「あきさん有難うございました。お世話掛けました。ミカ行儀よくしていましたか?面倒掛けませんでしたか」

 「大丈夫です。ほんとうにお利口さんで、しっかりして前に立って道案内できましたよ」

 「そうですか、良かった~それで僕買い物して1時間ほどで帰りますが、晩の食事ですがあきさんさえ良かったらレストランでも付き合ってもらえませんか?」

 

 矢張りです~

 お誘いの予感していました。でも、昨日で今日です。あまりにも進展が早すぎです。それに由美さんに着物の返しがてら今日の報告しなければならないのです。

 好奇心の強い由美さんです。私の初めての男性とのお付き合いと聞いて、なにか自分のことのように興奮して私に帰ってきたら報告するように念押ししたのです。

 

 「ありがとうございます。でもごめんなさい。帰りに寄らなければならないところあるので~」

 「そうですか?でもお会いしたばかりの貴女に面倒かけてしまって、このまま帰すわけにはいきません。せめて家で食事だけは食べて帰って下さい。出来合いですが買って帰りますが何がいいですか?」

 「私はなんでもいいのですが、ああ、ミカちゃんはどうなのでしょう?聞いてみますね」

 

 ミカちゃん傍でホホ杖ついて聞き耳たてているのです。

 「ミカちゃんパパが晩御飯なにがいいかて~」

 「うん~なにしょうかな?」

 「じゃ~パパと相談しなさい」

 

 ミカちゃんに私の携帯を手渡しします。

 「パパ~ホントはね~前にパパが買ったピザがいいのだけど」

  言いながらミカちやんは振り向いて私を見つめます。

  「ママピザにしていい?」

 「ミカちゃんさえ良かったらママもそれでいいよ」

 「パパ~ママもそれでいいと言っているよ。じゃピザだよ」

 

  父親に云うだけ言って、ミカちゃんは私に携帯を返します。

 「さあ忙しい~ママ、晩ご飯の用意だよ。ミカが教えるからね」

 胸張って告げるのは矢張り女の子です。

 

 「でもミカちゃん、ピザだよ。用意なんかいるの?」

 「ママなんにも知らないのだね。ピザには飲み物いるでしょう」

 「あらあら~そうなの?でもミカちゃん、どうしてそんなこと知っているの?」

 「だって前にパパがピザ買って帰ったとき、ママがしていたのを見ていたもの」

 「そうだったんだ~」

 

 もう1年にもなるのに、ミカちゃんお母さんのこと忘れていないんだ。私をママと言ってくれるのはお母さんを忘れないために違いない。 

 父、母、子、親子三人で食卓囲んでピザを食べた記憶が、私がこの住宅に来た時よみがえったのでしょうか?

 ミカちゃんは夕食にピザを選んだのは、ピザを親子三人でもう一度食べることしたかったに違いありません、

そう思うと私は胸が痛くなって、矢張りミカちゃんのママで居てあげなければ~自分に言い聞かすのです。

 だから私は、ミカちゃんの本当のお母さんの代わりを務めないと~思うのです。

 

 「じや、ミカちゃんパパが帰るまでに飲み物作りましょう。スープに紅茶にミカちゃんは牛乳にしましようか?」

 「うんママそれでいいと思うよ」

 「でも時間がないから、スープ作る暇ないからコンソメにしますね。ミカちやんスープの素どこにあるの?」

 「う~ん分からない」

 「じゃ、ママと探しましょう」

 

 ミカちゃんと食器戸棚の引き出しを次々開けます。 

 スプ―ン、ホーク、ナイフがそれぞれの引きだしに整然と並んでいます。

 吊戸棚を降ろすと、調味料、スパイスの瓶がずらりと並んでいて、コンソメの素もそこにありました。

 

 亡くなった奥さんはもとより、おばあさん~正人さんのお母さんもその後継いで気帳面に家事をされていたことがうかがえます。

 それだけに戸棚の中のものを動かしたらすぐに分かるようで、緊張してしまいます。

 

 「ミカちゃんスープの素あったよ」

 「じゃ、ママはスープ作って~ミカはテーブルクロス掛けるからね。おばあちやんのお手伝いするときミカがすることなの」

  「はいはい、じゃお願いね。ママ腕に寄りかけて美味しいスープ作るからね」

 一人暮らしの私です。家の楽しみといえば、買ってきた女の衣装着て鏡見てフアッションするのと、美味しい料理作りすること位なのです。

 肉料理で添え物のスープつくりなど自宅でしていることなのです。

 

 でもこの場合はご主人の留守に台所のもの使い倒すのは気が引けますから、腕によりかけしなくても簡単にするつもりです。

 ポットのお湯を土鍋に注いで、コンソメ入れて、卵をぱっと散らして、ねぎを刻んでいれて~でもなにかもの足りなくて、後からですることで逆だけど昆布を見つけたので、一切れ入れて少しガスコンロにかけておしまいです。

 

 「ええ、ママもうスープできたの?早いね」

 「早いでしょう。パパさんが帰ってきたらすぐ食べられるようにね」

 「ママ、パパはすぐ帰ってくるよ。保育園でパパたら私の耳に内緒だぞ~て、大急ぎで帰ってくるからママ帰らしたらだめだぞ~言ったの」

 「ええ、パパたらそんなこと言ったの?大丈夫ですよ。ミカちゃんおいて帰るものですか」

 「違うの、もっと内緒<ないしょ>のないしよだけどね。パパはママが、ずう~とお家に居て欲しいねと言ったの。ミカも同じだよ。でもこのことは内緒のないしょだよ。だからママは帰らないでね」

 

 私はミカちゃんとの会話を楽しんでいました。いつの間にか自分がこの家の女主人にでもなった気分です。そして正人さんは?そのことで、私はなにか疑問が渦巻くのです。

 

 <ず~と家に居て欲しい>て~どういうことだろうか?まさかとは思うけど、でも昨日会ったばかりのことでそんなことあり得ないこと。そう判断すべきと思うのです。

 第一、それは万一ありえないことが事実になっとしても、私には受けられぬことなのは、あまりにもはっきりしていることなのです。

 

 そんなこと考えながら私はミカちゃんのことが気になっていました。

 僅か5歳にも満たないこの子が、父親の想いを伝える役目を担っている?

 昨日阪急に通ずる陸橋でミカちやんと会ったとき、ホントにミカちゃんは幼子の印象だった、それが今日はまるで幼子を飛び越えて利発な子供に成長している。

 

 なにがミカちゃんをそうさせたのか、不思議と思いながらも私はその引き金になったのは自分だと思います。私がママになったことで、今までママを失って泣きさんでいたミカちゃん。でも母を求める幼子でいたミカちゃん

がママと呼ぶ相手ができたことで、一気に子供に成長したのではないのか?

 

 そんなことを考えてしまう私なのでした。

 <続く>