保育所と同じビルの商社の職場に行く正人さんと、保育所の前で別れて私はミカちゃんの手引いて帰るのです。

 初め私は自分のマンションにミカちゃんを連れて行って、正人さんが帰ってくるまでミカちゃんを預かるつもりだったのです。

 

 それが正人さん~

 「あきさんできたら私の社宅に行ってください。食事でもご一諸しましょう」

 「正人さん私達昨日お会いしたばかりですよ。それなのにお留守の家に行くなんてできません」

 

 断ったのだけど、正人さんは社宅で留守番していてほしい。と、不思議なくらい頼み込んでくるのです。

 それが保育所の前の廊下でのやり取りでしょう。いくら日曜でも、人目もあるし根負けして引き受けることになったのです。

 

 JR西宮を降りてすぐ近く、ミカが道知っているからとマンションのカギ渡されました。保育所の前で正人さんと別れて、私はミカちゃんと手つないで急ぐこともないので、地下街のお店を通りすがりに覗きながら~JR大阪駅へ~

 

 大阪駅から神戸行に乗りました。私の乗る阪急と違って電車が空いていて子供連れの私は助かりました。

 そして電車のなかのことです。

 

 ミカちゃんが窓に向かって座り、私が座席を汚さないようにミカちゃんの靴を脱がしているときでした。

「ママ車が走っている。ほら、女の子が私に手を振っている~」

「ホントミカちゃんも手振ってあげなさい」

 

 線路に沿った道路を乗用車が電車に負けづ走っている窓から、女の子が手出して振っているのです。

 電車は窓開けるとこできないけど、ガラス窓におでこひっつけてミカちゃんが手を振っています。

 私もミカちゃんの背中を支えて、窓から外を見ていると~

 

 「可愛いお子さんですね。奥さんお子さんは幾つですの?」

 声がかかったのです。

 白髪頭の年配の笑顔の女性が声掛けてきたのです。

 

 隣の席に座っている初老の女性はミカちやんの背をポンポンと軽くたたいて、私に問いかけるのです。

  そういえば私、正人さんからミカちやんの<年齢>とし聞いていなかったのです。慌てたけど咄嗟に保育所の所長さんの言葉思いだしました。

 

 「保育園の年長組ですの~」

 「あらそうなの。私の孫は幼稚園の年長組なのですよ。それがね奥さん。保育所の時から私が孫の送り迎えしていたのにね、幼稚園の年長になると、もう生意気になって<おばあ~僕年長になったから送るのもういいよ~>だって~言うのですよ」

 

 「しっかりしてられますね」

 「まあね、しっかりしてくるのはいいのですが、これから大きくなるにつれて<おばあちやん>など相手にしてくれなくなるのでは?思うと寂しくなるのです。」 

 「お気持ち分かるような気がします。私も子供の時おばあちやんに生意気言っていたのを思いだしますもの」

 「そうですか?仕方ないですね。子供が成長したということでしょうかね~」

 「そうですね。そう思うしかありませんね」

 

 やり取りしながら、私は着物の下着が濡れるのが分かるほど、ヒア汗かいていたのです。年配の女性です。私が女でないことを見抜かれるのではないか?息つまる思いの会話だったからです。

 

 

 

 JR西宮の改札口を出て、通路の突き当りの階段上がると駅前広場でバスやタクシーの駐車場のある広場です。

 「ママおうちのあるのはあそこよ」

 ミカちゃんが指先を空の方向に向けるのです。 

 指先を追って視線を向けると、30階もあるようなマンションの建物がそびえ建っているのです。

 

 「ええ?あの高い建物なのミカちやん」

 「違う違う~ママ、あれの向こう側なの。パパがね、高い建物を目標にして行きなさいと言われているの。でもミカはちやんと道知っているから心配いらないよママ」

 

 しっかりと答えるミカちやんは本当に利発な子供だと、改めて思います。

 「じや、行きましよう」

 

 ミカちゃんと手つないだけど、今度はミカちやんに引っ張られるように歩きます。

 駅前薬局の前を通り過ぎて商店街を通り抜け、人家の並ぶ通りを過ぎて目標の高いマンションの前を通り過ぎます。ホント見上げるような高いマンションです。

 

 正人さんの商社の社宅はそこからすぐの所でした。

 6階建てのビルで、社宅とは思えない大きなビルなのです。

 

 「ママここだよ」

 ミカちゃんが声掛けて、○○商事の金文字の扉の前に立つと自動扉が開きます。

 

 矢張りそうでした。事務所の部屋の扉の列が奥まで並んでいます。

 向かい合って、階段とエレベータが2基あります。

 

 ミカちゃんは慣れた足取りでエレベータに駆け寄るとボタンを押します。

 開いた扉からエレベータに乗ると~

 「ママどうぞ、ここから上に上がるの~」こましゃくれた仕草です。

 「あら、お家<うち>は上に上がるの?」

 「はい、そうだよママ、6階の一番上がパパの社宅なの」

 

 エレベータの扉が開いて、足踏み出しました。

 目の前がぱっと開きました。

 エレベータの前はフロアーになっているのです。

 

 応接セットが窓際に並んでいて、婦人が四人座って、おしやべりに夢中と見えて私達に気が付かないみたい。

 奥に向かって、ながい~廊下、赤いじゅうたんが敷き詰められて、廊下の突き当り迄伸びています。

 

 それにしては部屋の扉は左右それぞれ3つだけです。

 私が行く女装ルームの近くのホテルに、家に帰れなくなったとき私は泊まることがあるのだけど、この廊下の長さだと10部屋?いえ、もっと多くのホテルの部屋があります。

 

 「一番奥の部屋がミカの家だよママ」

 ミカちゃんが振り向いて指さします。

 「ミカちやんちの家立派だね~」

 「でも、社宅だもの~パパは1軒だけの家建てようと言っているよ」

 「いいね~ママうらやましい~」

 「じや、ママ、パパが家買ったら一諸に住もうね」

 

 嬉し気な表情で見上げるミカちゃんです。 

 ああ、つまらないこと言ってしまった~思ったけど手遅れです。

 

 「ミカちやんちょっと待っててね。扉あけるから」

  ごまかして、ミカちゃんの後の言葉封じて、バックから鍵取り出します。

  扉に張り付けられた表札のケースに、穂高正人と書かれた表示を確認して鍵差し込みます。

 

 扉開けて、入って~もうそれだけで予想していたけどため息が出ました。

 私の部屋のダイニングの広さの玄関~また、ため息です。

 

 <続く>