「ミカちゃんのママになるだけ?」

 正人さんは私の言葉を反芻して首かしげたのですが、すぐ笑顔になると~うなずきます。

 

 「ありがとうございます。ミカのお母さんになって頂くなんて~ミカに幸せがやってきました。できたら私にも幸せほしいです。いや、無理ですか?ミカの幸せだけで辛抱します。でもあきさん未婚の貴女が母親になってよろしいのですか?私達のために貴女が犠牲になるようなことは許されません」

 

 申し訳ない~そんな印象見せて私に尋ねる正人さんに、ふと、私はすれ違いを感じました。正人さんが、なにか私の思う母親以上の役割を私に求めているように思えたのです。

 

 「いいのですよ。お姉ちゃんママですから。それでミカちゃんが幸せになるなら、ママ役しますから~」

「ありがとうございます。男での子育てがこんなに大変なものだとは思いませんでした。助かります」

 正人さんのしみじみとした言葉に、男親て大変なんだな~つくずく思うのです。

 だから少しでも私が手助けしてあげたら喜んでもらえる~考えたのですが、でも、すぐ、アッと気が付きました。

 

 私は女装子なのです。根が男~女のなりしても果たして母親役が務まるのか?

 <男親て大変です>正人さんの言葉が蘇って不安が私を取り囲んだのです。

 <お姉さんママ>と逃げ道つくって母親役引き受けたけれど、ミカちゃんがそれを理解できる筈ありません。あくまで母親として縋り付いてくるに違いないのです。

 

 自分の母親にしてきたようにです。

 

 どこまで私がミカちゃんの願い通りに母親役が出来るのか?

 答えは初めから出ていたのです。なのに~

 

 いくらミカちゃんの母親への想い、いじらしさに引かれたとはいえ、女装子の私にできる筈のない母親役を軽率に引き受けた後悔の想いが私を取り巻きます。

 

 それにミカちゃんだけではありません。母親役することは正人さんに接することになります。そして正人さんのお母さんにも接することがあるかもしれません。

 そのことはいつか、私の女装を知られる~私が男と見抜かれることの来るときがあるに違いありません。

 

 私の女装は細身の体型、小顔で優し気な顔立ちが幸いして、お店での会話、すれ違う人々のなかでは見抜かれない自信はあります。

 

  でもミカちゃんのお姉さんママでも、ミカちゃんの相手する時間が長ければ長いほど、家族に私の男を見破られる時が来ると思います。いえ、ミカちゃんにも感ずかれるかもしれないのです。

 そのときミカちゃんがどんな反応しめすのか?恐ろしくて想像できません。

 

 あれこれ答えのない悩み抱えている私なのに、正人さんはにこにこ笑み浮かべているのですから憎らしくなります。

 私は思い切りました。ミカちゃんの前に屈んで顔寄せます。

 「ミカちゃん、お姉ちゃんママの言うこと聞いてくれる?お姉ちゃんママはミカちゃんのママになると言ったけど、ミカちゃんの本当のママは亡くなったママだけなの~。いくらお姉ちゃんママが頑張っても、ミカちゃんのホントのママになれないの。だからよく聞いてね、お姉ちゃんママはミカちゃんのホントのママの真似するだけなの~

それでいいの?」

 

 ミカちゃんは私をじっと見つめ返します。賢し気なその目がなにを考えているのか、分かりようないけど、でも

私の言うことを理解しょうとしているのは見て取れたのです。

 

 しばらく黙っていたミカちゃんは、ぽつんとつぶやいたのです。

 「お姉ちゃんママの言うとおりする。でもミカはママが死んでもママが欲しいの~」

 それはミカちゃんの全身でのお母さんへの想いをこめた言葉と私にはおもえたのです。

 

 <ああ、この子のなかではママは死んでいないのだ~>

 そう思って~ミカちゃんの辛い心の内の想いがじ~んと私の内に伝わってくるのです。

 

 そして私のなかで何かがはじけたのです。

 私の女装子が姿を消し、ママに変わったのです。

 「ミカちゃん、ミカちゃんのママはあなたの胸の中で生きているからね。代わりにお姉ちゃんママがホントのママの代わりするからね。それでいい?」

 「いいよママ~ミカ凄く嬉しい~」

 

 「ミカちゃんのママになれて、ママも嬉しい~」

 自然とミカちゃんを私は抱きしめていました。

 「あの~僕も嬉しいのですが~」

 

 なにか恐る恐る横から言葉掛けた正人さんに笑ってしまいました。

 3人の笑い声に近くのテーブルのアベックの人が何事?と視線向けてささやくのに、恥ずかしくなって私は口に指あててミカちゃんに合図したものです。