⑨
「ほんとですか?」
正人さんはまじまじ私を見つめるのです。
「はい、独り者です」この答えは言いなれている私ですから、余裕の笑みで答えます。
「いや、不思議です。貴女のような女らしく優しい人が未婚だなんて考えられません」
「仕事が優先でしたから~気が付いたら25になっていました」
「でもこんなこと聞くのは失礼ですが、アタックされる男性はあるでしょう?」
「私、男の方苦手なのです。すぐ逃げてしまって~正人さんとこうしてお話できるのはミカちゃんが居るからだと思います」
「そうだよママ~私がいるからパパとお話しできるんだよ~」
横からミカちゃんが割り込んでくるのです。利発です。小さくても大人の話を理解できるみたい。
「そうだねミカ。こうしてあきさんとお話しできるのは、亡くなった妻が引き合わせてくれたのではないか?と思えてくるのです」
なにか嬉しそうにうなずいて見せる正人さんですが、私は追い詰められた気分です。
<女装子だと告白して受け入れてもらえるならどんなに幸せか~>思ってもそれはあり得ないことと分かっているのです。
私を女性と思って、奥さんの面影と重ね合わせて私を見ている正人さんが、私の女装を知ったら~
正人さんの想いは粉みじんに砕けるでしょう。いいえ、正人さんだけでなくミカちゃんのママへの想いも砕け散るのです。
私はそんなことを思い自分に言い聞かすのです。
こうして親しくなっても、所詮行きずりの人なのだから、離れなければいけない~と。
「独身でいるのは仕事のこともあるのですが、私には人様に云えない結婚できない事情もあるのです。それより正人さんこそ再婚されないのですか?まだお若いのに、今のままではご不自由でしょう。奥様もミカちゃんのためにと許される筈です」
「ありがとうございます。僕もそう思いたいのです。でもね、これでも30の歳のとしですし、子連れ、母連れ
の僕と結婚してくれる奇特な女性はいませんよ。それに勝手だと思うのですが、ミカだけでなく僕自身が好きになった女性<ひと>をワイフにもらいたいのです。アハハ!これではますます相手はいませんね。」
言いながら笑い声上げる正人さんに私は悲哀を感じとるのです。
それが突然の叫び声でした。ミカちゃんが椅子から降りると精一杯背伸びして私を指さし~そして父親に向けた顔は子供ながらのしかりつけるような表情なのです。
「パパ何言っているの?ママはここに居るじゃないの」
ミカちゃんの叫びの訴えに正人さんは可笑しいほどうろたえたのです。
「ミカ、この人はミカのお母さんじやないんだ。よそのお姉ちゃん。分かった?」
「だってパパ~さっきパパはママと言ってもいいと言ったじゃないの?」
「言ったけど、それはお姉ちゃんがミカにママと言ってイイと言っただけなんだ。ミカのお母さんは死んだの~亡くなったはミカも知っているだろう?だからお姉ちゃんに無理言って困らせたらだめなんだ。分かるね?」
正人さんは腰かがめてミカちゃんに顔寄せるとミカちゃんを納得させようとするのですが、ミカちゃんは激しく首振るのです。
「だってパパ、そんなこと言っても、お姉ちゃんでもミカにはママなんだ、ママなのよ」
必死の表情は泣き顔になって、父親に訴えるミカちゃんを見ていると<ああ、この子母親が亡くなっていることわかっているんだ。でもそれを認めたくないのだ>
私は察します。
母の面影宿す私に母親を求めている~。
思うと、私はミカちゃんの辛さが伝わってきて~いえる筈ないことを口走ってしまったのです。
「ミカちゃんそうだよ。お姉ちゃんはミカちゃんのママですよ」告げたのです。
とたんに泣き顔だったミカちゃんの表情が変わったのです。笑みに変わるのです。
「お姉ちゃんは私のママだね?」
私に抱き着いてきたミカちゃん。
「良かったな~ミカ、ママができて」
正人さんもミカに負けない笑顔です。ミカちゃんの頭をなぜながら、私に笑顔向けて感謝の頷きをするのです。
「あきさん見て下さい。ミカのこの嬉しそうな顔。でも心配になったきました。あきさんミカのママになるなんて、そんなこと言っていいのですか?これからミカは貴女にママと言ってまといつきますよ」
「いいのです。承知の上でママになったのですから。こんな可愛いしっかりした子供にママと頼られると、お姉ちゃんママでもホントの母親になった気分です」
「ホントの母親になってくれるのですか?」
驚いた表情で身を乗り出す正人さんに、あっ!と気が付いたのです。
「いえ正人さん、私はミカちゃんのママになるだけですからね」
念押しするように正人さんに告げたのだけど、正人さん分かってくれたのでしょうか?
<続く>