<注・写真・22年正月初詣・作者>

「乾杯!」

 正人さんと私はビールの小ジョッキ、ミカちゃんはアイスクリームでない、ソフトクリームのカップを差し上げます。

 まわりテーブルの人達、にぎやかな私達に家族だと思っているだろうと、ちらとそんなことが頭をよぎります。

 

 でも、今はビールです。初夏です。先ほどからのにぎやかなやり取りで喉がかわいていた私です。

 「ああ美味しい~甘露、甘露~」

 のど越しにおりる冷たいビールの感触に思わず出た言葉です。

 

 「甘露?」

 少し怪訝な表情(かお)した正人さん。でも笑い声上げると~

 「ホントです、あきさん、甘露です」

 

 正人さんの言葉にほっとしたけど、私は冷や汗が背中伝わったのです。油断でした~

 おんなになり切っていたのに、潜んでいた私のおとこが頭出したのに気付いたのです。

 

 <何考えているのだろう私は~私は女装子だったのに。母と子だなんて~あり得ないこと考えてママと言われて

 その気になって~>

  家に帰れば~いえ、2LDK のマンションですけど、そこでの一人暮らし殺風景なオトコの生活が待っているだけなのです。

 

 母と子の入る隙間などないのです。

 いえ、それは分かっているつもりです。でも女になったとき私は別人として、住む世界も違う~別世界に私は居るのです。

 

 たといつかの間でも私にはその世界はバラ色の世界として、私を受け入れてくれるのです。

 メイクをして鏡に映る女の私。美しく男の私と打って変わって美人でいる私。私はその美人にうっとりと見つめ、幸せ感じているのです。

 

 それはリリシズムの世界と言えるかも知れないけれど、男性の時には見ることのできない世界なのです。私はその世界に魅了されるのです。

 

 「あきさんはお家族は?」

 正人さんの言葉にはっと、現実の世界に引きもどされます。

 

 「両親は早く亡くなって一人暮らしです。」

 「そうですか~私も似たようなものです」

 「あの~聞きにくいことですけど、ミカちゃんのお母さんはどうされましたの?」

 「交通事故で亡くなりました。一年前です」

 

 さりげなく答える正人さんですが、表情が曇るのを気づきました。

 「ごめんなさい。辛いこと聞いてしまって~」

 

 「いいえ気にしないでください。貴女のおかげでミカも僕も今日は笑うことできたのですから。夜、寝言でミカがママ~という言葉を聞くと僕もつらい思いしていたのです。でも昼間は一言もママ~という言葉ミカは出さないのです。それが健気でママ恋しさを耐えているのだと思うと~そんなことで僕もミカも笑うこと忘れていたのです。でもあきさんのお陰です。今日はミカといっしよに笑うことできました。助かりました。今夜のミカの寝言の

ママは、多分あきさんのママですよ」

 

 嬉しそうに笑う正人さん。最初会ったときはスーツをピシッと着こなして、サラリーマン姿そのまま、ある意味構えてとっつきにくい感じだったけど、今は違って、優しいお父さんになっている正人さんの手を取ってあげたい~そんな気持ちに誘われるのです。

 

 精悍な顔立ちで男らしさがありあり見える正人さんだけど、ミカちゃんに対する父親としての優しさ~

 それに引かれているのか?私は、さっきまで見ず知らずこの人と向かい合ってビールを飲んでいる。

 なにか私は正人さんが<さっき初めて会った人>だという気がしないのです。

 

 不思議な縁が私達を結び付けているような気がします。

 「でも父親はホントにだめだなて~つくずく思いました。ミカが母親を求めて泣き叫ぶのにおろおろしてどうしていいのか分からないでいるのですよ。それが初めて会ったあきさんには笑顔なのですからね~助かりました。ありがとうございます。あきさん」

 ビールをテーブルに置くと、正人さんは頭下げるのです。

 

 いいのですよ、そんなにお気使わなくても~私、なにかミカちゃんのお母さん役するのが嬉しくなってきているのですよ」

 思わずそんな返事している私ですが、だけどそんな答えして母親役続けなければならなくなったら~そんなことできる筈ないのに~

 

 思うわず私は胸がどきりとしたのです。

 

 <続く>