私はミカちゃんの手を引いて、木の囲いの内側のテーブル、椅子の並んだ広々としたカフエーを、人気のない場所の座る椅子を探して視線めぐらします。

 

 アベックの男女があちこちに座っているので避けてあげなければならないのです。

 そういえば、ここはアベックのメッカと聞いたことあります。

 

 「ママあそこ空いている~」

 ミカちやんが指さした方向見ると人気のないすみの場所、座っている人の姿のないテーブルがあるのです。

 「パパさん私達を見つけられるかな~」

 「大丈夫だよママ~パパ見つけたら声上げて私が教えるからね」

 「お願いねミカちゃん。ママが呼ぶのは恥ずかしいからね」

  やり取りしている自分に<私、どうなったの?>問い返したのです。

 

 <私、すっかり母親気取りになっている。母親になれない私なのに~>

 自分でも理解できない自分の心の動きに不思議さを感じるばかりです。

 

 <私にとって女装は見かけだけではないのです。女性の衣装に身をやつすのは当然として、気持ちも女性として動いているのです。ボップのウイッグ被り、白地のスーツに肌色のストッキング、そしてパンプス穿いて~

 

 背は170センチあっても、細身の体型に小顔の私は男性の時でも女性に間違えられるのです。

  私は自分が男性から別人の女性になって気持ち的にも女性になっていることが、女性の仕草が自然に身に付いて、歩く姿も胸をそらしさっそうと若いポーズを見せて歩いているのです。不思議に足の運びも内股気味女性の足の運びに自然となっているのですから。

 

 多分<私は女性>その内なる想いが私にそうさせるのでしょうか?

 そこまでは分かっているのですが、今私は母親になろうとしてミカちゃんを受け止めようとしているのです。

 

 そんな自分の気持ちの動きが不可解に思えてなりません。

 穂高さんやミカちゃんとは偶然の出会いとしてさっき会ったばかりなのに、どうして私は母親なの?

 

 ママになろうとしているの?

 答えは見つかりません。女性は未婚のときでも、私のように母親気分もって子供に接する心情になっているのだろうか?

 堂々巡りでその答えを探しあぐねている私です。

 

 「ママ!パパ来たよ~」ミカちゃんの甲高い呼び声に我に返りました。

 振り向くと穂高さんがトレーにアイスクリームとビールを載せて運んでくるのです。ビールのジョッキーの表面が冷たさを感じさせる濡れて光っています。

 

 「あきさんお待たせしました。ミカ、残念~チョコ売り切れ~苺にしたよ」

 「私~チョコが良かったのに~」

 テーブルに置かれたのは、アイスクリームではなくて、ソフトクリームなのですが、頬ふくませてぼやいたのもつかの間ミカちゃんは笑み浮かべると、真っ白なソフトクリームに乗って入る真っ赤な何粒かのイチゴ~

 

 その一粒の青い房をつまみ上げたのです。

「ママ~あ~んして」

 私の口元に差し出したものです。

 

 これには慌てました。

 「ミカちゃんダメダメあなたのイチゴでしょう?」

 「いいのこれはママが食べるの~」

  嬉しそうに見上げるミカちゃんです。

 

 さすがになぜか恥ずかしくなって手ふる私は、テーブルの向かいで私達のやり取りをにやにや笑っている穂高さんが気になるのです。

 

 「ママ!食べて」

 「もう、これだけよ、後は食べないからね」

 追い打ち掛けれては仕方ありません。観念して口空けてイチゴを受け入れました。

 

 するとミカちゃんは手ただいて笑顔いっぱい、穂高さんまで拍手するのですからね。

 「これはもう親子ですね~あきさんありがとうございます」

 「ママになるって~こんなことするのですか?」

 「すみません。迷惑でしたか?」

 「いえ、そんなことないのですけど、恥ずかしいのです」

 「そんなこと気にしないで、妻は何時もミカ相手に貴女のようなやり取りして親子で楽しんでいましたからね」

 「そんな~穂高さん無理言わないで、私はまだ未婚で母親どころではないのですよ」

 「そうですか?でもすっかり母親ぶりが板についていますよ」

 「ダメダメ穂高さん私はお姉さんママ迄ですからね。そうだねミカちゃん」

 

 話をミカちゃんに振って逃げたのです~

 「うんミカはお姉さんママでもいいけど、でもママ~私のママはパパを呼ぶのに穂高さんなんて言わないよ。正人<まさと>と呼んでいたよ」

 

 <もう、ミカちゃんて年に比べて、ホントおませです>

 「そうですよあきさん。ミカの言うように正人と呼んで下さい。勝手ですが、死んだ妻が呼んでいるような気がするのです」

 <ホントに勝手です。私、亡くなった奥さんの代わりなの?>

 

 でもなんとなく正人さんの言葉に正人さんが奥さんを愛していた想いが伝わってきて、ぐん~と心掴まれたのです。

 「ハイハイわかりました。じゃ正人さん冷えたビールが台無しでしょう。飲みましょう」

 照れ臭いので茶化すように言ったのです。

 「そうでしたあきさん。では乾杯しましょう」

 「ミカもアイスクリームで乾杯する」

 

 もう食べかけているアイスクリームを掲げて見せるミカちゃんです。