カッ!~と血が昇るのが分かります。

 <自己紹介>するのです。

 <姓と名前>言うのが常識です。

 

 でも女装の私には名前しか持っていない名字はないのです。と言っても、とてもじゃないけど本名<男の名前>は言えません。

 女装して本名言えば身の破滅~そこまで思いつめなくても~自分でも思うのだけど到底言えない気持ちが先立ってしまいます。

 

 女装する限りでは男と知られたくはありません。

 とにかく挨拶するだけのことだし、二人とも私が女として見ているのだから~と、自分に言い聞かせて思い切りました。

 

 「私、事情があって名字は言えません。名前はあきと呼んで下さい」

 「あきさんですか?初めてお会いしたばかりなのにミカの為とはいえ、ママ役など、無理なお願いして、お付き合いしていただいて申し訳ないことです。でもミカがこんなに嬉しそうにしたのは久しぶりのことです。貴女のおかげです。ありがとうございます」

 

 「いいえミカちゃんの嬉しそうな顔見ていたら、私も嬉しくなりました。まあ、ママと言われて初めはびっくりしましたけど。でも母親になるというのはこんな感じなのか?と経験できてなにかワクワクしているのですよ」

 

 答えた私の言葉はこの穂高さんの言葉に合わした言葉と思っていないことに、あれ?と思いました。本音で答えている自分に気が付いたのです。

  「分かります。僕も父親になって言葉しゃべれるようになったミカから、パパと呼ばれた時すごく嬉しかったです。父親という実感しましたからね」

 

 頷きながら私に手引かれて歩くミカちゃんの頭をトントンと軽く叩く穂高さんの仕草をみると、若く見えても矢張りお父さんに違いない~

思うと自然と笑みがこぼれている自分に私は気づくのです。

 

 なにか子供と連れ立っている母親の気持ちで、ミカちゃんの手を引いている気分です。

 沸き上がる感情の流れに包まれて<子持ちの夫婦?>の錯覚に陥って、<私どうなっているの?>自分に問いかけているのです。

 

 気恥ずかしさが駆け巡ります。それを隠すのに穂高さんに声掛けました。

「ああ、ここです。三越伊勢丹から上がると早いですから」

 ミカちゃんを抱き上げて伊勢丹に入る私の前を、穂高さんは素早く先に立ってガラス扉を押し開けてくれます。

 

 エレベータに乗って5階で降り、伊勢丹の店内を通り過ぎてでたところ・・・、

 そこはもう時空<とき>の広場です。

 

 「わあ~綺麗~」私とミカちゃんは同時に歓声あげたのです。

 駅のホームから伸びているJRの線路を見下ろしている<時空の広場>その天井、駅の天窓一面にわたってイルミネーションの、色とりどりの光の洪水が広がっていたのです。

 

 「夜にここに来たのは初めてですけど、綺麗ですね穂高さん」

 「ほんとです。あきさん。僕もこんな素敵な場所が大阪駅にあるとは知りませんでした」

 

 広場の中央に大きくそびえている大時計の前で三人で天井を見上げていると、家族連れのお上りさん?のようです。

 「昼間とまた違った雰囲気です。ああ、あそこがカフエーのパール・デルソーレです。ミカちゃんの好きそうなものも、それにお飲みになるようでしたらビールもあります」

 

「いや~ビールの飲みたい季節ですね。ミカ何食べたい?」

「あたしアイスクリームがいい~」

「アイスクリームならあるよミカちゃん」

 しゃべりながら店のカウンターの前でミカちゃんを降ろすと、ショウインドのガラスにオデコつけてミカちゃんがアイスクリームの見本見比べる様子が愛らしいのです。

 

 私もしゃがんでミカちゃんの横に並びます。

 「ミカちゃんアイスクリーム、バニラ?チョコ?それともイチゴにする?」

 「ううん~あたしチョコがいい」

 「分かった~」立ち上がって手提げから財布を出そうとすると~

 

 「待って下さいあきさん。ここは私が払います。私はビールですが、あきさんはなにがよろしいですか?」

 「ありがとうございます。私も穂高さんと同じでよろしいです」

 「じやビールでお付き合いしてください。注文運んでいきますから、ミカと席で待っていて下さい」

 

 「分かりました。ミカちゃん行きましょうか」

 「うん行こうママ~」

 もうすっかりミカちゃんは私をママにしているのです。

 

 <続く>