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 JRの大阪駅の構内に入ったものの、そこも人、ひとの渦巻く流れです。

 私達子供を交えた三人が休めるようなお店は見当たりません。

 「弱ったな~喫茶もないのか~」

 

 陸橋では人目を気にしながらでの立ち話に、若いお父さんも気になったのでしょう。

「すみません。ここではご迷惑ですから、どこか休むところでも行きましょう」

 少し強引な誘われ方だったけれど、ミカちゃんが私の手を握って当然のように一諸するものと決めてかかっていることもあって、3人並んで歩くことになったのです。

 

 ミカちゃんはご満悦でした。パパとママ?に両手で握ってもらって歩くのですから。背の高い大人に両手をつないでもらっていると、ミカちゃんは万歳している格好で歩いていても時々足が浮くのです。

 それがまた嬉しいのか、きや~きゃ~言いながら足上げて宙に浮いて進むのがすごく嬉しいようで声上げるのです。

 

 通り過ぎる人から見れば私達親子連れと思ったでしょう。

 大阪駅に入って立ち止まってさて?

 ミカちゃんのお父さんが周囲見廻して、思案してつぶやいたのを私は聞き逃しませんでした。

 

 すぐに私は思い浮かべました。

 「あります。駅の上5階の<時の広場>だったら、バール・デルソーレというカフエーがあります。広いからゆっくりできます。駅見下ろせますかミカちゃんも喜ぶと思います」

 

 「僕、通勤で大阪駅降りて時空(とき)の広場~案内板見て知っているのですが、行ったことないのですよ」

 「そうでしょうね。5階までと思うと気軽に上がる気にならないでしょうね。あの~ここからお勤めに?」

 「ああ失礼しました。ミカに振り回されてたとはいえ、知らない方にあれだけ面倒おかけしているのに、僕、自己紹介もせずに~本当にすみません」

 

 「いいのですよ。私もママになれたのですから~」

 「すみません!」

 思わず二人とも笑ってしまったのですが、ミカちゃんがパパのスーツの裾引っ張ると、下から見上げて言うのです。

 

 「パパ良かったねママと仲良くなれて~」

 「また!ママじゃないだろう。お姉ちゃん~いやお姉ちゃんママだろう」

 「うんわかっているお姉ちゃんママでしよう。~いや~長いから呼びにくいから、ママでいいでしょう?ねえ、ママ~」

 

 「ミカ!」睨む父親の言葉にも涼しい顔つきのミカちゃんなのです。

 「いいよ、ミカちゃん。お姉ちゃんミカちゃんのママになっても~」 

 「やった!じゃママと呼ぶね」

 「はいどうぞミカちゃん」

 「ママ~」

 「は~いミカちゃなんですか?」

 「何でもないけど~早く駅の上に上がろう」

  お父さんと私の腕振り回すミカちゃんに若いお父さんはあわてたのです。

 「待ちなさいミカ、お父さんお姉ちゃんに挨拶しないといけないんだから~」

 

 ミカちゃんのお父さんはミカちゃんの手をほどくと、私に向かって頭を下げるのです。

 「ホントに失礼しました。初めての方で知らない貴女にとんだご迷惑かけることになって~すみません」

内ポケットから名刺入れを出すと、名刺引き出し差し出したのです。

 

 受け取って見ると~

 <○○商事・・・主任・穂高正人>の文字が~

 

 <え~大手商事会社の管理職なんだ>この若さで~もう管理職?私も病院の主任だけど、ただの主任~事務系の平なんだから~>

 そんなこと思いながらハッと思い立ったのです。

 

 <女装の私だもの名前だけで名字もない、名刺もない身なんだ、どういえば~>慌てました。

 こんな事態に出会うとは予想もしなかったことです。

 

 男として、仕事の上での本名で名刺をだすことはできても、女装では本名を名乗るなんてことはありません。

 それは他の女装さんもそうです。

 男を離れて女になった別人です。たといメイクして女になったつかの間のことでも、その間は女性として生きているのですから。

 

 だから名前もまた女性の名前~プログに書き込むのに名字を書き込む女装さんも居るけど、それも仮の名前。

女の呼び名でまるで生まれたときの名前のように、自分の名前と思って互いに呼びかわしているのです。

 

 どう自分を紹介すればいいのか?戸惑うばかりです。

 そうなのです。女装の私には<あき>という名前しかないのですから~。

 

 <続く>