② 

「お嬢ちゃん、ママはどこにいるの?迷子になったの?」

 問うと、再び激しく首を振るこの子。

 私に小さな指先向けるのです。

 

 この子と向かい合ってのしゃがんでいる私に、流れる人々の視線が注がれるのですから私も落ち着きません。

 「困ったな~じゃパパは?どこにいるの?」

 聞いたとたん、周囲を見回したこの子は泣き顔になったのです。

 

 「パパ!パパ~」叫んで

 人の流れに分け入ろうとするのです。慌てて「危ない!」と背中から抱きしめたのです。

 どうも見た目4,5歳?と思ったけど、この様子では3歳に満たないのかも?と思います。

 

 「お姉さんがパパ探してあげるからね」なだめて、見回すけどそれと思う人は見当たりません。

 夕方のラッシユ時、陸橋を渡る人の流れは激しくて、多分父親もこの子を探しあぐねているのだろうと察します。

 

 それでも私はこの子を抱きしめながら、背伸びして人の流れを見回しそれらしい人の見当付けるのだけど、子供を探して周囲に目をくばる人の姿は見当たりません。もくもくと前を向いて歩く通勤帰りの人々の流れでしかないのです。

 

 それで思い切りました。女の姿で恥ずかしいことこの上ないけど、そんなこと言っていられません。この子の脇に両手差し込むと頭上高く差し上げるように、人の頭より高く上げたものです。

 

 170センチの背丈にヒールをはいている私。女性ではとてつもない背丈です。それが子供を頭上に差し上げたのですから、もくもくと歩いていた人々が一せいに私達に視線向けたものです。

 

 恥ずかしさに気後れしそうになる自分を叱咤します。

 とにかくこの子の父親を捜してあげないと~自分に言い聞かせます。

 

 「パパと呼んでごらん、大きな声でね、パパに聞こえるようにね」

 元気付けるようにいうと、頭上のこの子はうなずいて<パパ~>と声上げたけど、一声で止まって見上げるともう半泣きになっているのです。

 

 私に差し上げられ人の流れをを見下ろして、知らぬ人々の視線にさらされて心細くなったのでしょうか?

 <困ったな~迷子だったらどうしょう?>

 胸締め付けられる思いが襲います。

 

 この子を連れて警察に行けばすむことは分かっています。でも、<女装さん?お名前は?住所は?勤め先は?>否応なしの質問受ける自分を思い浮かべると、もう、何もかも捨てて逃げ出したくなる気持ちになるのです。

 

 想い、悩んで私も泣きたい気持ちになるのです。

 でも、そのとき~「ミカ!」大きな声が雑踏の人の中から聞こえたのです。

 

 この子を差し上げている私にはその声の主を見ることはできないけど、頭の上のこの子は、すぐさま声の主を見つけたようです。

 「パパ!」一声高く私の上で声あげます。

 

 やれやれ~安堵が私の中で広がります。でもそれはつかの間~この子の次の叫びを聞いて愕然としたのです。

 「パパ~ママ見つけたよ」

 <ええ?この子何言っているの?>疑問に包まれたのです。

 

 でも、とにかく子供を下に降ろします。それを待っていたように男性が人かき分けてこの子を抱き上げたのです。

 「ミカ、パパから手離ししたらダメだと言っていただろ。ミカいなくなってパパすごく心配したのだから。でも赤い風船のおかげですぐミカ見つけられたよ。」

 抱き上げた子供に言い聞かせる父親。さも愛し気な様子に思わず微笑んでしまいます。

 

 その視線は子供に向けられて、雑踏の人の流れも、そばに居る私の姿もまるで目に入らない様子に不満がちょっぴり私のなかを横切ります。

 でも父親の首元に手をまわして抱きつくこの子は、髪に赤いリボンをつけて父親に訴える様子がすごく可愛いのです。

 

「パパ、ミカは大丈夫だったよ。だってママが居てくれたから。ミカの風船も逃がしたのを取り返してくれたのだからね」

「何言ってるんだミカ、ママはもういないのだよ。ミカも知っているだろう」

 言い聞かせる父親にこの子は首振ると私を指さすのです。

 

 「ほらママだよパパ~」

 言われて初めて気が付いたように私を見つめたその子の父親は驚きの表情が顔に出たのです。

 じ~と食いいるようにまじまじ私を見つめる視線。そして娘も父親の腕の中から首を回して私を見つめるのですから、なにか気恥ずかしくなってしまう私です。

 

 いかにもサラリーマンという身なりで、黒のスーツをピッしと決めている娘の父親。私よりはるかに背が高く。

精悍な顔立ち~一気に私の内で動悸が激しくなりました。

 <ホントにこの娘の父親?>そんなこと思わせる若さと見えるのです。

 

 20代そこそこ~そう踏んで、<でもでもこの娘の年頃ならおかしくないのだろうけど~>

 ざわめく胸抑えて笑顔見せて会釈したのです。

 

 それが出会いでした。 

 <続く>