①
JR大阪駅と阪急電車を結んでいる陸橋。
御堂筋を足許に見下ろして、私は車の流れを見下ろしていました。
もう夕方~ラッシユ時、通勤人の流れが背中をひしめくように流れていくけど、私は林立するビルの窓の明かり、ネオンの瞬くのをぼんやり眺めている。
新大阪の女装の発展場~いえ、私の場合は女装ルームに行くにはまだ時間が早いし、時間つぶしに阪急百貨店の婦人服売り場をさまよう気になったのです。
その行く筋、足運んでいても何時も立ち止まってしまうのがこの陸橋なのです。足許の光の流れに目奪われて何時も自然と足が止まるのです。
まあ百貨店に行ったところで、女装の私にはショーインドを眺めて<欲しい~>婦人服にそんな気持ちになったところで、所詮男の私ではサイズが合いそうにないのだから、ただ見るだけの楽しみに終わるしかないのです。
それでも買えない婦人服の行列を彷徨うあいだ、たとい見る楽しみだけであっても私は<女>という実感を味わえるのが、何事にも変えがたい楽しみになるのですから~。
そんなことですから、せいて行くまでのないことと~私はこの陸橋で立ち止まり眼下の車の流れに、光の流にを見とれて時間を過ごすことになるのです。
この日も私は何時ものように陸橋の手すりにもたれて足元の光の饗宴を見とれていました。まだ陽はくれ切っていないけど、足許の御堂筋は薄闇が忍び寄って激しい車の往来に、そのライトの光がまぶしいのです。
なに考えるまでもなく、ぼんやり足許を見とれている私の耳に届いたのが、女?いえ子供の甲高い叫び声でした。同時に私の視界を通り過ぎた赤い~もの~反射的に身乗り出し手を伸ばしたけどつかみそこなって~でも私の手に握ったものは糸を巻き付けた白い厚紙。
引き寄せると赤い風船が近づいたのです。
「私の風船よ~」
再び甲高い子供の声。
振り向くと、4,5歳くらいの赤い子供服に包まれたお河童の可愛い女の子が私を見上げているのです。
「お嬢ちゃんあなたの風船?」聞くまでのないことと思いながらも、そう問うて、しやがんで風船を小さな手につかませると、泣き顔だったその表情がぱっと明るくなって笑顔に変わって~
まじまじとその子の大きな黒目がまじまじ私を見つめたのです。
「ママ!」声上げたのです。
喜び溢れるその叫び、顔の横で赤い風船が揺れるのです。
<はあ?>不審な気持ちでその子を見つめます。
「ママてどうしたの?どこにいるの?」
問いかけながら人の流れを見回すけど、立ち止まる女性の姿は見当たりません。
「ママはどこなの?」
再び問い返します。
するとその子は小さな指先を私に指し示すのです。
「ママ!」笑顔を向けて再びさけぶのです。
訳わかりません?
「違うよ、お姉さんはママじやないよ」
そう返事する私に子供は激しく首振るのです。
「違う、私のママだ!」またもや叫ぶ子供。
<一体どういうこと?このくらいの年頃なら母親の見分けは着く筈なのに~>
途方に暮れる思いが私のなかを忍び寄るのです。
<続く>