<写真・2020年8月15日 数え90歳・最近の写真>

⑭ 花火大会

 メイク室の鏡の前から離れるのが心惜しくてなりません。私自身からまるでかけ離れた美人が映っているのです。素敵な笑顔だけではありません。桃色生地のワンピースの胸を押し上げて胸の隆起が鏡の中ででんと居座っています。首を真下に見下ろしてみると、○首の二つの突起が隆起の先に突きでて一層セクシーさを与えるのです。

 でも、いくらセクシーに見えようと所詮人口○房なのですからね。○房好きの私ですが大きい○房を持ちたい~と願ってもかなわない埋め合わせの代物でしかありません。

 一つ600グラム、二つの○房で1,2キロ特別な専用のブラジャーに収めて胸につるのですから、さすがに重いです。それでも姿鏡の前で自分の女装姿を見ていると、ただ嬉しさだけがこみ上げるのです。

 私は妻の○房を思い出していました。ブラウスを突き上げる妻のセクシーな胸。ただそれだけを見て結婚の約束をした私。結婚して間もないころ、電車に連れ立って乗っていたら、周辺の男性達が視線を妻の胸に向けるのに嫉妬を覚える私です。

 そして今、70過ぎた妻ですが少し垂れてきたとはいえ盛り上がった妻の○房は私の宝物なのです。そして姿見のなかの私は若かりしときの妻にも負けない胸の隆起を映し出しているのです。

 

 初めての完成した女装の醍醐味に憑りつかれた私です。それからというもの徳島から高速バスに乗って、大阪までキャリーを引っ張りせっせと通ったものです。

 その女装サークルが発展場?いわゆる男と女<女装子>との逢うせの場とは知りませんでした。もっぱらメイク室でたむろしている女装子さんとの会話を楽しでいました。お互い女の気持ちをもつもの同士です。

 私もその仲間入りして女の勉強?したのです。

 ウイッグの選び方、服の選び方、メイクの仕方、写真のポーズの取り方、男性との会話などなどベテランの女装子さんとの会話は尽きることがありません。

 嬉しかったのは携帯から宝塚歌劇の男装の麗人<寿美はなよ>の写真をだして「この人に貴女似ているからモデルにしなさい」言われた時です。ええ!びっくりしました。舞い上がる気持ちになったものです。<私、そんなに綺麗?>信じられない気持ちと信じる気持ちが輻輳<ふくそう>します。、

 78歳にして<寿美はなよ>信じられないのは当然でしょう?。

そのときの話してくれたのが90歳に私がなる今でも、私のフレンドとして続いている博美さんなのです。

 

 でも、行った最初からこんな経験すればもともと願望があったこともありますけど、徳島からキャリー引っ張っての長旅も何のそのです。期待の胸膨らまして通い続けたものです。といってもホテル泊りになるのですから2日がかり家を空けるのです。妻への言い訳が大変です。さすがに今のように堂々と言えるはずありませんから、毎度苦し紛れの言い訳を考えるのが大変です。

 幸いというべきか隠居生活の積りで妻の里の近くに居を構えてのんぴりするつもりでしたが、矢張り私の習い性でしょうか?畑違いの病院の仕事を引き受けたのです。それが口実に使えて出張と言っては出ていったものです。

 妻はと言えば里が近くなものですから、留守番のときは、母親を呼んでいましたからそれはそれで良いと勝手な解釈していました。

 

 そして8月の夏の盛りに入って丁度大阪恒例の「淀川花火大会」の日です。

 サークルに行ってロッカー室で着替えしかけたときです。

 「ちょっと貴女いらっしやい!」

 呼ばれたのです。振り向くと作務衣<さむい>を着たいなせなおじさんが手招きするのです。外の世界は別として、この世界では新米の私です。おそるおそる近づくと、~

 「今日はこれを着るのよ」頭ごなしです。言われて渡されたのが、花模様の紫に染め抜いた女物の浴衣なのです。

 「私、着物着れませんが~」

 「着物じゃありません。浴衣です」

 「同じです。女の浴衣など着たことありませんから」

 「貴女、女装するなら浴衣位着れなくてどうするの?もう、仕方ないわね。着せてあげるから、その派手な服脱ぎなさい」

 否応なしです。あっという間の早業です。私がいわゆる派手なワンピースを脱ぐとスリップの上から浴衣を着せかけると帯をまくのだけど、巻くのでないのです。私の体を回転させて帯をまくと、ホントあっという間に浴衣着せられました。

 隣では女装さん達が何人も浴衣をそれぞれ着ているのですが、言われるように皆さん自分で着ているのです。

帯の片方を肩に引っ掛けて、きゅ~きゅ~と締めて、後ろに両手まわして器用にまとめるのです。

「女装するとは、こんなこともするのだ。メイクだけではないのだ?」

少し自信が薄れてきます。そういえば妻は母達と同居していた時夏冬通して着物姿でいたのを思い出しました。朝早く私が寝床で目覚めると、枕元で妻がきゅ~きゅ~と帯の音をさせて着物を着ていたのを思い出します。

<そういえば浴衣には下駄~>

 こんなことになるなんて~考えもしないことですから <靴穿いて?浴衣?> パニックにいなせなおじさんの仕打ちが恨めしくなります。玄関でうろうろしていると~

「あきさん下駄いるね」リエさんが声かけてくれて、げた箱から下駄出してくれて、やれやれ~息つきました。

 下駄などもうウン十年も穿いたことのない私です。もたもたしながら下駄穿いていたら、どやどや~まさにそんな感じで浴衣姿の女装さん達が玄関の土間でつつかけ下駄穿いて出ていくのです。

 あっけに取られて見送るしかない私。

 「貴女なにしているの!一諸に行くのよ」

 声掛けてきたのがまたあのおじさんではありません。声聞くまで分からなかったけど、綺麗な中年の婦人~それがすごく色っぽくてつい見とれてしまいます。

「なに人の顔見てるの。さっさと行きなさい」怒られたけど、笑みを浮かべてだから本気ではありません。

「いえ、あんまり綺麗だから~」

「そんなお上手言わなくても、あんたこそ可愛くて綺麗よ~」

え^え~可愛いて~私、78歳ですよ~顔が赤くなる恥ずかしさです。でも、ポンポン言うけどこの人案外世話焼きで優しい人なんだと思います。

 安心感に満たされて慌てて歩き出した女装子さんの後を追います。総勢8人。それが皆さん170センチの私よりはるかに高いのですよ。この女装集団が歩くとすごい雰囲気。

 でも大通りに出るとそれはもう凄い人出なのです。淀川花火大会の人出は40万人と言われますものね。車道は勿論車は通れません。人出で埋まるのです。そのなかを人の流れの中頭一つ抜き出て女装軍団、普通なら目立つところです。

 でもあまりの人出で淀川に向かって前へ前へと進む流れの中、私達に目を向ける人などいません。それより私この人込みに迷子にならないように必死です。若い女装さんの浴衣の袖をつかんでついて行くのがやっと~周囲の人の目も気にする余裕なんてありません。

 淀川の土手に来た時もうふらふら~だって1,2キロの大きい○房胸にぶら下げているのですよ。それに慣れぬ下駄穿いて堤の草むら初めてのをよじ登って行くのです。階段などあっても押し合いで人が上がっているのですから、そばにも寄れません。

 堤の下でもたもたしている私に女装さん達が引き上げてくれて、やっと土手を越えて降りたものの、広い淀川の河川敷は人で埋まり川面も見えないのです。ぼおん~ん、ぽんと試し打ちの花火が空で広がって、わあ~と歓声が上がります。

 これが淀川花火大会なんだ~落ち着き取り戻したとたん汗が肌を伝い降り、熱気に包まれた風がそよぐとスリップが濡れて肌にへばりついて気持ち悪いのです。

 でも始まった花火の打ち上げ~仕掛け花火~どんどんお腹に響く音が広がり~花火大好きの私です。もう夢中です。女装子さん達と夢中で歓声上げていました。

 写真のフラッシユが明るく周囲を瞬間に照らします。

 そして私~ふと後ろ振り向いたのです。そしたら警官がずらり~後ろに並んで警備の列作っているのです。

 そして~若い警察官~目を丸くして騒ぐ私達見ているのですよ~

<浪速淀川花火大会>女装姿で見物した初めての経験。今も、私の記憶に鮮明に残っているのです。

(注・浪速淀川花火大会今年は、コロナで中止になりました。残念です)