9月27日(月曜日)  晴れ のち曇り 時々雨  ロンドン


9時に朝食後、身辺整理の雑用を開始。外出して、ホテル横の通りの小売り店で、日常用品を買う。クイーンズウェイまで足を伸ばし、スーパー式のデパートで、吊るしズボンを買った。

ホテル近くのパブで昼食。サーモンを挟んだパイを食べる。イギリス料理らしいが、旨かった。


午後、コインランドリーで多量の洗濯。その後、バスに乗ってオックスフォード街へ行く。先ず、グレイハウンド社の支店で、近づいたアメリカのバス旅行のタイムテーブルを求めるも、残念ながら置かれてい無い。「現地で、どうぞ……」とは、支店の役目を果たしていない。仕方がなく、オックスフォード街の百貨店を見物。売り場に展示中の背広やコート類は、実に立派で贅沢。さすがに「紳士の国」だ。毛織物の階へ行き、セーターを1つだけ買う。……また、バスでホテルに戻り、日課の体操をして、シャワーを浴びた。


夕刻6時、再び外出。地下鉄で、テムズ河南岸のウォータールー駅まで行き、そこからヤングヴィック・シアターまで歩く。前衛演劇の小劇場で、周辺は閑散として、ヒッピー風な若者たちが集まっている。……

劇場付属の立食のカフェで、ハンバーガーと珈琲を注文、簡単に夕食を済ませる。と、何やら異臭が鼻を突いた。マリファナか?僕には解らない。……場内へとはいる。一見して、ここが極めて異色の小劇場、閉ざされた室内の、実験的な演劇空間であることを痛感! コンクリートの床の中央に、白い木製のT字形の舞台が置かれ、その先端に2つのマンホールが開けられ、そこから人物が出入りする。舞台平面の後方は、1段高い。舞台から数メートル離れた三方向の周囲には、2階造りの客席が設けられ、赤い木製の簡素な椅子が置かれている。客席数は、500人程度か。何にしても、殺風景な劇場である。客の入りも淋しい。

夜8時、開演。演目は、ベケットの『エンド・ゲーム』で、登場人物4人のモノドラマ風の軽い悲喜劇。当劇場専属のフランク・ダンロップの演出。僕が、この公演の良き観客であったとは、けっして言えない。

早くも9時半、あっけなく終演。場外へ出ると、降りしきる雨。タクシーを探して、ホテルに帰る。


自室で絵葉書を書き、12時頃に就寝。



9月28日(火曜日)  曇り  ロンドン


9時、地下の食堂で朝食。午前中、いささか疲労を覚え、ベッドで横臥。

昼食は、ホテル近くの旅行者用の小レストランで。食欲なく、簡単にサンドイッチとスープ。

午後は、コインランドリーで洗濯。その後、体操をして、シャワーを浴びる。


夕刻4時、外出。薄ら寒い。バスに乗り、オックスフォード街へ。書店ビル・ブックスを見る。市内でも、一流の店とか。書棚には、船・星・詩・ドラマといった式の分類で、多くの豪華本が並ぶ。店内静寂で、喫煙自由、紳士的な青年客が多い。新宿の紀伊国屋のようにエスカレーターはなく、階段のみ。図書館風な書店とでも言ったらいいのか。街中なのに、東京の書店にはない、風格と落ち着きを感じた。……


そこから地下鉄で、南岸のウォータールー駅まで行き、オールドヴィツク・シアターのチケット・オフィスで当日券を無事に入手。5時半になつていた。開場まで時間があり、昨日のヤングヴィック・シアターの付属のカフェまで移動、夕食代わりに、またもやハンバーガーを食べ、珈琲を飲む。

6時40分、開場。オールドヴィツク・シアターの内部は、豪華だが簡素。ロビーは狭く、入り口近くにブック・ストアがあり、プログラムを販売。3階席は、別の入り口から上る。客席は、さまで広くない。世界に知られたロンドン有数の劇場だが、その実質的な規模は、中劇場クラスと考えていい。ここでは、ウエスト・エンドの劇場のような、場内での飲み物の販売が見られない。


7時半、開演。直前に国歌の演奏あり、全員起立。(市中のケンブリッジ劇場では、この開演前の国歌の演奏は無かった。) 演目は、ゲオルク・カイザーの諷刺喜劇『キャプテン・コプニック』で、カイザーは戦前ドイツの表現主義の劇作家。内容を理解するのが、かなり難しかったが、構成的な多くの場面の転換を、回り舞台やセリの上げ下げを駆使して、きわめてスムーズに見せるので、さほど倦怠感は無かった。

1階後方の席だったが、前方には、戯曲集を片手にして観賞する数人の若者たちがいた。ここは市中の商業劇場とは異なり、研究的で教育的な要素も含む、半公的な劇場なのである。……


10時15分、終演。カーテンコール数回。劇場前の狭い通りが、開放された観客で溢れ、なかなかタクシー

が拾えない。やっと乗車。と、運転席の隣りの助手席に、立派なスーツが吊るしてある。どうしてかは分からないが、見慣れない景色だ。パリのタクシーでは、助手席に愛犬がいたのを思い出す。……


11時、ホテルに帰る。12時、就寝。




◎写真は   オールドヴィツク・シアター場内の客席 (亡母遺品の絵葉書)