銀河隊のために女学生が作った高度方位暦
3000キロを飛んで太平洋のウルシーまで特攻した梓特別攻撃隊。誘導役の二式大艇と爆撃機銀河24機の特攻隊でした。
神野正美氏が梓特別攻撃隊の奮闘について詳細に調査し『梓特別攻撃隊 爆撃機『銀河』三千キロの航跡』（光人社NF文庫）にまとめて下さっていますが、その「あとがき」を読んでいたら、「戦場に輝くベガ ―約束の星を見上げて」というプラネタリウム番組があると書かれていました。
神野氏のこの本の中に、太平洋戦争後半、銀河の搭乗員達のために、府立第一高女や第二高女の女学生たちが勤労動員で海軍水路部の仕事として「高度方位暦」を作成していたと書かれていました。
「高度方位暦」とは、特定の星の高度のみを計測すれば時間との照合で、現在の航空機の飛行位置を簡略計算できる簡易航法表。戦争後半では熟練の偵察員が少なくなっていましたから、ベテランではない偵察員でも航法ができるよう、「高度方位暦」を渡していたのです。その「高度方位暦」を女学生たちが計算して作っていたのでした。府立第一高女や第二高女の女学生たちは優秀な学生だということだったのですね。海軍航空隊の戦いを、裏で女学生たちが支えていたとは。知らなかったなあ・・・。
彼女達は懸命に計算して「高度方位暦」を作り、先生に引率されて、香取航空隊にいた攻撃五〇一飛行隊に持っていき、航空隊で歓待を受けたことが書かれていました。航空隊の中を案内してもらったり、当時の普通の家庭では食べられなくなっていた食べ物をご馳走になったり。女学生たちと航空隊の搭乗員たちは、和やかな交流の時を過ごしたようです。
その時女学生たちは慰問袋を持っていって搭乗員たちに渡しました。その一つを受け取った岸本篤三大尉から一人の女学生のもとに丁寧なお礼状が届いたと書かれていました。この女学生と岸本大尉の間に交流が生まれたりしないのだろうか？と思ったのですが、岸本大尉はまもなく沖縄航空戦で戦死してしまったということでした。
海軍兵学校卒業生名簿で調べてみると、岸本大尉は広島出身、海軍兵学校69期卒、攻撃五〇一飛行隊長。最終階級は少佐で、南西諸島で戦死となっていました。
プラネタリウム番組「戦場に輝くベガ」
このエピソードを基に、2006年山梨県立科学館で「戦場に輝くベガ」のプラネタリウム番組が制作されたそうなのです。
銀河の偵察員である飛行予備学生出身の和夫と、「高度方位暦」を計算する女学生の久子の淡い恋と、ベガを通じて繋がる二人の心、そして戦争の悲惨さが描かれている番組ということでした。
当時は大変話題になり、多くの人々が見て感動したそうなのですが。
もう20年近く前のことです。
どこかのプラネタリウムで「戦場に輝くベガ」を見れないだろうかと探してみたのですが、見当たらず。
ここ数年は上映されていませんでした。
しかし、今年、2025年8月30日に、栃木県の小山市立博物館で、プラネタリウムではないですがスクリーン上でこの「戦場に輝くベガ」が一日だけ上映されることを知ったのです。
銀河について調べ始めた今年、奇遇にも「戦場に輝くベガ」を見る機会を得られるということに感謝でいっぱいです。
小説版『戦場に輝くベガ』
「戦場に輝くベガ」は小説化もされています。
鈴木一美・浅野ひろこ著『戦場に輝くベガ ：約束の星を見上げて』（一兎社）で、Kindleでも読めます。
主人公の一人、銀河の偵察員を務める和夫は、海軍飛行予備学生第13期という設定で、和夫を慕う久子は女学生で、勤労学生として海軍水路部で「天測表」を懸命に計算して作ります。
和夫は海軍少尉として銀河に乗りサイパン攻撃に出撃、そして梓特別攻撃隊の一員としてウルシーにも出撃します。
遠く離れた和夫と久子を繋ぐのは、夜空に輝くベガ。ベガを通じて二人は心を通わせます。
ネタバレになるので、これくらいで止めておきますが、涙なしには読めない一冊です。私は泣きすぎて、翌日、まぶたがはれましたわ・・・。
神野氏の本にも、銀河隊の搭乗員達のそれぞれの家族や好きな人への想いが収められていますが、搭乗員達のほとんどが結婚前の20歳前後の若者です。好きな相手もいたですよねえ。現代なら、恋バナを咲かせている年齢です。
ただ自分達の命が長くはないと覚悟していた銀河隊の人達は、好きな相手がいてもなかなか自由にその気持ちを吐露することはできなかったと思いますけれども・・・。
誰かを好きになる。大切に思う。相手の幸せを願う。
そういう気持ちが、今よりもずっと重みがあって、切なくて、貴いものだった時代があったのだなあとじーんときます。
