商社の仕事に疲れて、マッチング家事代行の仕事を始めた永井津麦28歳。
「家事ならできる」と、次の仕事までのつなぎのつもりだったんだろうけど、
家事は家ごとに違うもの。
理論や定石、技術はあるけど、それが訪問先の現場で通用するとは限らない。
どう活かすのか。依頼されたお客様の暮らしを知ることが、最初の一歩。
お客様がどんな風に暮らしているのか、何を大切にされているのか、知ることから始まるのだ。
良い物語だった。
心に残った言葉たちを書き留めておく。
p.55
家事は、積み重ねですよ。一つ一つは本当に、地味な作業です。コップを洗うとか、玉ねぎの皮をむくとか、そういう。(安富さん)
p.62
どんなにはた目には派手で、気楽で、美しく見えても、その地味な家事がないと生活は立ち行きません。生活は、誰に見せるためでもなく、営んでいくものです。その生活をどう営んでいくかによって、人は生きやすくも、生きにくくもなるんですよ。(安富さん)
p.79
あんたの『これまで』は知らんの。お願いしたのはうちなの。(織野朔也)
p.80
台所に置いてあった、ポテトチップスの緑の蓋、捨てただろ。あれは、昌が集めてたんだ。メンコみたいにして遊んでたんだよ。子どもってそういう、ゴミみたいなもので、遊ぶんだ。(朔也)。
p.101
「ある時。妻が室内に干した洗濯物の干し方が気になりまして、干し方を変えたことがありました。妻は、長いものと短いものを交互にピンチハンガーに干していたのですが、私はテレビで『室内干しの場合はアーチ型に干す方がいい』と言っていたので、そのように変えたんです
「妻は、怒りました。『なんで勝手にそんなことするの。私だって頑張って家事をしているのに。何も言わずに変えるなんて、ひどいと」
「何も言わずに変える方が、お互い衝突せずに済む、とさえ思っていました。波風立たない方がいい、と。今なら、浅はかだったなと分かります。妻を傷つけていたんだ、言われて初めて気が付きました」
p.102
「たとえ夫婦であっても、何も聞かずに『相手が何をしてほしいか汲み取る』なんて、大層難しい問題です」
「一度やればおしまい、というわけにもいきません」
「節目節目で、何度もケンカをして、話し合いを重ねて、それでなんとか生活は回っていくのだと私は思いますよ」
(安富さん)
p.142
家事はたった一度で、人の価値観を変えてしまうようなものではない。
たった一度では無理でも、諦めて終わらせてしまわなければ、少しずつ変化は起こるのかもしれませんね。
(安富さん)
p.178
(朔也の辛さを)それを救うのが私達の仕事です。生きやすくなるようにする。そのための家事なのに、家事をやって、もしくはやらなきゃって思って、逆に苦しくなっちゃったらだめなんですよ。(津麦から朔也へ)
p.182
習慣づけには、低い目標から始めていくのが基本だと学んだ。だから、今までと同じ動作にプラス、ほんの一さじ。簡単に作業できるところから始める。