緻密、の一言に尽きます。
犯罪グループ「レディ・ジョーカー」、企業、警察、記者、そして彼らを取り巻く様々な人間たち。政治、社会。

それぞれの立場の視点、そしてその組織が一枚岩でない複雑な構造をしていて、そのある一つの組織の中にいる個人としての視点、すべてがみっちり描かれていて、息苦しいぐらいです。

いつもあるのが、社会の中にいる一個人が抱える空虚で、その空虚といかにつきあおうとするのか、どのように捉えようとするのか、社会に対して牙を剥くのか、己を傷つけてしまうのか。
ひとりひとりの人生が、登場人物が互いに評し合うことはあっても、作家によっては肯定もされず否定もされず、生々しく描かれています。

何を悪とするかその基準はしっかりある。そういう意味では安心して読めるといえばそうかもしれません。
ただ、その悪が告発され罰せられているかというと、実際にはそんなシステムは作動していない。そんな事実が容赦なく突きつけられてきます。

犯罪を犯す人間が何らかの目的をもっているかどうかはいつも明らかなわけではないし、犯罪者を追う側の人間が常に正しく美しいわけではない。
お話の中には理不尽な苦しみを背負う個人、報われない個人、埋没する個人がいて、それは現実を的確に捉えたものだと思います。

この複雑さ。
描ききろうとする作家の執念には脱帽です。

そして、私が好きなのは、苦悩する人間に対する作家の優しさです。
この小説の中では、死というものがきちんと重みを持っているところも。

読んで心がウキウキするような本ではないですが、読む価値のある本だと思います。

それにしても男だらけなのですが、それもまた潔いですね。

2010/8/17 読了

高村 薫
新潮社
発売日:2010-03


高村 薫
新潮社
発売日:2010-03


うーんと、生々しいのですが、合田刑事と加納検事が美貌なので、そういうところでちょっとフィクションぽくなっていることもあるのか、やっぱり小説として面白いと思うのです。
また、常に緊迫していて冗長なところもない(だから疲れるといえば疲れる)。

「これだったら、ノンフィクションドキュメンタリーとして書けばいいじゃん」という感想を持つ本がときどきあるのですが、そういうのではないのです。

硬質の理路整然とした文章で、寄り添いながらも超客観的に突き放して書いているような印象で、最初は少し読みにくいかもしれませんが、ハマるとヤミつきになりますぞ。


個人的には、組織の中に埋もれ踏まれながら、「いつか自分は組織をひっくり返すようなことをしてやる」と妄想を繰り返し、そのたびに自虐に陥っていく半田刑事にはいろいろ「あああー」と思うところがありました。