さて、続いて『カティンの森』の感想を。


監督:アンジェイ・ワイダ

出演:マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ

公式サイト:http://katyn-movie.com/pc/


■お話■

1939年、ポーランド。ドイツの侵攻から逃れるため、アンナは娘のニカを連れて東へ向かっていた。だが、東からは、ソ連軍に追われた人々が逃れてこようとしていた。

アンナは夫のアンジェイ大尉と再会を果たすが、アンジェイたちポーランド軍将校はソ連軍の捕虜となっていた。

収容所へと移送されていくアンジェイをなすすべもなく見送ったアンナとニカは、彼の帰りを待ち続けることになる。


1943年、カティンでポーランド人将校の遺体が多数見つかったことがドイツ軍から発表される。

犠牲者のリストにアンジェイの名はなく、安堵するアンナだったが……。


この映画は、「カティン事件」という実際にあった事件をもとにして作られた映画です。

ソ連軍は、4000人を超えるポーランド将校たちをカティンに連行して虐殺しましたが、1989年にエリツィン大統領が認めるまで、ドイツ軍が行ったことだと主張し続けてきました。

戦後のポーランドは実質ソ連の影響下にあったので、「カティンの森事件」について真相を知っている者も、声高に告発することは許されなかった。

このへんぐらいまでは、映画をみる前に頭に入れておくといいかも。

本当はもっともっと知っておくといいのでしょうが、映画が教えてくれると思います。


強国にはさまれた国がどういうものか、島国の日本ではなかなか想像しがたいものですが、最初の、橋の上で東と西から逃げてくる人々がすれ違うシーンで、その絶望的な状況が一発でつかめます。


映画は、アンナだけではなく、アンジェイの母、大将夫人とその娘、将校の兄を持つ女性、いくつかの物語が交差しながら進んでいきますが、全員がお互いになんらかの関係を持っていることもあり、突然わけがわからなくなった、ということもありませんでした。


戦争を背景に家族や恋愛やなんやらを描いたもの、というよりは戦争の中で翻弄され続ける人間たちを通して戦争を戦争として描いた、悲しいけれど感動的な映画でした。

余計な感情の吐露のシーンとか、わかりやすいけれどともすれば白けがちになるような表現はなく、そういう意味では淡々としていると思いますが、映画全体を、哀しみと憤りとがずうっと流れているように思いました。

映画をみてこんなふうに感じたのは初めてでした。


虐殺のシーンもあります。

ソ連の兵士が、一連の動作を機械的に繰り返して、後ろからピストルで撃って死体が穴に落っこちる。

その繰り返し。

そして、ブルドーザーで土がならされ、何にもなかったみたいに埋められてしまう。


こわいし、悲しかった。

殺されていく将校たちの恐怖と無念ももちろんそうだけれど、殺していく人間にしても、人間ってこんなこともできてしまうのか、と思うと本当につらかったです。

人類全体について、悲しいと思わされた。


そして、エンドクレジットは無音。


監督自身が戦争を知っていて、実際にお父さんをこの事件で亡くされているそうです。

戦争の空気、経験した者にしかわからない感情、こういうものを戦争を知らない若い監督が撮るのは難しいと思う。

でも、だからこそワイダ監督は、それを若い世代に伝えようとしている。

記録としても貴重な映画なのではないでしょうか。


ちなみにこれ、ロシアでは上映される予定がまだないそうです。


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