歯医者が嫌いである。

2013年9月、最初の胸腔鏡手術を控え、執刀医だった坪井正博医師の厳命により口腔ケアのため歯科医を訪れた。手術前に口腔ケアを行う事は手術の合併症のリスクを低減させる。坪井医師はそういった事には、きちんとした外科医だった。
その時歯科医は私の口内に虫歯は1本も無いと告げた。

それ以来、歯医者に行っていない。

2014年12月、2回目の胸腔鏡手術を行ったが、坪井医師は既に国立がん研究センター東病院へ転勤され、私は嫌いな歯科医へ行くことを免れた。

なぜ歯医者が嫌いか。
あの歯科医の椅子に腰かけて口を開けるのは、いかにも無防備で、これから歯医者が何をするか分からないと考えると、激しい緊張感に襲われる。椅子に座っている間中、身体がコチンコチンに硬くなる。
あの歯科衛生士という女どもも嫌いだ。歯石取りの際ゴリゴリ音を立ててスケーラーでそこいらを引っ掻く。現に痛いし口の中が、出血で真っ赤になる。野蛮人。

8年近く経過し、実はその間に虫歯が多数できた。自覚しているだけでも6本ある。歯茎も少し後退してきている。本当は歯医者に行くべきなのだが、幸いにも虫歯は痛くないし、元々嫌いだし、そうこうしている内にコロナ禍が始まって、行く気は全く失せた。

私の歯は元々頑丈なのである。
特にエナメル質が他人様よりも硬い。象牙質は並みである。
しかし経年劣化で象牙質が溶けてしまい、エナメル質だけで支えていたのが支えきれなくなってエナメル質が陥没するという事件が40代の後半頃起きた。起きたのは第一臼歯。上下左右4本全部やられた。当時そこを差し歯で処置した。

先週火曜日(6/8)朝、歯を磨いていると、コトコトと何か小石のような物が落ちる音がした。拾い上げると右上の差し歯(パラジウム合金のはず)である。外れ落ちてしまった。

こうなっては歯医者に行かなければならない。

翌日(6/9)予約外で歯医者に行った。初めて行く歯科医。そこは女房・息子が時々行っており、彼らの間では評判が良い。

問診票を書かされる。肺がんステージ4なので2年程度保てればいい。最低限の治療を望む、と書いた。
一般的に歯医者は治療が必要な箇所以外にも、いろいろ不具合を見つけて処置しようとする。また不具合が無ければ定期健診やクリーニング、歯磨き指導をやりたがる。
まっぴらである。私は歯の治療やメインテナンスをするために、生きているのでは無い。

対応に当たった歯科医は感じのいい人で、私の病状を考慮し、最低限の治療にしましょうね、と言ってくれた。

まず転げ落ちた差し歯が何とか戻らないか、いろいろ試みる。しかし土台が虫歯になっていて安定的に戻らない。
とりあえず空洞になった場所にセメントを詰めてその日は終わりになった。
この後虫歯部分を削った上で新たな差し歯を被せるものと思われるが、これはまた先の話である。

私の中で歯医者に対する印象は少し変わったが、依然嫌いなものは嫌いである。