幼馴染のA君
A君
君と最後に会った日から、もう10年以上経ちました。
僕は、君と遊んでいたあの頃とちっとも変わってなんかいないのに、
一端に「エンジニア」などと呼ばれる人間になったようです。
今日は週末だというのに、オフィスで独り仕事をしています。
「エンジニアとはかくも割に合わない仕事だ…」と独りごちたところで、
僕が生まれて初めて見た、「エンジニア」さんを思い出しました。
そう、君のお父さんです。
君の家には、僕をわくわくさせるものがたくさんありました。
パソコン、ファミコン、ディスクシステム、2段ベッド。
それに、池まである広いお庭も、僕の憧れでした。
そして学校でも、いつも僕は君の後ろにいました。
ちょっとやんちゃだったけれど、強くて賢くて面白い、それが君。
君が家族の都合で中学校に来なくなってからも、
仮家のアパートに何度も押しかけてしまいました。
A君…
…今、君はどこにいるのでしょう。
会って、「ありがとう」が言いたいです。
今の僕のルーツは、間違いなく「君」なのです。
君のように「強く」も「賢く」も「面白く」もないけれど
いつも、それを目指して頑張っています。
いつか、君に会えた時には、
僕は立派な「エンジニア」になっているはずです。
君のお父さんのように。
だから、楽しみにしてて下さい。
それじゃあ、仕事に戻ります。
またね。ありがとう。
あり君。
PS.
君と良く遊んだファミコンソフトを買いました。
プレミアが付いていて、少し高かったのだけれど
思い切って買いました。
次会った時は、これで遊ぼう。約束です。